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「子どもへの性的虐待は娯楽」とする描写物と日本 ~AI時代に子どもをどう守るか①

まもなく開催されるG7広島サミット。実は、日本だけが取り組んでいない国際人権課題があるのをご存知だろうか。 実在しない子どもを性的に表現するマンガやアニメ、ゲーム等の描写物(創作児童ポルノ)をめぐる対策である。「クールジャパン」として世界的な人気を誇る日本製コンテンツの影の部分として、改めて国際的な注目を集める可能性がある。(解説: 渡辺真由子/シンクタンク『メディアと人権研究所MAYUMEDIA』代表)


ランドセルを背負った女児が車に連れ込まれ……

小学校の教室で、男性教師が女児たちと次々に性行為をしている。男児が家庭教師の男性に下半身をもてあそばれ、調教されている。ランドセルを背負った女児が男性たちに車に連れ込まれ、性的暴行を受けている……。

このような表現を、私たちはいま、マンガやアニメ、ゲームなどの娯楽物でいくらでも見ることができる。スマートフォンでインターネットの画面を開けば、子どもを性の対象として描くコミックスのバナー広告が、見ようとしなくても目に入ることもある。日本製のこうした作品は、海外向けにも複数の言語に翻訳され、「HENTAI(ヘンタイ)」という呼称で人気を集めている。

さらに今後、AIの利用が広がれば、実在しない子どもを性的に表現する描写物は、より精巧な形で生成されることになるだろう。

架空であるからこその問題性

実在しない子どもを性的に表現するマンガやアニメ、ゲーム、あるいは生成AI等の描写物を、本稿は「創作児童ポルノ」と呼ぶことにする。創作児童ポルノについては、「あくまで架空の物語であり、実在する子どもに直接性行為をしているわけではないのだから問題ない」との声も聞かれる。だが、その表現内容に関していえば、架空であるからこそ問題性が高いのではないか。

架空の物語は基本的に「何でもあり」である。幼い身体に無理やり性行為をされれば、実在する子どもは計り知れない辛さや痛みを感じるが、架空の子どもは快感に打ち震える。「子どもに性行為をしても構わない」とのメッセージが、合法的な手段を通して簡単に広まっていく。

「表現の自由」で本当に押し切れるのか

創作児童ポルノの規制をめぐり日本では、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の制定(1999年)や、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の改正(2010年)のたびに、激しい議論が巻き起こってきた。論点の中心は「表現の自由に反するか否か」であった。

表現の自由はもちろん重要な私たちの権利だが、一定の制約があり、どのような表現でも許されるわけではない。創作児童ポルノに見られるような、子どもへの性的虐待を娯楽として描き、子どもの性の尊厳を踏みにじる内容は、表現の自由で本当に押し切れるのだろうか。

創作児童ポルノと子どもの人権

筆者は、創作児童ポルノの規制問題について、「人権」をキーワードに読み解いてみたい。人権とは「すべての人間が、人間の尊厳に基づいて持っている固有の権利」(法務省)である。当然、子どもにも人権はある。

創作児童ポルノの存在を肯定することは、その内容が架空であっても、いやむしろ架空であるからこそ、子どもの人権を侵害することにつながるのではないか。この点が、筆者の研究の問題意識である。

G7で日本だけ

世界に目を転じると、児童ポルノ規制に関する国際条約は近年、創作児童ポルノも規制対象に含める傾向にある。国レベルでも、北米やヨーロッパでは、創作児童ポルノを犯罪とするための法制化が進む。主要7ヵ国(G7)で、創作児童ポルノを規制対象から外し続けているのは日本だけだ。

そのような国際潮流のなか、日本に対しては、国連を始めとする世界的な会議や海外メディアから「創作児童ポルノの一大発信源」として名指しがされ、厳しい目が注がれる。

果たしてわが国は、創作児童ポルノと子どもの人権の問題に、どう向き合うべきなのか。本研究は、欧米を中心とした国際社会の視点にヒントを得ながら、わが国に求められる役割を考えていく。

折しも2023年5月にはG7広島サミットを迎え、日本のマンガやアニメ、ゲームも「クールジャパン」として、世界中から関心を集める可能性がある。その時こそわが国が、グローバル時代にふさわしい人権感覚を身に付けた雄姿を発信する好機であろう。子どもの性の尊厳が守られる、真に成熟した日本社会の実現へ向け、本サミットが一助となることを願う。

渡辺 真由子 (twitter)
(出典:『メディアと人権ジャーナル』2023 Vol.1 No.1、pp.1-2/一部加筆修正)

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参考文献

『メディアと人権ジャーナル』2023 Vol.1 No.1、渡辺真由子著、AI時代の創作児童ポルノ
『メディアと人権ジャーナル』2023 Vol.1 No.1


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