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小説『終末ド真ん中』♯1

かつて活気であろうこの街、崩壊してボロボロになったこの世界には風の音と波の音だけが響いている。
終末ド真ん中のこの世界にやってきてしまった僕。

~3ヵ月前~
成人式を終えて同窓会に参加するも、何もすることが出来ないまま夜の道をふらふらと歩く俺は、普段飲まないお酒の影響からかいつもよりも増幅した負の感情を抑えるのに必死になっていた。

ダサい自分を戒めて、小さな都会を歩いたいたはずの自分はいつの間にか来たことのない公園のベンチに座る。
木々や夜風に囲まれて、普段だったら絶対乗らないはずのブランコに座って周りを見渡して心を落ち着かそうとフラフラ揺らす。
「あれ、携帯の充電ねえじゃん…。」
やることもなくブランコの周りから公衆電話でも探そうと見渡してもそりゃ遊具しかない。

少年の手の温もりもとうに冷めたジャングルジム、反対から登った足跡が残っている寂れた滑り台、その隣でポツンと立っているサビれたロボット。
「え、ロボット?」
珍しい遊具もあるもんだと、強く漕いだブランコを踵でブレーキして好奇心のままに近づく。

背中のスライドドアを開けると、中も本物のロボットのようで真っ黒なモニターの前にはレバーやキーボード、右には小さな冷蔵庫がぽつんと置かれている。
「かっけぇ…本物じゃん。」
少しひんやりとした空間の中、お酒の力で増幅された男心に身を任せてマシンに触れていく。
奥にある鍵をひねり、キーボードを叩き、レバーをひねって叫ぶ。
「いっけえええええ!」
…無音の空間、シュールな空気とそういえば公園だったことを思い出して突然恥ずかしくなった俺はお酒も抜けて完全に目が覚めた。

「はぁ…帰ろう。」
我に返ってドアを開けた先の世界、そこは数秒前とは明らかに違う光景が広がっていた。
「は?」
さっきまであったはずの遊具がない…というかそもそも公園ですらなくなっている。
お酒に酔ってたから違うふうに見えていたとかそんなレベルじゃない。
シラフに戻ったと確信した自分でも、目の前の光景を納得するにはかなり時間がかかる。まさにパニックそのもの。
「え…え...えっと…あ、スマホ。」
「…あ、そうだ充電無いわ…。」
「ちょっと待ってどうしよ。」
酔ってた頃より心が暴走していることに気づいた自分は一度目をつむり、どこか分からない空気を鼻から大きく吸い込んで吐き出す。

「よし…。」
俺は変わってしまった世界を再確認しロボットをもう一度起動させようと思いついた。
ドアを閉めて鍵をひねった瞬間、さっき全然気づかなかったがモニターが大きく光っていたことに気づく。
「さっきどこをどうやって触ってたっけ…」
一旦落ち着いてさっきの自分を思い出そうとするが、思い出せるわけないくらいカタカタしていた自分の顔を一度ビンタした。
「えーっと…とりあえず今いる場所の確認と…あ、えっ?」
強く発光していたモニターはプツンときれ、黒くなった画面にはさっきスマホで見た様なマークが大きく点滅している。
「え、ちょっと。嘘でしょ?マジで待ってよ。」
鍵をひねっても、キーボードを触っても何も起きない。
本当に遊具のようになってしまったロボットの中、呆然とするしかない自分。
「あっ….やべ」
さっきビンタしてアツくなっていたはずの頬が冷たい。
倒れたと理解したことは確かに覚えている。でも体が言うことを聞いてくれずに気絶してしまった。

そこから何日経過したかは分からない。
しかし、自分の外側から聞こえた確かな肉声で目を覚ます。

「…って話なわけでさ、アンタはどう思う?」
「…」
「ハハッそりゃ寝てるから返事なんかねえよ。」
「…」
「しっかし、あまりにも寝すぎじゃねえか?」
「…」
「これじゃあ今まで通りの独り言となんも変わんねえじゃん。」
「…んん。」
「え!?起きた!?」
取れていない疲れ、中々開いてくれない眼も、誰かのびっくりする声でガパッと開いて目の前にいる人間の姿を理解する。
見たことのない場所にワープしてしまうなんて言う変な夢を見ていたものだから、人がいることの尊さを実感してしっかり目を合わせる
「おはようございます」

