創作怪談 『友の訪問』

  休憩中、直樹が昼食を食べていると、彼のスマホが震えた。今はほとんど使わないメールアドレスに一通のメールが届いていた。
高校の頃の友達、優斗からだった。
  大学は別だったが、それなりに連絡を取り合い、長期休みの度に遊んでいた。しかし、その優斗は地元から離れ就職し、かなり遠い土地に引っ越してしまった。更には互いに忙しく会う機会がなくなり、そのうち連絡も取らなくなって疎遠になっていた。
どうやら地元に帰ることになったらしく、久々に会いたいといった連絡だった。久しぶりの連絡に心が躍った。すぐさま返事を返す。何度かやり取りを繰り返し、数日後に直樹の家に集まることになった。

  再会の日、久々に会った優斗は思い出の中と比べて随分と痩せていた。思わず大丈夫か?と聞いてしまうぐらいには、やつれ、疲れた顔をしている。
「第一声がそれかよ」優斗は笑いながらそう言った。部屋に上がってもらい、早速、優斗が買ってきてくれたおつまみや酒を広げる。
心配もあり、近況を聞くが優斗は普通だと言う。特に何もない、ただ最近忙しくて休みが取れなかった。そんなことを言っていた。
「お前はどうなんだ」と聞かれ、思わず日々の仕事の愚痴をこぼしたり、恋人について惚気話をしたりした。
  そのうちに話は思い出話に移行する。酒も進み、思い出話に花が咲く。色々話していると、さらに色々思い出してきて、さらに盛り上がる。夜も更けて、かなり遅い時間になった。優斗には家に泊まっていくように説得し、二人で飲み明かす。会えなかった数年間を埋めるように、会話を楽しんだ。

  翌日、もう太陽が登りきった頃に、直樹はソファーで目を覚ました。
いつ眠ったのか、記憶がない。部屋を見渡しても、優斗は居ない。
昨夜、片づけをした記憶はないが部屋は綺麗だった。ゴミや酒の空き缶もない。
優斗が部屋に来た形跡が一切なかった。
真面目な優斗が持って帰ったのだろうか?メモもないし、メールも来ていない。
  メールを送ってみるが、返事が来たのはそれから数日後のことだった。
再び会う約束をした、そのまた数日後、優斗は直樹の家にやってきた。
なんで、何も言わず帰ったのかと聞く。
「ごめん、ごめん」と優斗は笑った。
その夜も、二人で色々な話をした。

  翌日、また昼過ぎに直樹はソファーで目を覚ました。
そしてまた、優斗は居なかった。
部屋も綺麗に片づいている。
メモ等もない、メールを送ってみると、予想に反してすぐメールが届いた。
  しかし、それはアドレスに誤りがあることを知らせるエラーメッセージだった。
そんなはずはないと、先日優斗から届いたメールを受信ボックスを探すが、見当たらない。
削除してしまったのだろうか?

アドレス帳から、優斗の電話番号を探し、電話をかける。

「もしもし」相手は女の人だった。優斗について聞いてみるが、相手は怪訝そうな声で知らないと言う。謝罪し電話を切る。

直樹は困惑しながら、ただスマホを見つめた。

そういえばと思い出し、アドレス帳を確認すると、優斗の実家の番号が登録してあった。そちらに電話をかけてみる。

電話に出たのは、優斗の母親だった。
何度か会ったことがあるので、名前を伝えると、すぐにピンと来たようだった。

「ごめんね、直樹くんには連絡してなかったね」

そう言って、優斗の母親は話し出すが、それは、にわかには信じがたいものだった。

  優斗は一年前に交通事故で亡くなっていた。
優斗が勤めていた会社はかなりのブラックだったらしく、残業続きで睡眠もろくに取れていない状態だったようだ。
両親にも相談をしていて、両親は仕事を辞めて帰って来いと言っていたらしいのだが、責任感の強かった優斗は仕事が片付くまではやめられないと、仕事を続けていた。
寝不足で注意散漫な状態で帰宅している最中での事故だったようだ。

優斗の母親にお悔やみを言って、後日お参りに行くことを約束し電話を切った。

直樹はソファーに横になり考える。
あの優斗は、自分の思い出が作り出した、ただの夢だったのだろうか。
それとも優斗は私に会いたくて、来てくれたのだろうか。
どちらにしろ、何も分からない。
その後、優斗からメールが届くことはなかった。

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