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【社会人/博士/体験記】第17回「怒るのをまつんだ……!」

こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!

このマガジンは、
働きながら、「博士後期課程="社会人"博士」
を目指す体験談です。

前回の記事はこちら ↓↓↓

さて、今回は、指導教員の先生から教わった、論文を書くに当たっての3つのポイントについて書いていきます。

1つの記事あたり、だいたい5分で読めますので、お気軽にスクロールしてみてください!


論文の起承転結

さて、いよいよ指導教員X先生の論文指導が始まりました。

X先生が言うには、

「論文を書くに当たって、まずは型を押さえましょう」


さて、どんな特別な技を教えてくれるのかと思っていた鳩ですが、
これが案外普通で、示されたフレームワークは「起承転結」でした。


(起承転結か……はなから起承転結か……それでもいいけどなあ)
という顔を鳩がしていたのでしょうか、
こちらが何も言ってないのに、X先生は、
「当たり前のようで、なかなか使いこなすのが難しいんです」
と、こちらの自信が過信であるのを見透かしたようなことを言ってきます。


※この研究室は、あくまでイメージです


X先生は、「起承転結」という型の内容について、話を続けます。

○起
・自分の研究の動機を書く
・どのような展開になるかの「あらまし」を書く
 ⇒読者に納得感を持ってもらったところで、論文がスタート

○承
・先行研究等を参照して、現状を分析する
 ⇒「提起された課題は本当に意味があるのか」
  「先行研究でどこまで明らかになっているのか」
   を明らかにする
・自分の独自の仮説を提示する
 ⇒この論文からどんな新しい情報(価値)が生まれるかを示す

○転
・独自の仮説を立証する
 :文献、アンケート、ヒアリング等の調査から、仮説を論証する

○結
・改めて仮説を整理する

お……
解説があるのか、うん!
そうかそうか、そうなれば話は違う。

ここに並んだただの起承転結が、全て論文として立ち上がってきます。

これだけ解説してもらったところで、もう論文を書き終えたかのような過信に包まれていた鳩でしたが、X先生は、

「さて、ここからが本番なのですが……」
と、論文のポイントを3つ教えてくれることに。

まだあるというのか!
この先がッッ


驚いてメガネが割れました


ポイント① 怒り

「まず、起承転結の『起』ですが……」
と、X先生は話を続けます。

「鳩さんが怒っていることはありますか?」
「怒っていること?」
「怒っていることを研究の端緒にすると、いい論文になるんですよ」

突然、悟飯の潜在能力へ期待する悟空のような口ぶりになりました。


ちゃんと事前に作戦を話してくれたので、誤解がなくて助かりました


X先生いわく、
「この問題を許してなるものか!」
「この問題を広く世間に知らしめたい!」
という思いが、論文を前に進める原動力になるとのこと。

たしかに、人に与えられた納得感のないテーマでしぶしぶ書いたところで、
自分自身をも納得させられない内容で、他人に響くとは思えません。

また、世の中で「講演会」と呼ばれるものに出るとき、
引き込まれるような話をする講演者というのは、
ある課題に対して、本気で向き合っている人であることがしばしばです。

自分が論文を書くモチベーションとしても、
また、人を引き付ける魅力としても、
「怒り」というのは、大きな力になるのかもしれません。


ポイント② 社会課題と新規性

「一方で、怒りに任せただけの論文では、あまり価値はありません」
と、X先生。

たしかに、個人の怒りだけの文章だと、論文が暴走しそうではあります。

バランスが大事ですね

では、大切なことは何か。

「提示される仮説が、社会や学会が困っていることの解決や、役に立つ情報になることが大切なんです」

と、X先生は説きます。


もしかしたらこの辺は、「社会科学」「自然科学」「人文科学」の間で見解が分かれるかもしれません。

少なくとも、鳩が属している社会科学の領域では、
「どうだ……これが私の興味のある内容だ……」
だけで押し通す論文だと、
「それがどうした」
となって、あまり評価されません。


