創作怪談 『合わせ鏡』

大学生の私と友人たちは、心霊スポット巡りや降霊術など、ネット上で見つけた眉眉唾物のそういったことを試すのが趣味だった。ひとりかくれんぼやこっくりさんなど、色々やり尽くしてしまい、もう新しいことが見つからなかった。

心霊スポット巡りをしたり、降霊術を試したりしても、それらしいことが起こることはほとんどなかった。それでも、何か起きないかと期待して、色々試す日々だった。

ある日、何か面白そうなものはないかとネットを漁っていたところ、目に留まったのは「合わせ鏡」
ベタだが、そういえば一度もやったことがない。

「合わせ鏡」は、自分の後ろ姿を見るために鏡を2枚向かい合わせに設置することを言うが、風水的にはやってはいけないとされていたり、未来の姿が見える、幽霊の通り道になる、海外では悪魔を呼ぶなど、いろいろ言われている。特に夜中の12時や丑三つ時(夜中の2時)に合わせ鏡をすると、そういった現象が起きるらしい。

確かに無限に続く鏡の中に自分が何人も映るのは気味が悪いし、一人ぐらい別の動きをしているように感じることもある。しかし、さすがに悪魔が出ることはないだろう。

友人に話してみると、やってみようということになった。友人のうち、1人がやりたいと言い出した。
彼女は普段の肝試しなどでも積極的だったので、皆が笑って同意した。

その夜、彼女の家に集まった。お菓子を食べながら怪談話をしつつ、時間になるのを待った。時計の針が夜中の2時を指す少し前から準備を始めた。友人宅にあった姿見と、同じアパートに住む私が部屋から持ってきた姿見を向かい合わせに置いた。そして、部屋を真っ暗にし、ロウソクを設置して照明とした。

10分くらい一人でやってみるというので、私たちは私の部屋へ移動し、スマホで友人にテレビ電話をかけた。ロウソクの明かりに照らされて少し不気味に見える友人の顔が映る。
彼女は自分が映る位置にスマホを置き、鏡と鏡の間に座った。

あっという間に真夜中の2時になった。初めは何も起こらなかった。友人も笑って「何も起きないなぁ」と言っていた。しかし、そろそろそっちの部屋に戻るかと言い出した頃だった。

「なにこれ……」震えた声がスマホのスピーカー越しに聞こえてきた。
画面はいつの間にか真っ暗になっていた。

「大丈夫?」と声をかけるが、返事はなく、ただ焦ったように
「えっ?」と繰り返すだけだった。

急いで彼女の部屋に向かい、入るとロウソクが消えているようだった。電気をつけると彼女は恐怖を浮かべ、鏡を見ていた。
ロウソクは倒れていたが、火が移ったりはしていないようだ。
彼女は何かに怯えるように震えていた。

「大丈夫?」と近づいて背中を擦る。
「鏡に……」と言って鏡を指差した。
鏡を見たが、私と友人が何人も映っているだけで特に変な所や違和感はなかった。
それでも彼女は鏡をみて目を見開き怯えている。

「大丈夫だよ、片付けよう」そう言ってロウソクや鏡を片付けた。

その日はみんなでその家に泊まる事にした。
翌朝には彼女は落ち着いていたので、何があったのかと聞いてみるが、
「何もない」と言う。
もう大丈夫だというので、みんなそれぞれ自宅へ戻った。

けれど、それ以来彼女は鏡を見ることを極端に嫌がるようになった。そのためか、髪もボサボサで身なりに気を使わなくなっていた。
それに何より、常に何かに怯えて過ごしている。

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