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創作怪談『海の精霊 後編』

 
  翌朝、全員が寝不足で起き上がった。
お酒が残っているせいか体がだるい。
美味しい朝食を食べながら、今日一日の計画を立てて、友人の実家に顔を出がてら、町を散策してみるかということになった。
  そんなに広くはない、田舎の港町を三人でブラブラと歩き回る。
観光地などはないが、なかなかに楽しい散策になった。
  途中、昨日の子どもたちに会い、引っ張られて結局海に行くことになった。

  結局夕方近くまで遊び、少し早いが地元の居酒屋で夕飯を食べることにした。
美味しい海の幸を味わって店を出ると、すっかり夜になっていた。
酔いも手伝い、夜の海へと向かうことにした。
海岸に着くと満月の光が波間に反射し、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
蓮たちはその美しさに見とれながら、岩に腰を下ろした。

  しばらくすると、海からリズミカルな音が聞こえてきた。
波の音に混じり聞こえてきた音。
蓮はその音に聞き覚えがあった。

パチャッ、パチャッ

寝ていた時に聞いた音だ。
三人は不思議に思い、音の方をじっと見つめた。
その時、波間に何かが揺れているのが見えた。
それは、人の形をしているようだったが、どこか異様だった。

「見ろよ、あれが海の精か?」
友人が興奮気味に言った。
蓮はその存在に強く引きつけられ、気づけば立ち上がっていた。
波間に浮かぶ影は徐々に近づいてきて、彼らの前に姿を現した。
  それは確かに人の形をしていたが、髪は濡れているのか海藻のように見える、肌は青白かった。
その姿は人のようだが、月明かりに照らされて身体中に鱗のようなものがが見え、魚類を思わせる雰囲気があった、幻想的で美しく見える気もするが、どこか不気味な生物だ。

  その生き物は、じっと蓮たちを見つめた後、手招きをした。
その目にはどこか哀しげな表情が宿っているように見えた。
蓮は、無意識のうちにそちらに向かい、手を伸ばそうとした。
「やめろ、何をしているんだ!」
その瞬間、友人たちが蓮を引き止める。
その声に我に返った蓮は、恐怖と驚きで震えた。

  次の瞬間、その影は海に溶け込むように消え、夜の海に再び波の音が響く。
  蓮たちはその場から急いで立ち去り、宿に戻った。
誰も口を開くことなく、ただ無言で部屋に戻ると、ようやく蓮は口を開く「あれは何だったんだ……」
友人は 「分からない、初めて見た」
そう言って首を振る。

  蓮たちはすぐ、友人のおじさんに話しをしたのだが、おじさんは「海の精」伝説についての話を繰り返すばかりだった。
 
  次の日、町の人々に尋ねて回ってみるが、同じような話を繰り返していた。
  例の老人の家にも行った。
老人にも話を聞いてみるのだが、最初はあの時のようにきつい方言で「夜は海に行くな」というようなことを繰り返していたのだが、昨日見たあの不思議な生き物の話をすると急に口を噤んだ。
  何を言ってもそれ以上は答えなかったが、一言
「二度と、その話はするな」そう言って蓮たち三人を家から追い出した。
  その日、なんだかモヤモヤとした気持ちで帰路に着くことになった。
帰りの車の中少し話し合い、その後、蓮たちはその不思議な体験について、二度と口にすることはしなかった。

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