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長岡からはじまる 〜コロナウイルスワクチン接種プロジェクト〜

1. プロジェクト立ち上げの動機


◇ 背景と目的

COVID-19終息はワクチン接種事業の成否にかかっている
国の進めるワクチン接種事業がCOVID-19終息への鍵を握っている。我が国では医療従事者への接種に続き、高齢者を対象としたワクチン接種がはじまったばかりである。一方、世界に目を向けるとすでにワクチンの効果が見え始めている国もある。イスラエルでは最速ペースで接種が進んでいる。接種を受けた人の割合はすでに6割を超え、ウイルスの封じ込めと経済再開に成功しつつある。
人種間でのワクチン効果の差については不明な部分が多く、日本において他国と同様のワクチン接種効果がみられるかどうかについては今後の検証を要する。しかしながら、他に決定的な治療薬がない現状を鑑みるに、我が国でもなるべく多くの対象者への一刻も早いワクチン接種完了を目指すべきである。

地域医療を守るため一日でも早く、一人でも多くの対象者に接種を
地域医療を守るためには、一日も早く、そして一人でも多くの対象者に接種を行う必要がある。ワクチン接種は国の指揮下に自治体主導で行われるが、自治体毎に医療リソースの多寡は大きく異なる。これはワクチン接種のペースにも影響する。
医師不足が度々問題となっている新潟県は決して医療資源が豊富であるとは言えない。新潟県は感染拡大のフェーズに合わせ最大555床の対応病床数を設定している。2021年4月16日には独自の特別警報を発令し県民に感染拡大防止への協力を呼びかけているが、残念ながら新規患者数は減少していない。もともと医療過疎地域である新潟県に残された予備能力は決して高くない。日々重症患者の入院を受け入れている県内高次医療機関はすでにぎりぎりの状態にある。
COVID-19患者の治療を行っている高次医療機関の負担を少しでも早く軽減し地域医療を守るために、我々のクリニックにできることは何か。この問への答えの一つとして本プロジェクトは立ち上がった。


2. 既存の接種方法の課題

長岡市をはじめ多くの自治体では、大規模な会場で土日に行われる「集団接種」と、かかりつけ医療機関で主に診療日に行われる「個別接種」の2つの方法での接種が計画されている。これら既存の接種方法には解決すべきいくつかの課題があり、長岡市内15万人以上におよぶ接種対象者にスピード感をもってワクチン接種を完了するためには後述する「分散型接種」も考慮していく必要がある。

集団接種の課題
集団接種は、医療リソースを集中することで効率的に接種を行うための接種戦略である。特に医療資源の乏しい地域については重要な役割を果たす。ただし通常の集団接種には下記のようにいくつかの問題点がある。接種希望者の生活スタイルに合わせたフレキシブルな接種機会を確保しつつ、接種スケジュールを分散することが重要である。

【働く世代の接種が土日の集団接種に集中してしまう】
もし個人の判断に任せて接種を計画すれば、特に働く世代の接種は自ずと土日の集団接種に集中する。土日への接種希望の集中は接種の遅れを招く。また、発熱や倦怠感、注射部位の痛みなどは接種の翌日に起こることが多い。働く世代への接種を土日に集中させてしまうと市民生活やまちの機能に影響が出ることも考えられる。

【高次医療機関の土日の負担を増やしてしまう可能性がある】
また接種後の副反応への対応面でも土日への接種希望の集中は望ましくない。非常に稀にであるが起こりうる重篤な副反応にアナフィラキシーがある。アナフィラキシーへの対応には多くの場合、入院施設を有する高次医療機関での加療が望ましい。しかし土日にはこれら高次医療機関の人手も手薄になる。アナフィラキシーは接種の当日に起こる可能性が高いため、土日への接種集中によって高次医療機関への負担が増してしまう可能性がある。これらの高次医療機関は多くの場合、COVID-19患者の治療を負担している機関であることにも留意すべきである。

個別接種の課題
個別接種では、かかりつけ医での接種を希望する対象者を想定している。持病をかかえる対象者にとって普段診てもらっている医療機関で接種を受けられることは大きな安心につながる。持病のある対象者に対して接種行動を促すメリットもある。また集団接種への希望者の集中を分散する意味でも個別接種は非常に重要である。

【個々の小規模医療機関の接種キャパシティは決して大きくない】
ただし、クリニックなど小規模な医療機関では1日に接種可能な人数には限界がある。多くのクリニックでは日常診療の合間に接種を行うことになる。もしくは固定の接種枠を設けて対応することになるかもしれない。これら時間的な問題に空間的制約も加わる。コロナウイルスワクチンは接種後15分の待機時間が必要であり、待機場所を確保する必要があるためである。また、可能性は低いが重篤な副反応が出現した場合には他の診療を止めて対応することになる。これもクリニックにとっては大きなプレッシャーとなりうる。

【個別接種成功のために行政、民間、クリニックの協力が不可欠】
一つ一つのクリニックで接種可能な人数に限界があるが、市内クリニックから多くの協力が得られればその力はとても大きなものとなる。一施設でも多くのクリニックに個別接種に協力いただくことが重要である。個別接種成功のためには、行政、民間、クリニックが一丸となって取り組む必要がある。


