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「遠い山なみの光」 ネタバレあり。

カズオイシグロのデビュー作だそうです。
テレビドラマで「わたしを離さないで」を、本は最近「クララとお日様」を読んだので、デビュー作を読んでみたいと思い手に取りました。

イギリスで未亡人として暮らす私、悦子。
長女景子は引きこもりの末自死しており既に家を出ている次女ニキは、娘を失った母を気づかい時々実家を訪れている。

時折浮かぶ、景子を身篭っている時夫と住んでいた長崎での思い出。
近所に住んでいる早知子とその娘万里子との交流の様子や、実家から泊まりに来た義父と夫と自分がお茶の間で交わしている会話の様子などが淡々と描かれているのだけど、

どこもかしこも全般に渡ってあちこちに違和感を抱きつつ読みました。

例えば、娘の名前が景子とニキ。だったり。
義父を緒方さん(夫は二郎と呼び捨て)と呼んでいたり。
友人の早知子はとても奔放で刹那的な生き方をしていて、
いつも娘をほったらかしにして
外国人の彼氏が出来ては、
自分は彼の後を追って外国に行くと言い張り、娘の事はネグレクト気味、という人。
かなり勝手で自分本位。
うーん、何故こんな人と付き合うの?あなたは何故そんなに優しいの?と、
時々イライラしながら読みました。
結局
この話は何だったんだろう?
と、いう感じで読了したのでした。

ところが、
どうしてもモヤモヤが取れないので、
Amazonのレビューを拝見。
そうしたら、翻訳に違和感を感じている方(本作は結末が違う?)や、
景子と万里子、自分(悦子)と早知子は同一人物なのではないかというご意見があり、えええ!となりました。

そう言われて思い返すと、
とても納得がいくんです。
もし本当にそうなら、これはものすごい深い小説なのではと、鳥肌が立つような驚きが沸いて来ました。

5歳で長崎から渡英した著者の、
長崎への、ぼんやりとした淡い思慕。感情や出来事を、そのまま書くのではない、遠回しな描き方。

著者が27歳の時に
女性の生き様を
どうしてこんな風に書けるのだろう?
カズオイシグロって、何という人なのだろうか。

珍しく、再読したい気持ちが湧いています。
さらに、他の作品も読んでみようと思います。

Wikipediaを見たら…

作品の特徴として、「違和感」「むなしさ」などの感情を抱く登場人物が過去を曖昧な記憶や思い込みを基に会話・回想する形で描き出されることで、人間の弱さや、互いの認知の齟齬が読み進めるたびに浮かび上がるものが多い。

納得。

レビューを見ずに読んで良かったと、
心から思いました。

とはいえ、正解はご本人にしかわからない訳ですが。
…正解って…
ミステリーみたいになってる^^;

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