査読者に「ボツ」とされても、笑うしかありません……


この論文が世に出ることで、どんな新しい情報(価値)が世の中に増えたのかを示すことが重要だと、X先生は説きます。

先行研究を積み上げるのは、
「一定の作法に則っています」という信頼性を担保するという意味もありますが、
「既にここまでのことが論じられているところで、自分は更に、こんな情報を新たに生み出した」
という新規性の証明でもあるんです。

このような、先行研究や新規性の意義を端的に表した表現として、
「巨人の肩の上に立つ」
という言葉もあります
(文献を検索するときの便利ツール”Google Scholar"のトップページにも引用されています)。

Google Scholar トップページ(2022年12月31日確認)



ポイント③ 焦点を絞る

X先生が最後に強調するのは、
「できる限り焦点を絞ろう」
ということ。

抽象的な話が必ずしも悪いというわけではないのですが、
ぼやっとした話を続けていると、
「結局、何が言いたいんだろう?」
というのが分からないまま、論文が終わりがちです。

例えば、「○○論」の新規性を語りたいときは、
一般論に終始するのではなく、
「××業界の○○論」
「△△社の○○論」について語る方が良い、ということです。

抽象的/具体的に考えることの意義にしばしば言及している細谷功さんは、
『「具体⇔抽象」トレーニング』
で、
「具体化」について、こう語っています。

具体化とは、解釈の自由度を下げることです。
つまり、「いかようにも解釈できる」という状態を回避させることが具体化のポイントといえます。
逆に言うと、抽象度の高い表現は「いかようにも解釈ができる=逃げ道を作れる」ことになります。

(細谷:2020年、kindle位置No.1090/2300) 


抽象度が高くていかようにも逃げ道がある主張は、どんな反論も受け付けない、無敵の主張です

講演や研修なんかで、聴衆から質問を受けた先生の受け答えが、どうも口八丁でうまくかわすような内容のとき、
「なんだよ、あんたの理論はあんたのさじ加減で決まるのかよ」
と、一気に冷めた気分になるアレです。

具体化とは、解釈の自由度を下げることです。
つまり、「いかようにも解釈できる」という状態を回避させることが具体化のポイントといえます。
逆に言うと、抽象度の高い表現は「いかようにも解釈ができる=逃げ道を作れる」ことになります。

『「具体⇔抽象」トレーニング』に関する記事


戸田山和久さんも、「議論の心構え」として、『思考の教室』でこう指摘しています。

そうすると、キミはまず誰かに反論してもらえるようなことを主張しないといけない。議論が始まらないからだ。
むしろ、誰からも反論されないことのほうが良くない
だって、それって、キミの主張は正しくても間違っていてもどうでもいいことだ、と言われているのと同じだから。
(中略)
反論することができないような主張というのは、主張のように見えてじつは何も主張していないような主張(むしろ疑似主張と言ったほうがいいかも)、
あるいはほとんど何も主張していないような主張のことだ。
何も主張していないんだから、それに反論するということもできないよね。

(戸田山:2020年、475-476頁) 


というわけで、論文のポイントの3つを紹介してもらった鳩。
それから、初めての査読付き論文を書き上げるまで、およそ半年を費やすこととなるのですが、それはまた先のお話……。

さて、次回は、論文を書くに当たり、図書館を利用としたらしくじった話です。

to be continued…


参考資料

・挿入マンガ①:田中芳樹(原作)荒川弘(作画)『アルスラーン戦記』(講談社)
・挿入マンガ②:板垣啓介『範馬刃牙』(秋田書店)
・タイトル、挿入マンガ③④⑤:鳥山明、『ドラゴンボール』(集英社)

・戸田山和久(2020).思考の教室: じょうずに考えるレッスン NHK出版.


・細谷功(2020).「具体⇔抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問 PHPビジネス新書.

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