創作怪談 『廃墟で見た少女』 前編

  仕事帰り、随分と久しぶりに友人に会った。
大学時代の友人で、かなり仲が良かったが、就職して仕事に忙殺されるうちに連絡を取らなくなってしまった友人だった。
ここで会ったのも何かの縁と、飲みに行くことにした。
  うだつの上がらない近況を誤魔化そうと、話の流れをなるべく思い出話にもって行く。
思った以上に、話に花が咲き、色々なことを思い出した。
当時の恋人や、仲の良かった友人たち、気難しかったゼミの教授、どれもこれも懐かしかった。
特に懐かしかったのは、廃墟巡りだった。
  当時、写真家志望だった私は、廃墟巡りが趣味だった彼についてまわり、廃墟の写真を撮っていた。
結局、写真に全く関係ない企業の会社員になったのだが、今でも趣味で写真は続けている。
そういえば、そうだったな、そんな相槌を繰り返す。
友人は変わらず、廃墟巡りをしているらしい。
話を聞いていると、友人は、また行こうと言い出した。
かつて訪れた廃墟の一つが、近々取り壊しになるらしい。
お前、そこ気に入ったのか、めちゃくちゃ気合入って写真撮ってたよな、
なんて言われるが、記憶にない。
どんなところだったっけ?
考えているうちに、次の休みにそこへ行くことになっていた。

  その日の夜、夢を見た。
そこは室内のようだったが、荒れ果てている。
私は見知らぬ少女をカメラ越しに見ていた。
少女は、白いワンピースを着ていて、肌の色がそのワンピースよりも白い、病的な青白い色をしていた。
そしてどこか陰気な雰囲気が漂っている。
彼女を以前、見た気がする。
ここはどこだっただろうか、なんだか懐かしい気もした。

  約束の日、自宅まで迎えに来てくれた友人の車に乗り込み、例の廃墟へと向かう。
道中、その廃墟について色々と話を聞き、少しだけ記憶がよみがえった。
  その廃墟は、何の施設だったのか、何故廃墟になったのかは、その当時は知らなかったし、調べもしなかった。
だが、今回行くにあたって友人は調べたらしい。
そこはかつてホテルだった。
火事が起きて、廃業になり、そのまま放置された建物だったらしい。
  あぁ、あそこか。
ふと当時を思い出す。
そうだ、あそこで見たんだ、あの夢に出てきた場所だ。
そう言えば、お前あそこで女の子見たって言ってた。
友人はそう言って笑った。
夢との一致にドキリとして、聞き返す。
どうやらその時、そこで女の子を見ているらしい。 

 あの日、私と今運転している友人、そしてもう一人の友人を引き連れて、その廃墟へと向かった。
廃墟は今まで行った廃墟と違い、何故か、とてつもなく惹かれた。
友人たちを置いて、一人でいろんな場所を探索しながら写真を撮っていく。
そうだ、とある部屋に白いワンピースを着た、青白い少女がいたのだ。
声を掛けてみるが、その子はこちらには目もくれず、部屋を出ていった。
私は彼女を追いかける。
彼女はこちらを気にする様子もなく、廃墟の中を歩き回っていた。
  思い出した、怪我をしたのは、あの場所だった。
彼女の後をつけるようについて歩いていたのだが、脆くなっていたようで床が抜け、足を取られ、盛大にこけてしまった。
カメラを死守しようと変に体の向きを変えたせいで、足首をひねった上に、抜けた床の木材で、切り傷ができたりして散々だった。
その騒ぎでその女の子を見失ってしまった。駆けつけてきた友人2人に、少女について話して、一緒に捜してみるが、結局彼女は見つからなかった。

  あの子が何だったのか、どうしてあの場所と彼女に強く惹かれたのかは分からないが、何故か惹かれたのを思い出す。
結局あの子は何者だったのだろう。
あの時友人たちは幽霊を見たんだと騒いでいたことも思い出した。
  何枚か、彼女を写真に収めていたはずだと、友人に言ってみる。
友人はそんな写真はなかったと言いながら、彼は信号待ちの間に、後部座席に置かれていた彼のカバンの中からアルバムを取り出した。
中身は全部私の撮った写真で、ほとんどが廃墟の写真だったが、所々、当時の友人たちの姿が写った物もある。
丁寧に日付も記入してある。
友人が指定する日付を見てみれば、そうそう、夢に出てきて、先ほど思い出してきたあの風景が写っている。
しかし、友人の言うように、あの時見た少女の姿は写っていない。
写真を撮ったと思っていたのは記憶違いだったのだろうか?

そんなことを思っていると、その廃墟に到着した。

続く


続きができました。


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