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【読書感想文】発酵道

ようやく読み終えたので忘れないうちに読書感想文を書きたい。

◎発酵道(はっこうどう)
酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方
寺田本家 当主 寺田啓佐さん

300年以上続く酒蔵「寺田本家」へ婿入りした寺田さん。
「寺田本家」はなぜか代々女系で、義父も婿入り。
寺田本家の長女と結婚すると、先代は早々に隠居し、23代当主を任される。
下戸でお酒を飲めないのに酒蔵の経営を任されることになった。

電機製品の営業マンとして営業成績もよく、品物が変わるだけで商売なんてどれも同じだろうと甘く考えていた。
どうしても結果を出したい!
強い思いで、これまでの経営手法にメスを入れていく。

徹底的に利益を追求する!
利益を追い求め、まずは原価を下げることに着手した。
お酒造りに必要な米の原価を下げるのが効果的だと考え、一番安いお米に切り替えていく。出来るだけ短時間で作れるよう、発酵を早めたり、原価を下げるために色んなこと変えていった。
意見が合わない昔からの職人は、次々と辞めていった。
「誰も私の苦労など分かっていない。」そう思った。

結果、お酒が売れなくなった。
何としてでも売ろうと色々と画策してみるが、裏目に出るばかりで全く売れない。

何もかも上手くいかない。
そんな時、お腹が痛くなり、どうも我慢が出来ず病院へ。
すると直腸の管が腐って、膿が皮膚まで出てきている状態だった。
壮絶な手術を乗り越え、そんな時「人間とは・・。」「生きるとは・・。」そんなことを考え始めた。

P.47
そして長い間悶々とするうち、これまでの生き方や考え方そのものが、行き詰ってしまった原因なのだと気づいたのである。
私自身の反自然的な行為や不調和の積み重ねが、「腐る」という事態を招いたのだ。だから、破綻した。だから、道からはずれた。
「いかに自然との関わり方を見直すか」
三五歳。これからのテーマはこれだと思った。

「腸が腐る」「会社が腐る」「腐るってどういうこと?」
そんなことを考えていると「発酵すると腐らない」ということに気付く。

ぬか漬けだって、味噌だって醤油だって、発酵食品だ。
発酵しているから腐らない。

そこから「発酵」のメカニズムについて学ぶうちに、微生物の働きに着目するようになる。

P.49
古い土蔵造りの蔵の土壁に、黒光りした柱に、天井に、たくさんの木桶にも、ビッシリと「蔵付き酵母」は棲みついている。長年にわたり、蔵を棲み家としている「蔵付き酵母」たちは、他の微生物の侵入を許さない。
それは、棲み分けという現象が、微生物の世界にもあるからだ。

微生物の世界を知るうちに、発酵に適した環境を整えれば腐敗は防げることが分かってくる。
そして、それは人間も同じで、体の中にある「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」のバランスが保てていれば健康でいられ、バランスを崩すと病気になるのではないかということに気づく。

人間のカラダは食べるものによって出来ている。
これまでの肉食の生活を改め、消化にいいもの、栄養バランスの整った食事を意識していく。

そうして行くうちに、「じゃぁ、酒造りはどうする?」「カラダにいいものを作ることが本来の道理じゃないのか」という考えに辿り着き、これまでの製法を材料選びから見直し、無農薬のお米を使いたい、利益など目先のものに惑わされず、飲んで健康にいいものを造りたいという熱い思いに駆り立てられていく。

これまでどこの酒蔵も行っていた添加物で作る「速醸」はやめて、昔ながらの製法で作る道を選んだ。
原料はこれまでの三倍以上の値段がする無農薬の美味しい米を使用する。
倒産覚悟、命がけの決意で作った。

その後も改良に改良を重ね、どんどん売り上げも伸ばしていった。

ある時、白米より玄米の方が栄養価が高いことに気付き、それでは玄米でお酒ができないかと試行錯誤を始める。
しかし、玄米は殻が厚く、麹が中まで浸透しない。
昔の酒造りの文献などを参考にしながら「発芽玄米」なら、麹の浸透がうまくいくということになった。
そして発芽玄米を使った独特の風味があるお酒が出来上がった。

* * *
著者の寺田さんは、自身の大病をきっかけにこれまでの生活習慣や思考までも改め、自然と調和していく道を選んだ。

その中で「発酵」「微生物」「菌」に対する学びを深め、「酒は百薬の長とよばれるものなんだから、飲んで体にいいものでないといけない」と体にいいお酒造りに目覚める。

そして、様々な学びの中で精神世界にも目覚め、人間本来の生き方についてこう書かれている。

P.221
いろんな問題を解決する鍵は、発酵にある。
人々が発酵場を選択していけば、どんな場所でも、ひとりでに発酵していって、なにもかもがうまくまわっていく。
それが宇宙の法則ではないか。
物理的には炭を使って場を変えていくという方法もあるが、基本的には、人間の意識が発酵場を作っていくのだと思う。
循環、共生、調和のあるところ、そこに発酵場ができていくのだ。
循環している世界は、変化の世界、無常の世界だ。
人の物をとったり、奪ったり、自分ばかりため込むような世界ではない。
手放すところから、循環が始まる。
「ギブ・アンド・ギブ」でいい。
空っぽになれば、おのずと入ってくるのだから、それで安心していればいい。

P.222
共生とは、競争しない、争わない、仲よしの世界のことだ。
「負けちゃう、損しちゃう、謝っちゃう」、むしろ積極的にこういう姿勢にしていく。
肩の力をフッと抜き、がんばるのをやめてみたとき、みんなとつながれることに気づくはずだ。
それこそが、調和の世界だ。
自然界は、みなそのようにできているというのに、人間ばかりが調和を乱す。
一人だけ前に出ようとしたり、他人を蹴落とそうとしたり。
みんなで手をつなげば、その輪の中は酒蔵のタンクの中のようにブクブクと発酵していき、そのうちにいい香りがしてくるというのに・・・。

この2年間、これまでの世界とガラッと変わったことにより、わたし自身も「人生とは」について色々と考えてきた。

ある人が言っていたように「幸せとは与えられるものではなく、自家栽培されるものだ」のように、日々の暮らしのささやかな幸せを感じることが「幸せ」につながるカギだと思う。

畑の恵みに感謝して、大地のエネルギーをいただく。
できるだけ自然との調和をはかりながら。

それは人間関係でも同じで、できるだけ周りの人に思いやりの気持ちを持って接し、調和して生きて行く。

それが人間の幸せであり、生きる喜びなのではないかと思った。

著者の寺田さんは、この本の中で酒造りの手法についても書かれています。
それは、その技術を自分達だけのものにせず、同じ志を持った方には惜しげもなく教えていたということだと思います。
そして、酒蔵は、全く同じ菌を持った蔵は存在しない。
だからそれを各蔵の個性として、互いにぶつかることなく共存していけるのではないかと仰っていました。

人間もお互いの違いを尊重しながら、それぞれの個性・特性を活かし、調和・共存していくことが豊かな暮らしにつながっていくんだろうなと思った。


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