創作怪談 『廃墟で見た少女』 後編

続きのお話


  十年程時間が経っているからか、記憶の中や写真に写っている様子と多少変わっている。
焼けずに残っていた壁には落書きが増え、季節のせいか、あの時よりも雑草も多く荒れているように思えた。
あの時は感じなかった、嫌な雰囲気が漂っているのも感じる。
写真を撮りつつ、散策する。
友人が笑いながら、足元に注意しろ、と言ってくるのを無視して、あの少女を見たあの部屋へと向かう。
部屋に到着すると、いた。
あの時見て、夢にも出てきたあの少女だ。

  変わらず、白いワンピースを着ていて、肌は病的な青白さだ。
あの時と同じように、こちらには見向きもしない。
おい、と友人に声を掛け、彼女の方を指さすが、なんだ?と言いながらキョロキョロしている。
友人には見えていないようだ。
 
  私にだけ見えているその少女は、あの時と同じように、部屋を出て行く。
あの時と同じように、私は彼女を追いかけた。
ほとんどすべてが、あの時と同じだった。
あの時と違うのは、彼女を追いかける私の後ろを追いかけるように、友人が歩いているということだった。
友人が何か話しかけてきているが、適当に返事をしながらただ彼女を追いかけた。
途中で彼女の様子を写真に収める。
 あの時怪我をした場所までたどり着く。
抜けた床はそのままだった。
友人は、気を付けろよ、と改めて声を掛けてきた。
それに頷き、さらに彼女について行く。
今回は彼女を見失わずに済んだ。
彼女は変わらず、こちらを見向きもしない。
 
  歩き回っていた彼女がふと立ち止まった。
彼女は、そこでじっと立ちすくんでいた。
と思った次の瞬間だった。
今まで一切目が合わなかった彼女が、こちらを振り返り、バチりと目が合う。
無表情だった彼女が急に顔を歪めた。
彼女はこちらに助けを求めるかのように、こちらに手を伸ばして来た。
白いワンピースは所々黒くなり始める。
それはまるで炎に焼かれているかのようだった。
彼女自身の肌自体も見えない炎が焼き始めた。
彼女は苦しみながら、見えない炎を消そうともがき暴れていた。
私はすぐさまその様子から目を逸らした。
耳を両手でふさぎながら、その場から走り去る。
実際には何も聞こえないのだが、彼女が苦しみ叫んでいるように思えたからだ。
  友人の私を呼ぶ声が、こもって聞こえてくる。
肩を掴まれ立ち止まる。
大丈夫か?という言葉とともに、顔をのぞき込まれた。
大丈夫、と言いながらも私は震えていた。
  今見たことを友人に説明するが、友人は困惑した表情だ。
とりあえず車へ戻ろうと、腕を引かれるまま、歩き出す。
彼女が気になってしょうがなかったのだが、私は振り返らなかった。

  帰りの車の中で先ほど起こったことをぐるぐると考えていると、いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。

  私は、あの廃墟の、先程までいたあの場所に立っていた。
目の前には彼女がいて、こちらに手を伸ばしてくる。
私は動くことができなかった。
彼女は苦しみ、暴れながらこちらへと近づいてくる。
彼女の手が、私の腕に触れた。

熱い、そう感じた瞬間に私は跳ね起きた。

  友人が私の肩に手をかけ、肩を揺らしていた。
コンビニの駐車場に止まっているらしい。
本当に大丈夫か?と心配そうに声を掛けてきた。
大丈夫、大丈夫、と言いながら夢の中で掴まれた腕を擦る。
腕を見ても、火傷や痣などはない、どうってことはない、ただの夢だ。
それ以降、あの廃墟や少女が夢に出てくることはなかった。

  結局、彼女は何だったのだろう。
火事で亡くなった人の一人だったのだろうか?
どうして私にだけ、彼女が見えて、どうして「彼女だけ」が見えたのか?
何もかもが分からない。
あの廃墟に惹かれたのは彼女のせい?
彼女を見ることができた私に、自分の死の様子を見せたかった?
彼女はあそこで、あれを繰り返している?
あの廃墟が取り壊された後、彼女はどうなってしまうのか?

疑問は尽きないが、私があの場所に戻ることは二度とないだろう。

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