3. プロジェクト概要


◇ われわれのクリニックにできること

全てのスタッフの力を投下して臨む
ワクチン接種には医師のみならず看護師、事務に加えて運営スタッフなど、多くの人的資源が必要となる。エールホームクリニックには医師6名の他、看護師8名、事務8名、臨床検査技師3名、運営スタッフ4名が在籍する。さらに土曜日の集団接種の際には、共栄堂薬局からの協力を得て、毎回薬剤師2名を派遣していただくことも決定している。加えて注射、待機を行う場所、駐車場などの設備面においても比較的広いスペースを確保できる。我々のもつこれらの設備・人的資源をフルに活かして個別接種、分散型集団接種を全力で推し進めていきたいと考えている。
我々のクリニックが積極的に個別接種、分散型集団接種をすすめることでクリニックの協力方法について一つのモデルケースを示したい。我々の活動が、他のクリニックが接種に前向きにとりくんでいただくきっかけなってほしいと考えている。


◇ 個別接種

われわれのクリニックでは平日1日あたり最大250人への接種が可能であると見込んでいる。通常の診療を継続しながら接種を行うため、診療時間内は20-30人/時間、昼休み時間帯は40人/時間を最大接種可能人数として算出した。さらに土曜日には、最大50人/時間の接種を8時間行い、1日で最大400人の接種とする計画である。
昼休み中の接種は先に述べた分散型集団接種に向いている。官公庁、企業の接種を昼休み時間帯に行えば業務への影響をあまり出すことなく多くの希望者への接種が可能となる。ただしこれを実現するためには、行政および民間の協力を得て、接種の対象となる官公庁、企業側にもコロナワクチン専任担当者を置き対応していただく必要がある。


◇ 分散型集団接種

我々のクリニックでは、平日診療時間帯の個別接種に対応する他、平日昼休み時間帯や土日には、団体などを対象に広義の集団接種を行うことを検討している。
具体的には、官公庁や県内企業を対象として計画的に集団接種を行いたいと考えている。土日のみならず平日にも接種機会を提供することで接種スケジュールの分散ができる。われわれの取り組む分散型集団接種と個別接種、自治体主導の集団接種とを合わせれば接種事業の大幅なスピードアップが可能となる。

分散型接種で副反応のタイミングも分散できる

接種のスピードアップの他にも副反応のタイミングも分散できるメリットも大きい。
接種スケジュールを平日に分散することは、接種の翌日もしくは翌々日に起きやすいとされる副反応のタイミングを分散することにつながる。これにより、企業活動やまちの機能への影響を最小限にコントロールできる。
また、接種直後に起こりやすい重篤な副反応であるアナフィラキシーのタイミングも分散できる。重篤な副反応が起きた場合、高次医療機関での治療を要することになる。高次医療機関は土日には手薄になる。平日日中の方が土日と比較してマンパワーに余裕があり対処しやすい。高次医療機関への潜在的な負担軽減にもつながることが期待できる。


◇ 「長岡モデル」の構築

我々は今回の経験を通じて、未来につながるワクチン接種の「長岡モデル」を構築したいと考えている。もし今回のワクチン接種事業が国家規模で成功し、COVID-19が終息したとしても決して楽観視はできない。変異型ウイルスの出現により、COVID-21、22など次々と新たな感染症が台頭してくる可能性がある。そのため、今回のワクチン接種を単なる作業として行うのではなく、医療者として知識や経験を蓄積しながら迅速に行っていく必要がある。
将来同じようなパンデミックが起きた際、いかに地域のリソースを集約し、スピード感をもってワクチン接種をすすめるのか。どのようにして行政、民間、病院・クリニックが連携をはかりワクチン接種を行いパンデミックの終息を目指すのか。クリニックには何ができるのか。ノウハウを集積し、未来につながる行動指針として「長岡モデル」を示したい。


4. 実現に向けて必要なこと


◇ 行政、民間との協力

ここまで述べてきたことを我々の力だけで実現することは難しい。効率的な個別接種と分散型集団接種を行うためには行政のみならず民間の協力が不可欠である。
個別接種は基本的に対象者の希望した施設で行われる。対象者の希望だけで接種施設を割り振った場合、施設間に接種希望者数の不均衡を生じる可能性がある。キャパオーバーとなる施設や逆にキャパシティを活かしきれない施設もでてくるだろう。居住区に基づいて接種施設の割り振りを行う、かかりつけ医で接種困難な接種希望者がいた場合にわれわれのクリニックで接種を受けるよう案内する、などの行政の柔軟な対応が必要である。
分散型集団接種についても行政・民間の協力が不可欠である。具体的には、われわれのクリニックを実質的な集団接種施設に認定していただくとともに、官公庁や銀行、市内に拠点をおく県内企業などに、行政から積極的に協力を呼びかけるなどの協力をいただきたいと考えている。


◇ 高次医療機関との連携

高次医療機関との連携も不可欠である。ワクチン接種の稀な副反応としてアナフィラキシーが挙げられる。初期診療については個別接種会場でも対応可能だが、アナフィラキシーの場合は原則入院が必要となる。その場合、高次医療機関への搬送が必要となるため、事前に対応を打ち合わせておくなどの密な連携を要する。


◇ 市民への啓蒙

コロナワクチンが新規に開発されたmRNAワクチンであることやインフルエンザワクチンなど従来のワクチンに比べて副反応が多いなどの理由から不安を感じている接種対象者は多い。市民への啓蒙活動を通じて接種行動を促していくことも不可欠である。

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