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創作怪談 『天井 後編』

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 その夜を境に音と共に、不気味な低いささやき声が混じるようになった。
それは、何かが這い回る音の合間に、ひそひそと聞こえてくる。
聞き取れないぐらいの囁き声。
何かを訴えかけるような、しかし意味を成さない低い声だった。

  真奈はささやき声が言葉に聞こえる瞬間があると、それを理解しようと耳を澄ます。
しかし、声の発する言葉は何故か聞き取れなかった。
恐怖が真奈を飲み込み始めた。
次第に夜が来るのが怖くなって、眠れない日々が続く、真奈は仕事にも集中できなくなった。

  限界に達した真奈は再び大家の田中さんに相談するのだが
「古い家だからね、たまにこういうこともあるんだよ。君も確認したんだろ?何もいないんじゃ、対応も出来ないよ」
と言って、取り合ってくれない。

  疲れ果てた彼女は、アパートから逃げ出すことを決意した。
引越しの準備をしながら、急ぎで適当(なるべく新しい物件にした)に選び、明日引越しという所まで漕ぎ着けた。

  明日引越しという日の夜が更け、音とささやき声がピークに達した。
今までにないぐらいの大きな音や声が聞こえてくる。

カサカサ……カサカサ……
ズズズ……ズズズ……

それらに、真奈はパニックを起こし、家を飛び出した。
息が切れるまで走り続け、ようやくアパートから遠ざかると、ようやく静けさが訪れた。
音も声も、すべて消えてしまったかのように聞こえなくなった。

  翌朝、早急に引っ越し済ませ、彼女はもう二度とあのアパートには戻らないと心に決めた。
 
 それからが数年経った。
休みの日ダラダラと動画サイトで動画を見ているとたまたま、オカルトチャンネルがおすすめされていた。
そのサムネイルにはしっかりとモザイクがあったが、わかってしまった。
あのアパートだ。
好奇心で、その動画を再生する。
心霊スポット巡りをしている動画配信者グループのようで、真奈が住んでいるアパートは真奈が引っ越した後、住む人がいなくなり、無人になっていたそうで、さらに大家も失踪しているらしい。

 ご近所さんが以前そのアパートに住んでいた人から聞いたという話によると、とある一室で夜な夜な異音がして、心霊スポットとして話題になっているとグループのメンバーのうち、リーダーのような人物が説明をしていた。
それじゃあ、入ってみます!とテンション高く、その配信者が言ったところで、真奈は動画を閉じた。

  真奈があの部屋で感じた恐怖は、そのまま部屋に残り続けているようだ。
誰もいなくなった部屋で、音と声は今もなお、静かに響いているのだろう。

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