機動と射程について

まずこの記事における用語定義から。

機動=個人または団体、ユニットや駒が狙いを持って移動すること。

射程=攻撃でも回復支援でもその主体者が目標に対して有効なはたらきかけをおこなえる距離の長さ

間合い=主体者と目標の距離

位置取り=様々な要素から最終的に最適だと思われる位置取り


まず最初の段階は自分の射程を考えて、目標との距離を調整するところから始まる。射程外の相手には働きかけること自体ができないのだから当然だ。

次の段階は敵対する相手の射程外に身を置くことだとか、味方の支援者の射程内に身を置くことになる。要はマイナスの影響はなるべく少なく、プラスの影響はなるべく多く受けるということだ。

既にこの時点で結構ジレンマが生じている。たとえば自分の攻撃をぶち当てるためには相手の射程内に入らなければならない場合が大半だ。

わかりやすくするために敵対者とのタイマンに絞って書くとパターンは4つに分類される。

①自分も相手も射程外
②自分だけが相手を射程内におさめている
③相手だけが自分を射程内に収めている
④自分も相手も射程内

自分と相手だけの関係でいえばこの4種類でMECE(ヌケモレなし)である。弾切れで射程が変わろうが、空間転移をしようが、次元断層に潜もうが、無敵のバリアを張ろうが同じことだ。

4分類のうち②は目指すべき理想、③は避けるべき事態だ。大体において「射程が長い方が有利」なのは先手を取れることもそうなんだが、なによりも②もしくは③で「自分は安全なまま一方的にぶん殴れる」という状況を作り出す権利が得られるからである。

将棋でいえば大ゴマがなぜ強力かと言えば「大概の相手の駒よりも射程が長いから」である。リアル世界では北朝鮮のミサイルの射程も非常に重要な問題だし、スポーツでいえばロングシュートが打てるというのはそれだけで相手にとって脅威となるわけだ。

とはいえ、大概は①ではじまり④になってクロスレンジでの殴り合いに突入することが多い。射程に違いがあれば④になる直前に②もしくは③が生じる瞬間があり得るわけだが。

①の時に真っ先に考えるべきは何か? 「自分と相手それぞれの勝利条件、敗北条件」だ。

たとえば「逃げ切って生き残れば勝ち」ならば仮に自分が圧倒的に射程や火力で有利でも無理に戦う必要すらない。そのまま逃げてしまえばいい。まあ逃げる方向に敵が位置してたら突破することになるわけだが。逆に逃げられたらアウトな場合は多少先手を取られ、被害を受けてでも間合いを詰める必要がある。

そのうえで彼我の機動力、射程と火力や装甲、回避能力や弾数、攻撃回数、手数を考える。どの距離で戦うのが有利なのかはおのずと見えてくる。

相手の弾数が1発ならば、その一発さえ上手く無力化できれば、射程の関係で逆転できるかもしれない。火力や手数で不利ならば猛突進をしてクロスレンジの消耗戦に持ち込むべきかもしれない(白兵キャラ、ファイタータイプのボクサーと射撃キャラ、ボクサータイプのボクサーの差し合いが発生する)。

そういえばコンベンションなどで、いわゆる「軍師様」とか「名探偵」のようなキャラを演じたがるプレイヤーを見かけることがあった。単なる強い戦士や魔術師を演じるよりもはるかに難しい。理由は簡単で「単に数値的な優位性のみ」では厚みがまるで出ないからだ。

戦士や魔術師ならば要は「数値的に威力の大きい攻撃」があれば主な要素はそれで埋まる。だが、「読みの深さ」という数値化できない要素が主体の「軍師様」や「名探偵」はそうはいかない。データ的な強さだけでは説得力が出せないわけだ。

もしそういうキャラを演じたいのなら、「戦略・戦術・戦法」とか「仮説構築」についての基本的な概念だけでも自分なりにまとめておくとよい(仮説構築についてはまた別の機会に書くが)。実は一つ一つはさほど難しいものでもない。上っ面のセリフや雰囲気、単なるデータ数値だけでは「軍師様」や「名探偵」は演じきれないものだと思う。

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機動力において相手より優れていれば自分の理想の間合いを実現できる可能性が大きい。何よりも「逃亡」という選択肢が有効になるのも大きい。一方、機動力において不利な場合はまるで逆の問題が発生する。拠点防衛が勝利条件の場合なら、「射程」さえあればまあなんとかなるが、相手に逃亡されたら負けという場合は相手の逃亡先にであらかじめ先回りでもしていない限り、逃げられて終わってしまう。こう考えると「逃亡」「退却」というのは「戦法」というよりも戦術や戦略レベルの判断だと言えそうだ。

攻撃側にとってより重要なのは「機動」、防御側にとってより重要なのは「射程」という傾向はあるのだろう。むろん、攻撃側の射程や防御側の機動が無意味なわけではないが。両方で上回っているとかなり有利だろうし、逆に両方で下回るとなると相応に「ペテン的な工夫(笑)」が必要になってくる。

●中間まとめ 「私なりの射程と機動の本質」とは!
「射程(自分と相手との射程の関係)」が「相手との理想の間合いを決める重要な要素」なら、「機動力(自分と相手との機動力の関係)」は「その理想を達成するための現実的な手段」となる。

「複数の敵の射程」や「味方の支援回復の射程」も考えれば、相対的に自分がどこに位置すれば有効なのかを自分の機動力の可能な範囲で考えることになる。「集中と分散」「ACF」「勝利条件と敗北条件」も考慮すればほぼ完全。

むろん、射程がいくらあっても簡単に回避されたり、防御で弾かれたりするのは意味がない。(その点、味方への支援は気楽である。無効化される心配がないので計算しやすいわけだ)。

なんというゲームだったか忘れたが、あるCPUゲームでのキャラクター作成においてあーちゃーを作っていた友人が攻撃力と防御力の数値ばかりにポイントを割り振ったところ、「弓で殴り、矢で突く」という「零距離アーチャー」が完成した。割り振り項目に「射程」があったのだが、そこにポイントを割り振らなかったためらしい。これなどは「あちゃー」という感じである。

あ、そうそう。集中と分散にも関連してくるが「お兄ちゃん、どいて! ソイツ○せない!」というのは集中した結果、「味方が味方の機動を阻害する事例」となる。密集陣形では運動性の自由さが保てない。ドイツのルーデル閣下がソ連軍のボートをつるべ打ちにしたのも「集中(密集陣形)」という愚を犯したからにほかならない。将棋の穴熊でも密集しすぎて戦力をそれ以上増やせないことを「受けるスペースがない」と表現される。

ってなわけで、様々な要素から自分の理想の配置は「敵味方の射程」から決める。そしてその理想の配置を達成するために「機動」を用いるのが戦場における位置取りの要諦となる。

なお。全部の要素をいちいち書き出して、単位をそろえて考えるのは現実的ではない。ゲームでももちろん、リアルタイムで流動的なスポーツではそんな考えてる暇などない場合が多い。私自身もせいぜい「感想戦」などで検証する場合に限られている。ただ、「考えるべき項目」として認識できていると無意識レベルで考慮して動けるような気はする(笑)。以上!

CIA(内部監査人)や行政書士資格から「ルールについて」、将棋の趣味から「格上との戦い方」に特化して思考を掘り下げている人間です。