見出し画像

自閉症の子どもを育てる ⑥

算数はいりません

2年生になっても担任は変わらす、大好きな学校と先生に囲まれて、楽しく過ごしていた。

だが、頻繁に下痢をするようになった。

彼は、保育園卒園までに5回入院している。
とにかく発熱の多い子で、一度上がると40℃くらいまで上がる。
4ヶ月の時は転勤先で入院したが、原因はわからなかった。
7ヶ月、1歳半、2歳、4歳と、いずれも発熱で入院。5歳の時には入院を拒否したので、自宅から毎日朝晩の点滴に通院した。
どの時点での入院でも、原因はわからずカルテには「不明熱」と書かれていた。

子どもが入院すると、親は付き添いをしなくてはいけない。
それはかなり精神的にも肉体的にも追い詰められる。
なので、彼の健康には十分な配慮をしてきたつもりだった。
それでも下痢をした。
未知の病気があるか、過大なストレスがあるんじゃないかと思えた。

受診も考えたが、今回は発熱がなかったのと下痢のあとはケロっとしていたので、しばらく様子をみることにした。
それでも、朝、帰宅後、食事前、食後、入浴後など1日5回も下痢をするのは心配である。

担任に相談し、とりあえず「学習」をやめてもらった。
しばらくすると、下痢をすることもなくなった。
お腹が張ってるのかなぁと思うような仕草はみられたが、普通に便が出るようになって、「学習」が始まるとまた下痢をした。

「学習」へのストレスを訴えているように見えた。
算数のプリントを持って帰ってきた日から下痢が始まることが特に多かった。

先生は、知的障害があるからこそ丁寧に教えてくれていた。
それでも1+1=2 は理解できないのだ。
算数セットはもちろん、大好きなおはじきを使ってみたり、ぬいぐるみを使ったり、それはそれは苦労されていた。

しかし、自閉症の子どもには発達が極端に遅い分野がある。
彼の場合は空間認識では年齢より発達していたが、それ以外は1歳に満たなかった。
普通、1歳の子は算数を理解できない。

数字の概念がないので、数字そのものが「かず」ではなく絵と同じだった。
先生の「教えてあげなくては!」という善意がわかるだけに、「算数はいりません」と言いにくかったが、それは子どもを守るためだと思って伝えることにした。
「算数の代わりにパズルをさせてください。」

その日から下痢が続くことはなくなった。
行事が近く、練習が多い日などから下痢が始まるということもあったけれど、行事が終わるとケロっとしている。
わかりやすい下痢だった。

ありがとう

彼は2年生の間に「ありがとう」を覚えた。
おうむ返しでもなく、ただの音でもなく、意味を理解したと思う。

学校というところには様々な子どもがいて、いろんなアプローチをしてくれる。
彼はその中で必要なものを少しずつ身につけていった。
「ありがとう」はそのひとつで、どうやら子どもたちが教えてくれたようだ。

子どもたちは諦めるということをしない。
彼が「ありがとう」と口にするまで、根気よく「ありがとうって言うんだよ」「ありがとうは?」と教えてくれる。
自宅でも、早くから「ありがとう」は教えていたが、子どもたちほど根気よくできていなかった。
まだ早いかなと、諦めてしまうのだ。

彼は子どもたちがとても好きだった。
褒めてもらいたかった。
子どもたちは、「ありがとう」と言えたら褒めてくれる。
自分のことのように一緒に喜んでくれる。
だから「ありがとう」を口にして、何度も繰り返される「場面」を理解していったのだと思う。

お世話になったら、ありがとう
ものをもらったら、ありがとう
何かしてもらったら、ありがとう
楽しませてもらったら、ありがとう

子どもたちに大きな感謝を。

「ありがとう」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?