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いまこそ風刺で笑いたい

庶民の行動が制限されているという点では、江戸時代に老中水野忠邦が行った天保の改革といまは少しだけ似ているように思う。その時も全国的な凶作、大飢饉などから一揆が起こり、庶民の生活の隅々に至るまでぜいたく禁止令が出されたらしい。世の中荒れに荒れた。本当なら自由にしたい。でもできない。鬱憤が溜まる。しんどい。

表現の自由も制限されたという。浮世絵もその一つ。華美なものや体制を批判するものの表現を禁じられ、出版前に検閲が入った。

奇想の絵師歌川国芳は、源頼光が手下の四天王と土蜘蛛を退治した絵を描いた。しかしそれはときの体制を痛烈に、でも粋に風刺したものだった。瀕死の将軍家慶を床に伏せる頼光に、にらみをきかせている四天王の一人を忠邦になぞらえ、一方で苦しむ庶民を妖怪の姿に変えて描いた。例えば、歯のない妖怪は寄席を封じられた「歯なし(噺)家」(落語家)、禁止された富くじは、あたかもラーメンマンのように、おでこに「富」と描かれたちょうちんで表されている。ウィットを試しつつ、観るものの溜飲をスッキリ下げる判じ絵だ。庶民はこの絵に大いに湧き、大人気を博したという。

いま、演劇も映画も音楽も、多くの芸術家が不自由を強いられている。痛くて辛かろうと思う。でも、わたしは彼らにあえて「ただ耐えるんじゃなくて、もっと私たちを楽しませてよ!」とお願いしたい。プロならば、「あはは!バカだねー!」と、この世界中のおかれた境遇をもう笑っちゃえるようなメタな世界に私たちを連れて行ってほしい。そのかたちはいろいろだけれど、国芳の描いたような上質な風刺がひとつなのだろうと思う。

考えないで逃げるのもいい。やり過ごすのもいい。でも、皮肉に笑うことは、受け止めつつ負けない力をくれる。芸術や文化には、その力があるんじゃないかと思う。

本来、こうした災害は誰かのせいではない。でも、スケープゴートは必要なのだ。で、いま日本で繰り広げられている「お政治」は、たぶんスケープゴートになってもらうに足りる資質を備えているんじゃないかな。

先の見えないしんどさから、殺伐として、お互いがお互いを監視し合ったり攻撃し合ったりするようになったら、なんというか……人間は災害に、ウイルスに負けてしまっている。太平洋戦争前のような、クリティカルな「言っちゃいけない」感が出る前に、その世界の人たちが頭をひねって、とっても楽しくてスパイスのきいた粋な風刺の芸術・文化コンテンツを、にやりとしながら作り出してくれないかなって、わたしはひっそり期待している。


By Utagawa Kuniyoshi (Japan, 1797-1861) – Image: http://collections.lacma.org/sites/default/files/remote_images/piction/ma-1330476-O3.jpg
Gallery: http://collections.lacma.org/node/213079, ウィキペディアより:パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=27229785




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