創作怪談 『道連れ』

毎日、会社からの帰り道に小さな神社を通る。
その神社は古びていて、日中も参拝客を見かけることはほとんどなかった。

ある夜、残業で遅くなった帰り道、神社の前を通りかかると、境内の奥の方に人影が見えた気がした。不思議に思って、足を止める。
気になりそちらの方へと歩み寄る。
そこには小さな女の子が立っていた。
その子は悲しそうな顔をしている。

「どうしたの?」
声をかけると、その子は少し驚いたような表情をして、小さな声で答える。
「お母さんを探してるの」

「一緒に探してあげる」
そう言って、その子に手を差し出すと握り返してくれたが、その手はとても冷たかった。
少し肌寒い時期だ、長い時間外にいたのだろうか?

2人で神社の境内や、外に出て近くを歩き回るが、どれだけ探しても母親は見つからない。

流石に警察に連絡した方がいいと判断して、スマホを取り出した。
その時、女の子が急に手を離して、神社の奥の方に走り出す。
「待って!」
急いで、彼女を追いかける。

女の子は神社の裏手にある小堂の前で立ち止まり、振り返る。
虚ろでどこか不気味な目で見つめてきた。
「お母さんここにいるの」
そう言って小堂の扉を開けた。
中には古い人形が置かれていた。
その目は、まるで生きているかのようだった。
背筋に寒気が走った。

「ほらね?」
女の子は微笑みながらそう言った。

その瞬間、足が何かに引っ張られるような感覚があった。
驚いて足元を見ると、地面から半透明な手が数本伸びている。その中の一つの手が足首を掴んでいた。身体中にその手は伸びてきて、体を押さえ込もうとしてくる。
必死に抵抗しようと身をよじるが、手の力は段々と強くなり、地面に引きずり込もうとしているかのようだった。

「助けて!」
そう叫んだが、声は闇に吸い込まれる。
女の子はこちらをじっと見つめてくる。

「あなたも一緒に来て」

目が覚めた。
周囲を見渡すと、神社の鳥居の前でうつ伏せで倒れていることが分かった。
辺りは暗く、静寂に包まれている。
起き上がり、スマホを見てみると、時間はほとんど経っていなかった。
夢か現実かは分からないが、とにかくここから離れなければ。
そう思い、急いでその場を離れた。
あれはなんだったのだろうか、いくら考えても分からないが、無事でよかった。
二度とその神社の前を通ることはしなかったのだが、あの夜のことは今でも鮮明に覚えている。

でも、時々、不安になることがある。
私は本当に無事なのだろうか。
あの日から、なんだか漠然とした違和感が拭いきれないでいる。

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