「おはよう…久しぶりに聴いたよその言葉。」

茶色のレインジャケット、カーキのカーゴパンツに身を包む彼はとても目をキラキラとさせてこちらを向いてきた。
「おはようございます…というか」
「名前?あぁ俺の名前は小野瀬このせカイ」
彼は自己紹介からどんどんブーストしていき、たくさん自分のことを話し始めたが、起きたての自分は全く頭に入ってきていない。

「すいません…いっかいトイレ行っても良いですか?」
「トイレ?ここの近くにはないと思うけどどうだろう。」
なにを言っているんだ。トイレだったらブランコを漕いでいるところにあったじゃないか。
そう思いながらスライドドアを開けた瞬間
「…えっ?」
夢に決まってると思っていたものが夢じゃなかったと気付く。
崩れまくったコンクリート、ボロボロこぼれる瓦礫の山を見つめて自分は倒れて目をつむろうとその時
「おぉっと、寝かせないぜ?」
床の頭の間に手のひらを差し込み、腕力で無理やり状態を起こされた俺は男に両肩をポンと抑えられて現実を口頭で叩きつける。

「君がどこから来たか、どういう方法でやってきたか分からないが、ここは終末の世界。」
"終末"、文字通り終わっていて末期の世界。
もうどうやら理解する以外に逃げ場がないらしい。

「自分…帰れないんですか…?」
「いや、これを直せば戻れるだろう。」
「でも…どうやって?」
「どうやってって…君が持ち主なんだろう?」
「…え、あっいや。」
事情を話すと、男は想像していなかった答えに驚きを隠せない様子で猫背が反り立つ。

「なんだ、とんだ大泥棒じゃないか。」
「いや、違……わないか。」
「まあでも、この世界にいる間は警察も法律も秩序もないし気にしてたらストレスで禿げるしな。」
この世界にやってきた彼も、どうやら最初は自分と同じだったらしい。
その言葉に少しだけ救われたが、やっぱり泥棒って聞くと脂汗と冷や汗がじわじわと顔の表面に沸き出てくる。
「てかもう公園に堂々置いてんのを逆ギレしてゴリ押しちゃえば…な。」
「…ていうかカイさんはどうやってここまで?」

「…あぁ、俺は。」
男もどうやらこの終末の世界に迷い込んでしまった人間らしい。
とある研究機関でタイムトラベルの実験をしていた途中で大きな時空の穴をこじ開けてしまい、友人が吸い込まれそうになったところを庇って吸い込まれてしまったとのこと。
正直マジで何を言っているか分からないが、人柄の良さだけははっきりと分かったので、とりあえずこの男の両肩をポンと置き返す。

「…一緒に帰る方法を探しましょう!」
「…本当か?」
覚悟が決まった自分は強くうなずき、アツく固い握手をした。

「じゃあ、とりあえずどうしましょう…。」
「うーん、このロボットはかなり年代の古いものだし…」
男はそう言うと、レインジャケットからプラスドライバーを取り出して中身を見つめる。

「…うん、単二電池3本だね。」
「え、ちょっとちょっと。」
色々ツッコむところがあるが、男はどうしたんだと言わんばかりの不思議そうな顔で首を傾げる。
「まず単二で動いてるんですか?これ。」
「うん、まあそりゃあこの年代だったら…」
「あとそれも、この年代ってなんですか?」

「ん?これは多分2900年くらいのモデルだし、まだ単3二本で動けるほどじゃないんだよ。」
あぁそうか、ものすごく大きな勘違いをしていた。
そして彼も大きな勘違いをしているかもしれない。
「えっと…カイさんは何年から来たんですか?」
「え?3031年だけど…。」
自分の場所から1008年後の世界…そもそも3031年まで人間が存在していることに驚きだ。
「カイさん、僕2023年から来たんです。」
「え!?2023年!?」
やはり勘違いしていた。ロボットの年代的に2900年からタイムスリップしてきた男だと思っていたんだろう。
「じゃあ何者かが2900年あたりから2023年にやってきてってことか…今頃そいつめっちゃくちゃ焦ってるんじゃないか?」
「…なんとしても元の世界に戻りましょう!」

こうして、僕らは終末の世界で単二電池を探す度が始まった。


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