Chapter 3 日本のファッションと繊維の循環の先端事例 〜既存企業編〜

この記事は日欧産業協力センターに提出した英語版レポートを筆者の独断で日本語訳したものをご紹介しています。メインはこちら

3.6 既存企業のコラボレーション事例

日本の地方の繊維中小企業と既存の企業とのコラボレーションの取り組みを紹介します。大企業は資金を投入し競争力のある先進的な技術開発を進めています。しかし、海外を跨いだ物流をもつ既存のビジネスモデルから脱却できておらず、富の分配や資源の回収まで機能しているようには見えません。まず、成功事例としてパタゴニアを紹介します。パタゴニアは地球環境に配慮した世界的に有名な企業ですが、大小さまざまなステークホルダーと連携し、一貫したパーパスをもち循環型システムを構築しています、他にも、日本の大手衣料品小売業であるファーストリテイリング、海外での事業展開が多い東レ、国内の衣料品会社で先端といくアダストリアを紹介します。

3.6.1 Patagonia


3.6.2 東レ株式会社

2021年の繊維事業の売上高は8,362億円に上ります。東レは糸製造事業以外にも事業の多角化とともに海外展開も積極的に行っています。繊維事業の成功には、2006年にユニクロとの戦略的パートナーシップ提携があります。インブランド戦略により、ユニクロのマーケティングチャネルおよび技術の開発資金を得ることで自社事業を発展させてきました。2023年3月には再資源化事業者の株式会社リファインバースグループと提携し、回収漁網からつくられる再生樹脂を原料に、独自の解再重合技術を活用したケミカルリサイクル繊維製品を国内で販売する予定です。2023年には約8億円、2025年度で約12億円の売上を目指しています。

さらに、東レは回収したPETボトルを原料にした再生繊維&+®というブランドを開始し、セブンイレブン等と協業して販売しています。&+®の衣服は独自のトレーサビリティシステムを使い、繊維原料に、特殊な添加剤をフットプリントとして投入することで、検知を可能にし、リサイクル証明書を発行しています。情報の透明性を考える際、タグではトレースできるのは販売までです。一方、東レが開発する原料への添加剤での追跡は、今後も多くの領域に展開できる可能性があります。

3.6.3 ファーストリテーリング

ユニクロ、ジーユー、セオリーなど複数のブランドを世界中で展開するグローバル企業。素材調達から企画、生産、販売までの一貫したプロセスにより、高品質な服をリーズナブルな価格で販売しています。世界のアパレル製造小売業の中で、売上第3位に位置します。[11]

グループの中核事業であるユニクロは、22の国と地域に約2,200店舗を出店し、約1兆9,000億円の売上を創出しています(2019年8月期末)。LifeWear(究極の普段着)のコンセプトに、高品質で機能性のある素材を使った独自商品で差別化を図っています。持続可能な素材の使用は 2030年度までに全商品の素材の50%を環境配慮型に切り替える方針(2022年時点で5%)で東レとともに研究・開発を進めています。そして、現在は海外にむけた店舗展開が進んでおりグレーターチャイナ、東南アジアのエリアへと広げています。低価格を強みとするGUは約2,400億円の売上を創出しています。店舗は日本で416店舗、香港や台湾を含むグレーターチャイナで35店舗を展開しています(2022年5月末時点)。また、2022年10月に初めてNYに出店しており、今後はグローバル展開を目指しています。

 Closed Loops:ケミカルリサイクルで繊維to繊維を実現する素材

2022年10月、東レと協業して、ナイロン繊維の端材や漁網の調達網を持ち原料段階まで化学分解する「ケミカルリサイクル」技術に強い企業と協業し、ジャケット表面に使う「側生地」を初めて再生品のナイロン100%にすることに成功しました。中綿の再利用には東レが開発した、商品裁断後に空気の流れでダウン、フェザー、生地に分離す装置が効率的な仕分けを実現しています。ダウンの回収は、2019年9月に店頭での回収を開始し、2022年4月までで累計100万着を回収しています。回収した製品のうち、品質がよいものは、リサイクルせずに難民キャンプに送るなどして再利用する場合もあります。着用に適さない服は固形燃料(RPF*)に転換しています。RPFは、大手製紙会社の専用ボイラーなどで使われています。

これまでも、ペットボトルをマテリアルリサイクルしてポリエステル繊維をつくり、フリースや下着などの衣料品を販売しています。ただし、ポリエステル繊維は、ペットボトルが大量に確保しやすく不純物が少ないためリサイクルしやすく、価格が安く抑えられる一方、ナイロンはリサイクルが難しいとされていました。パタゴニアなどが取り組んできましたが価格が高く大衆向けではありませんでした。アパレル市場の大部分を占めるユニクロが化石燃料でつくられたバージン素材の使用を大幅に減らすことにより、二酸化炭素の排出削減になるための大きなインパクトがあります。

 Slowing down the loops 長く着るリユースリペアサービスの展開

ユニクロのリペアサービスは、2021年8月にドイツにて現地のNGO、Berliner Stadtmissionと組んで開始しました。その後、米国、シンガポール、台湾でも展開されています。2022年9月英国・ロンドンのユニクロリージェントストリート店では、リペアサービスに加えて日本伝統の刺繍文化「刺し子の技法」を取り入れた高度なサービスが提供されています。これは日本人が運営するロンドン拠点のパターン・縫製スタジオ「Studio Masachuka」と協力して行われ、値段は10ポンド(約1,650円)からとリーズナブルです。今後は、各国・地域にサービスを拡大する予定です。

