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【映画観賞記録】韓国映画 幼い依頼人

実際にあった児童虐待事件を映画化したサスペンス韓国映画。
ドキュメンタリーで撮ることができないから、映画というエンターテインメントにしてるけどっていう社会問題に切り込む題材を撮らせたら、ほんとうに韓国映画はうまいと思う。
韓国映画と括るのもどうかと思うが。

韓国映画の実録ものは、かなりの数を観ていて、そのたびに「震撼」する事件だったりするのだけど、どんなにその時に震撼してもニュースは流れていってしまう。だけど、映画は残る。人々の記憶に。
つらく重いテーマで、実際の暴力シーンもけっこうな生々しさで出てくるので、苦手な人は注意してください。

以下、ネタバレてます。

弁護士の資格を持っているジョンヨプは、就活がうまくいかずに田舎で、姉夫婦の家に居候しながら肩身の狭い思いをしている。
冒頭に、「法の上で無罪だけど、実際には有罪なのでは?」という議論が友人4人でなされている。その時、ジョンヨプは、法で決まっているものは仕方ないというような意見だった。

10歳と7歳の姉と弟のきょうだいが出てくる。
父の帰宅に怯えて、声が小さくなるので、恐怖の中で暮らしているのがわかる。
母は幼い頃に亡くなったようで、いない。母が映っている写真は、顔がくり抜かれていて、わからない。
幼いきょうだいは、母の顔がわからないけど、母を恋しがり、母の顔の絵を何枚も描いているが、その顔はのっぺらぼうだ。

父親が、ある日、新しい母親を連れてくる。
優しそうな女性に、幼いきょうだいは顔が輝くように晴れる。「お母さんができる」というのは、このきょうだいにとって、生きるよりどころができるということなのだ。
父親は、「仕方なく生まれてきた子」と平気で言い放つような男で、子どもを自分の所有物だと思っている。
子どもがいるから、お金がもらえる(日本で言う児童手当とかそう言う類のもの)と言う。

ジョンヨプは、無職なのを姉に咎められ、児童福祉館で職を得て働き出す。ソウルの弁護士事務所に就職したいが、なかなかうまくいかない。
児童福祉館の仕事は、女性職員が退職するのでその引き継ぎのようだ。
その女性と一緒に、警察に出向くとその幼いきょうだいの姉ダビンがいた。

偽物の母親に、殴られた。

と訴えにきたのだった。

「悪いことがあったら、おまわりさんに言えばいいんじゃないの?わたしが間違ってるんですか?」
と瞳が震える。
ジョンヨプは
「間違ってないよ。悪いことが起きたら警察に言うよ。おじさんもそうするよ」
と目が泳ぎながらも答える。
しかし、警察は、子どもが親に殴られたと訴えても、何かできるわけではない。
親権者が子ども権利を握っている。
これが法で定められている現実だ。

警察に訴えても、児童福祉館に回ってくる。
福祉の職員は、捜査権もなく、親が会えないと言えば会えず、強制的に引き離すことも難しく、行儀よく
「もう叩いちゃダメですよ」
と注意するくらいしかできることがない。
法がそうなっているのだ。
「法に従うのがつらい」
それが彼女が仕事を辞める理由だった。

韓国と、法律は多少違えど、日本の現実と大差ない。
ほんとうにいつも思うのだけど、こう言う問題は特に国が違ったから問題が違うと言うことではないのだなと思う。
社会の構造が酷似している。
同じアジアの国で、封建制度の歴史があり、男尊女卑で社会が成り立っているわけだ。韓国の方が、声をあげて国を動かしている分、国民の声が届いているようにも感じる。
例えば、「トガニ」と言う映画は、公開後に、法改正への動きに繋がっている。(障害児の福祉施設で起きていた虐待について描いた作品。これも実話をベースにしている)

ジョンヨプとダビンとミンジュン(幼いきょうだいの名前)は、その後、交流が始まる。
ダビンが、警察で唯一「間違っていない」と言ってくれたジョンヨプを「おじさんはいい人」と認知したためだ。
ジョンヨプも幼い頃に母を亡くしていて、その話を聞いたきょうだいが、さらにジョンヨプになついていく。

継母による虐待は、どんどんひどくなる一方で、ダビンは首に赤い傷跡があったり、学校の先生や、近所の人たちも何が起きているかは薄々気がついている。
が、誰も踏み込んで助けようとしない。
助けたい気持ちがあっても、親権者の権利が強すぎて、子どもが親元に戻されるため、その後にもっとひどい虐待を受けると言うループが回ることを知っていると、動きにくいだろうと思う。

ダビンは、クラスメイトの真ん中でダンスを踊ってキラキラしている少女だったのに、だんだんと笑わなくなり、教室でもボーッと考え込んだりすることが多くなっていく。
頼れるのはジョンヨプだけ、と言う状態になっていくのだが、その状態は、ジョンヨプにはかなり負担が大きかった。
そんな時に、ジョンヨプはソウルの弁護士事務所の就職が決まる。

ジョンヨプは、「明日は?」と約束をねだるミンジュンに、なんとか早く車を降りさせようと、ゴリラのぬいぐるみをあげ、一緒にハンバーガーを食べるお金だと言って、50000ウォンを渡す。
(この辺の伏線は、あまりに展開が読めすぎるなあと思って、もうちょっと・・・と思ってしまったけれど、2時間の映画にするのには仕方ないんだろうなと思う。お金がなく、お金に執着のある継母に虐待されているので、そう言う子がお金を持っているのは、かなり危険である、と言うことはジョンヨプに認知されない。)

