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丹田の構造

丹田と重心


人間はまだ人間として完成されていないのかもしれません。
この人間の身体を完成させるために形成されたのが丹田である、というお話です。仮説的な部分もありますので、それを考慮してお読みください。

もちろん、丹田というのは感覚的なものなので、解剖しても見つからないのですが、なぜ、東洋の古代人はこのようなものを身体に設定したのでしょうか。

まずは、丹田は重心と関係している、ということから。

人間の重心は骨盤内にあると言われてますが、動物が二足歩行した場合、人間よりも上の位置に重心はあります。

この黒丸が重心の位置です。
動物は四つ足の場合、重心は人間よりも低い位置にありますが、これが仮に直立すると、人間に比べて高重心になります。そして、この高重心で二足歩行すると、重心動揺が大きくなってしまい、エネルギー効率が悪くなってしまいます。この高重心から低重心へとシフトさせるのが丹田の役割となります。

丹田が重心であると考えられていたのは、江戸時代の書物からわかります。

このように臍下丹田を中心に身体を使うように描かれています。
物質の中心の重さ(質量中心)が身体の重心点にかかることが、最も効率よく物を持つことにつながります。ですから、生活する全ての動作時に、臍下丹田を意識すると、効率よく快適に動くことができるのです。よかったら、これを期に、毎日の生活で丹田を意識してみてください。重心点に意識を置くだけで、身体は自動的に効率よく動こうとするはずです。

丹田と腹圧

丹田のもう一つの要素は腹圧です。
こちらをご覧ください。

鳩尾が凹んで下腹部が膨らんでいますね。
瓢箪(ひょうたん)のような形をしているので、これを「瓢腹(ひさごはら)」と言います。
鳩尾は力を抜いて、下腹部を充実させる、これを「上虚下実」と言います。
このように下腹部が膨らむのは腹圧(陽圧)をかけているからです。腹圧がかかると、身体の構造物(内臓)が下腹部の骨盤内に収まります。そうすることで重心が下がる低重心の構造になるのです。

腹圧をかけると腰椎への負荷が2割ほど減ると言われており、天然のコルセットのような役割をしています。ですから、身体を動かして作業する時には腹圧は必要です。また、腹圧は小便・大便を出す時にも用いられます。ですから、人間にとって腹圧とは重要なものです。

この内臓を収める人間の骨盤は、哺乳動物に比べて開いており、お椀型になっています。人間の脳・頭部が大きくなったからです。骨盤を開くことで、大きくなった脳を収納することができるようになります(そして、更に脳を大きくするために、人間は未熟児のまま出産し、出産後に更に脳を大きくするという戦略に出ます)。

この胎児の脳を収納するスペースに腹圧をかけることで内臓を収納し、低重心を体現する、これが丹田の構造であると考えられます。このことから、人体は母胎を想定してデザインされたという母胎説もありだと思います。

胎児が骨盤内に存在することでバランスが取れるように人体はデザインされており、胎児がいない場合は腹圧コントロールによってそこに内臓が収まる、というのが丹田です。ですから、丹田と子宮は関係している可能性があります。

丹田とは元々、道教の用語です。この道教では、下腹部に胎児をイメージする瞑想法があるのです。このことからも、丹田は胎の思想と関係していることがわかります。

出典:慧命経

この母胎説は、また別のところでお話したいと思います。

話は戻して、
この低重心体がデフォルトで理想的に体現できているわけではないと思われます。もし、この低重心体が進化によって獲得できていれば、

「丹田を意識しろ!」

という教えは必要ないはずです。
丹田という文化的身体が必要なのは、人間が低重心体を獲得していないからだと考えられるのです。人間に進化するまでには、長い動物時代がありました。そこでは、重心が人間よりも上にあり、この動物時代の重心位置が長いので、人間の重心は上がりやすいのではないかと思うのです。

日本の伝統的な身体技法に相撲があります。
相撲は押し合いをして、土俵から相手を押し出す技術を競うものですが、この身体技法を行う場合、低重心体の方が有利です。当然ながら高重心だと簡単に押されてしまいます。この相撲の低重心体を形成しているのが四股ではないかと考えられます。

四股は大きく足を左右に開いて膝を屈します。このようにすると骨盤が通常よりも開きます。そして、この状態で身体に強いテンションを下方へとかけていくことで、内臓が下腹部に収まるという低重心体を形成しているのではないかと考えられるのです。

ちなみに解剖学的な人間の重心の位置は以下です。

出典:『プロメテウス解剖学アトラス』医学書院

丹田は、この状態から腹圧をかけ、上腹部の構造物が、下方・前方に移動した瓢肚の状態です。上腹部の質量が下方・前方に移動するので、重心は下方・前方へとシフトするはずです。つまり、重心に比べて丹田は、下方・前方に存在することになります。

もう一度、先ほどの江戸時代に描かれている丹田の様子をみてください。多くの錬丹法は生理的湾曲の状態ではなく、身体を屈曲させて呼吸法と共に行います。これは江戸時代の浮世絵をみても言えることですが、腰が反った状態の人物は描かれてないのです。全て背骨は一直線か円背になっています。
ですから、江戸時代の丹田と現代の解剖学では姿勢が違うため、解剖学的重心と丹田の比較がなかなかできません。しかし、生理的湾曲を保ったまま丹田を鍛錬する方法がありました。それが肥田式強健術です。

肥田式は明治時代に肥田春充(ひだはるみち)によって創始された丹田の鍛錬法です。肥田春充は、丹田の位置を著書において明確に記しています。それが以下になります。

出典:佐々木一介『肥田式中心道強健術入門』山海堂

解剖学的重心は踝の下へ落ちるのですが、下腹部に臓器が収まると、下腹部は前方に突出するので、重心は少し前に移動します。ですから、この作図では、重心がやや前方に位置していると解釈できます。

肥田春充の著書には白隠の『遠羅天釜』の記載もあることから、伝統的な丹田の位置を当然ながら理解していたと考えられます。そして、伝統的な丹田の位置を生理的湾曲の状態で体現した場合に上記の位置に丹田が来るのだと示しているのです。これを見る限り、丹田は解剖学的重心点よりもやや下方・前方にあると言えます。

生理的湾曲の状態では、腹圧はかけにくいです。腹圧は大便をする時にかけますが、大便をする時には自然と身体を丸めるはずです。それは身体を屈曲させた方が腹圧がかけやすく、大便が出しやすいからです。腰が反った状態で大便は出しにくいはずです。ですから、腰が反った状態では腹圧がかけにくく丹田が形成されにくいのです。

肥田式がなぜ腰が反った状態で丹田を形成するかはわかりませんが、日本人が胸を張って腰を反るという近代的身体になっていく場合、この姿勢で丹田の残そう、もしくは統合しようとしたのかもしれません。

ではなぜ、丹田は重心よりも下方・前方の位置にあるのでしょうか?
それは前述した、身体を低重心にして安定させるためというのと、もう一つ理由があります。

これについては、長くなるので、また今度、述べたいと思います。

まとめとしては以下になります。

・人間はまだ低重心体を獲得していない
・胎児の脳を大きくするために骨盤を開きスペースをつくった
・身体は母胎を想定してデザインされている
・胎児がいない場合は腹圧のコントロールでそのスペースに内臓を収め低重心体を体現
・生理的湾曲の状態だと腹圧がかけにくく、丹田を形成しにくい
・丹田は解剖学の重心よりもやや前方・下方にある

ということで、また。

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