自閉症の子どもを育てる ⑮
(注)
この文章を読もうと思われた方へ。
「自閉症の子どもを育てる」は私個人の過去の振り返りなので、何かを得てもらおうとか伝えたいとか考えていません。読む人の気持ちに配慮はしておりませんので、嫌な気持ちになられる方もあるかもしれません。
悪しからずご了承ください。(過去分はマガジンにまとめてあります)
二十歳になります
今年の秋、彼は二十歳の誕生日を迎える。
コミュニケーション能力は3歳、生活能力は5歳という発達検査の結果をもらっています。。
3歳と言われれば納得できる。
短時間の簡単な会話はできるが、何かを説明するということは困難を極める。
ものの関係性を掴むのが苦手(例えばコロナウイルスが流行しているから映画館が閉鎖されているなど)
好きなアニメやテレビ番組は幼児向けのもので、ストーリーのあるものはまだ理解できない。
(トーマスは内容を理解して楽しく見られるが、仮面ライダーはカッコよさだけで見ている)
好奇心はあまり表現しない。ちょっと物足りない3歳かなと思える。
就労支援B型作業所
そんな彼だけれど、福祉作業所でちゃんと働いている。
就労支援B型の作業所にはいろんなタイプがあるけれど、彼が通っているのは「次はA型(最低賃金保証)」という人が通う作業所で、作業をやればやるだけ賃金になる。
作業所には、うつや統合失調症などの精神疾患の患者さんが多く、自閉症は初の受け入れだった。
利用者の中には、かつては一般企業で勤めていたという人もあり、車で通勤してる人がそれなりの人数おられる。
ハッキリ言えば、分不相応に「ちゃんとお仕事ができる人たち」の間にいる。
そこで彼は「役に立つ人」になりたいと言った。
別に役に立たなくてもいいけどと思うが、やはりそこには承認欲求があるのかなぁとも思えた。
重い荷物を運んだり、ごみ捨てをしたりと人があまりやりたくないことを率先してやっているようだ。そのおかげかどうかはわからないけれど、利用者さんや職員から「がんばり屋さん」の評価をもらった。
がんばらなくてもいいのに。それを教えるのは難しい。
作業そのものは簡単で、彼の作業量は他の人と同じくらい。ご迷惑はおかけしていないようだ。
時々、利用者さんに叩かれたりもする。
座っている彼の背中を、通りすがりにバシンと叩かれたりするらしい。
彼は座っているだけで、何もしていないのだけれど。
利用者さん自身の調子が悪く、作業の効率が落ちていて不良がたくさんでたときなどに八つ当たりされるという。
職員さんにも注意されるし、その人も謝って反省はするらしいが、また調子の悪いときは叩かれたりする。
そんなとき、彼はまずはビックリして、そのあと「ま、いいか」と言ってにっこりするらしい。
怒ってもいいんだよ。でも叩いたり蹴ったりはしないでね。とも言うが、彼にしてみれば「ま、いいか」と言ってる方が楽なのかもしれない。
彼は大きな声での言葉の応酬や、暴力を含む喧嘩が嫌いだ。「ま、いいか」と反応しないことによって相手の感情を受け流しているように思える。
先日は、迎えにいったとき、おじさんが彼の肩に頭をのせてまったりしていた。気になることがあって不眠になったり、失敗したり、落ち込んだりするときに、彼の肩を借りる利用者さんは多いと聞いた。
言葉のコミュニケーションがほとんどできないので、肩に頭をのせられてもなにも言わずにボーッとしている。
時々、唐突に歌を歌い出したり呟いたりするのだが、それがまたなんともいえずほっこりするのだそうだ。
彼はここにいる職員を含めたみんなの癒しなんです。気は優しくて力持ち。人に対して思いやりのあるいい子です。と言ってもらえる。
私は過保護なので、送迎付きの事業所であっても1週間に1度はお迎えにいくようにしているが、そのときの利用者さんの態度とか、声かけとかで「かわいがってもらっている」感じはある。
職員さんが仰るのもまんざらお世辞でもないんだろう。
サッカー
余暇にハンディキャップサッカーをやっている。
県の選抜チームに所属し、月に3回活動している。
正直、サッカー技術としては、Aチームメンバーの皆さんのお荷物でしかない。Bチームメンバーの皆さんの足元にさえ及ばない。ハッキリ言えば、なんでそこにいるのかよくわからない。
彼はそこで素敵なお兄さんや友達を何人か見つけた。サッカー部に入って3年生に憧れた時と同様に、憧れの人ができた。その人たちに褒められたり認めてもらえることが嬉しく、同じチームにいることが誇らしいようだ。
相手は、手のかかる後輩という認識をしていて、友達とは思ってないけれど。
それでも、迎えにいくと、その人たちと肩を組んでにこにこしていたりすることもあるので、サッカーが下手でも仲間として見てもらえているのだろう。
技術も多少は上達しているが、もともと運動が苦手なので、親としては彼が行儀習いに通っていると思っている。
サッカーは集団での規律やマナーなどを教えてくれる。
彼は「何かを強制的にさせられる」ことはものすごく苦手だが、大好きなみんなと同じことをするのは好きなので、できることはどんどん増えている。
彼に何かを教えようと思ったら、大好きな人にやってもらって真似させるのが、彼にとっても教える方もストレスなく習得できるし、持続する。
クリスマスやバレンタインになると、クッキーを焼いたりチョコを作ったりして持っていく。
旦那さんは「男なんやからそんなことさせるな」という。
でも、折り紙のサンタをもらうよりクッキーをもらった方が、練習後のお腹がすいている人たちにとっては嬉しいと思うのだ。
みんなが少しでも喜んでくれることが、彼の喜びなのだから、それでいいと思っている。
その他
サッカーのない週末は映画を観に行ったり、お弁当を持って近所の公園や渓谷に出かけたりもする。
「3人で(家族全員で)」が好きで、家族が揃っていると安心するようだ。
あとは、だいたいYouTubeを見ているか、ゲームをしている。
そのほかにも、子ども番組が好き。アニメが好き。プリキュアが好き。番組の予告が好き。オープニングエンディングクレジットを読み上げるのが好き。モンスキャが好き。小さい子どもが好き。トミカが好き。作業所で作業することが好き。フェラーリが好き。車のレースが好き。バイクレースも好き。創作話をするのが好き。
など、いろいろと好きなものがある人に育ってくれた。
もちろん苦手なこともある。
予定変更が苦手。勝負事で負けるのが苦手。選択を迫られるのが苦手。
そして困ったことも残っている。
ところ構わず大きな声で話す。季節の衣類調整ができない。興奮すると自分のお腹を叩く。
「愛される自閉症」ということを、ずっと心に留めながら育ててきた。いまのところは目標に近づきつつ、本人も楽しくやってるように見える。
時々、帰宅してすぐにトイレに駆け込んで下痢をすることもあるけれど。
お腹が辛かったらお休みしようと言っても、行きます!とにこにこして、毎日元気に作業所に通っている。
時系列に沿って書くのはここでおしまい。
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