2022年10月には日本の東京郊外で、衣服のリペアサービスやリメイクなどのカスタマイズサービス「RE.UNIQLO STUDIO」のトライアルを開始しました。しかし、実際に店舗を訪れたところ、化繊製品へのリペアサービスはわずかであり、刺繍サービスは機械で行わる限定的なものでした。また、この店舗は東京駅から50分ほどかかる郊外に位置しており、他国の高級街への出店と比較して、日本での需要のあるサービスではない印象をうけました。このトライアルは2023年3月まで続く予定です。


Less Resources Use情報製造小売業への転換

ユニクロは、情報を商品化する新しい産業「情報製造小売業」に業態を変革させ、サプライチェーン全体と店舗で廃棄物を削減するために、デジタル技術を利用して生産から物流までの在庫管理を改善し、過剰生産を削減しています。ユニクロは、2018年以降、全商品にRFIDタグを貼り付け、最適な在庫管理や無人レジなど店舗業務の効率化が可能になりました。2023年からは商品ごとにサプライチェーンの情報を開示し、2025年には商品ごとに縫製した国、原材料の生産国なども情報選別した上で順次開示する予定です。コットンに関しては、紡績工場を特定し、工場を訪問して労働環境やトレーサビリティ情報の正確さを確認するなどの取り組みが活発化しています。

3.6.4 株式会社ZOZO

日本最大のファッションサイト「ZOZOTOWN」を運営するアパレルECモール。1,400以上のショップ、8,400以上のブランドがあり、83万点以上の商品アイテム数を掲載しています。採寸、集客、出品、梱包&発送、サポート対応まで、全てを一貫して行っており効率的な物流システムをもっています。また、3D計測用ボディースーツなど独自のバーチャル試着サービスなど、計測テクノロジーを活用してEC小売に頻発するサイズが合わない商品の出荷および返品にともなう、物流や環境負荷を低減や廃棄物削減をしています。その他、買い取り販売するサービス「ZOZOUSED」はこれまで700万点以上取引されています。商品を回収する際は、オリジナルの「リユースバッグ」を使用して梱包資材を使わず簡単に発送準備ができる上、環境に配慮した便利な不織布製で洗濯して再利用されています。また買い取りをした商品は必要があればリーニングをおこない最大限の再販売化に努めています。焼却・棄却処分された場合のCO₂排出量を換算すると年間約3,221トンの削減につながります。

2022年6月よりコーディネート投稿アプリ「WEAR」にてユーザーが手持ちのファッションアイテムを出品し販売できる、個人間売買の「ソーシャルコマース機能」が実装されました。ファッション専門小売では唯一のフリーマーケットプラットフォームです。2022年に累計ダウンロード数1600万を超えています。今後はリコマースプラットフォームを充実させていくとみられます。またソーシャルコマース機能で収集したデータは、WEARだけでなく、本体のZOZOTOWNのサービス改善やリコメンド機能にも利活用していき、自身のマーケティングに活用させていくなど売上に繋げています。

3.6.5 株式会社アダストリア

カジュアルファッション専門店チェーン。同社は1953年に創業し、30以上のブランドを展開、国内外で約1,400店舗を展開しています。売上高は約1,838億円で、正社員は5,701名です。同社は、サステナブルな素材の使用や、リサイクルに取り組んでいます。売れ残った在庫の衣類に京都紋付が黒染めを施し再販する(Remake)、紡績時に廃棄される短繊維を再利用した素材独自開発(Reuse)するなどで、2020年度に在庫の焼却廃棄ゼロを達成し、衣服回収実績27,072枚約9t、ショッピングバッグの削減を累計約449万枚達成しています。EC専業ブランド『o0u 』では、Higg IndexのMSIを活用し、各商品において、原料使用料、混紡率、加工や製法などの細かな要素を掛け合わせてスコアを算出し、商品ごとのCO₂排出量と水使用量を開示しています。子供服のシェアリングサービスも行っていましたが、ビジネスが軌道に乗らず2021年に終了しています。

 

3.7 サーキュラーファッション推進組織

日本には循環型経済を推進する組織がいくつかあります。その中でもファッションにおいてアクションを起こしている例を以下ご紹介します。

 

ジャパンサステナブルファッションアライアンス[12] (JSFA)

2021年8月に発足したアライアンスです。2050年にはカーボンニュートラル、および、適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロを目標に置いています。2022年4月時点で合計44社のファッション・繊維企業が加盟し、経済産業省、環境省、消費者庁がパブリックパートナーとなっています。各ステークホルダーの情報交換は行っているようですが、動きがあまり見えませんでした。

 

一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)

日本のアパレル産業の健全な発展を図るために1979年に発足した、日本のアパレルメーカーの団体です。1985年に設立された日本ファッション産業協議会によりつくられた認証制度“J∞QUALITY[13]”は協会統合とともに、JAFICに移管されました。 J∞QUALITYは、モノづくりにおけるクオリティーを限りなく追求した日本商品を総合的に評価し、その結果に基づいて「J∞QUALITYマーク」の認定を行います。J∞QUALITYのサイトではFACTORY ∞ SEARCHという機能があり、全国500社以上の工場をキーワードから検索でき、デザイナーとのマッチングができます。日本語版のみならず、英語、中国語、韓国語に対応しています。

システムの変換には多くの人のパラダイムシフトが必要です。コストと考えるのではなく、新しいビジネスの機会として捉え、市民社会とビジネス界を繋げることが循環型経済の実現にむけて重要となります。

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[11] https://www.fastretailing.com/jp/sustainability/environment/waste.html

[12] https://jsfa.info/

[13] https://jquality.jp/

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