ソウルに行けば、子どもたちがまとわりつく生活からもおさらば、そして、自分も望んでいた出世の道へ進めるとジョンヨプは喜び勇んでソウルへ向かっていく。

その頃、ダビンは鼓膜が破れるほどの殴打を受けて、入院する。
流石に駆けつけるジョンヨプ。
「おじさんは、他の大人と違う」
「愛し合ってない両親から生まれた子供は、普通に生活できないの?」
と遊んでくれて、ハンバーガーも一緒に食べてくれたジョンヨプに訴えるダビン。

継母や父親に訴えるが、「法的には解決している」「自分の子を殺そうがお前に関係ない」とけんもほろろに追い返される。
福祉館の職員にダビンのことを伝えて
「告訴したら?」
と言うが、
「告訴したとして、証拠は?目撃者は?」
「保護者でもあるまいし」訴えることは相当困難なのだ、と言う。
ほんとうに、子どもの権利がおざなりにされている。
日本だけではないのだなと思うけれど、なぜ、子どもは親の好きにしていいと言うことになっているのだろう・・・と思う。

ソウルで順調に働いているジョンヨプは、高級車もプレゼントされ、姉にも恩返しできるし、友達にも鼻高々でいられるようになった。
大きな弁護士事務所の代表に、「正義論」に書いてあることは忘れろ、と言われる。
ここは「環境の違いによる不公平を扱わない」事務所だと言うわけだ。

そんな頃に、ミンジュンが殺され、その犯人はダビンだと言う話がジョンヨプの元に知らされる。
継母がミンジュンが持っていた50000ウォンを、「ママの財布から抜き取ったの?」と怒り狂って、「殴るのがたりてないから、悪いことをするんだ」と殴打しまくり、殺したのを、ダビンが罪を被らされたのであった。

ほんとうに理不尽極まりないのだが、10歳の子どもに、このような所行ができるわけがない、と大人の誰もが思っていても、子どもが「自白」したら、法律はそのようにしか対応できない。
そして、10歳の子は収監されず、親元に戻されるのである。
弟を殺した恐ろしい人と、一緒に暮らすことになるダビンが、
「大人を信じたらダメ。大人を信じたらミンジュンが死んだ。大人を信じたら、ダビンも死ぬ。ちょっと悔しいけど、死ぬよりはいい」
とゴリラ相手に話すシーンは、切ない。

「親に恵まれない子はいる。運の悪い子だ。君は価値のある仕事をしろ」
とジョンヨプが、なんとかダビンを救って欲しいと訴えた時に答えた。
ジョンヨプは
「価値のある仕事をします」
と高級車の鍵をおいて事務所を出て、田舎の先輩弁護士の元に、「一度だけ助けてくれ」と土下座して頼み込む。

虐待されている子どもが親に逆らって、訴えをしようとするのは、かなりの無理があると言うことが映画では、わかりやすく描かれている。
ほんとうに理不尽で、ひどい。
親が暴行をチラつかせ、そばにいる、と言うだけで、声が出なくなる。
それは人間の防衛本能として当たり前のことなのに、「子どもの自白」がないと裁判では立証できない。(自白があっても立証は簡単ではないが)

映画では、ゴリラのぬいぐるみに録画機能がついており、ゴミとして捨てられたそのぬいぐるみを、ダビンを気にかけていた同級生の男の子が持っていて、その動画が決定的な証拠となり、有罪判決が出た。
ジソクが退廷する時に「母親はいなかったから、母親がどんなかなんて知らねえんだよっ」と言い放っていく。
加害者を鬼のように描くだけでは、この闇は解決しないだろうと思う。

継母役のユソンが、ほんとうに迫真の演技で、冷酷で無慈悲で、闇を抱えているジソクを見事に演じ切っている。
母親になったユソンは、子供を殴る演技が相当しんどかったらしいが、これが社会での認知に繋がり、児童虐待が減ることになるならと、体当たりで演技したとインタビューで読んだが、やっぱり女優ってすごいなと思う。

児童虐待は、社会の構造が生み出している犯罪である。
ある非道な親がいて、だから子どもが酷い目にあっている、と言うのは間違いではないが、個人の責任にしているうちは解決しない問題だと思っている。
日本と同様、韓国でも児童虐待は年々増加の一途を辿っており、残酷な事件が増えているそうだ。
そして、加害者の5人に4人は、父母である。

見て見ぬ振りをしていた、上階の住人、通りかかった配達人、店の人、学校の先生、警察官。
ジョンヨプが、裁判を始めた時に協力してくれた人たち。
誰かがヒーローになっても解決しない。
これは私たちの課題なのだ。


【映画.comより】
2013年に韓国で実際に起こった漆谷(チルゴク)継母児童虐待死亡事件をもとに、7歳の弟を殺したという驚くべき告白した10歳の少女に心を動かされた弁護士が、真実を明らかにするため奔走する姿を描いた実録サスペスドラマ。ロースクールを卒業し、法律事務所に就職する前に児童福祉館で臨時で働いていたジョンヨプは、継母から虐待を受けているダビンとミンジュンの姉弟に出会う。当初は深刻に受け止めていなかったジョンヨプだったが、弟ミンジュンが死亡する事件が発生し、姉のダビンがその殺人の被疑者とされたことに何かが間違っていると感じ、ダビンの弁護を引き受けることを決意する。主人公の弁護士ジョンヨプ役を「エクストリーム・ジョブ」のイ・ドンフィが熱演。

2019年製作/114分/韓国
原題:My First Client
配給:クロックワークス


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