創作怪談 『最終電車』

バイト帰り、最終電車を利用して帰宅することが多かった翔太は、その日もいつものように電車に乗り込んだ。
車両内はがらがらで、乗客はまばらに座っている。一日学校で、その後すぐバイトだったので疲れきっていた翔太は、ドアの近くの席に腰を下ろして、スマホをいじっていたがいつの間にか、うつらうつらとしていた。
次の駅に着いた時、ドアの開く音に、ハッとして顔を上げる。
車内アナウンスは乗車した駅の、次の駅名を告げており、10分も経っていなかった。

開いた扉から、1人ゆっくりと女性が乗り込んでくる。
その女性は真っ白なワンピースを着ていて、顔色も青白い。
無表情で車内を見渡し、翔太の座っているのと同じシートの数席空けた隣に座った。
何故だか気になり、思わず目で追ってしまう。
目が合った、結構美人だ。
翔太は気まずくなって、目をそらしスマホに視線を落とす。
しかし、視線を感じる。
女性はこちらを見つめているような気がしてならない。

1駅、2駅と過ぎてゆく、元々少なかった乗客が1人、2人と降りてゆく、翔太が降りるのは終点だ。
イヤホンを付けて音楽を聴きながら、スマホの画面をぼーっと見ているのだが、やはりなんとなく視線を感じる。

周りを見渡すフリをして、女性の方に視線を向ける。やはりこちらを見ている。
美人だが、不気味だ。
女性は降りる様子は無い。

スマホを弄ったり、外の景色を見る事で気を紛らわしていたのだが、なんだかソワソワする。その時、車内アナウンスが流れた。
終点の1つ前の駅が近いことを告げるアナウンスに、翔太は妙な胸騒ぎを覚えた。

ふと、隣に視線をやる。
女性が居ない。
「え?」思わず声が漏れた。
翔太は驚き、周囲を見渡す。
別の車両に移動したのだろうか?足音も聞こえなかったのだが。
何よりここは先頭車両で、別の車両に移るには翔太の前を通らないと、移動はできない。
車両内を見渡すが、誰もいない。
心拍数が上がる。

電車は駅に止まる。
翔太は急いで電車を降りた。
ベンチに座り、バクバクと脈打つ心臓をどうにか落ち着かせようとする。
段々と落ち着いてきた、女性は移動していて、しっかりと車内を見たつもりだったが、きっと見落としていたのだろう。
怖がることは無い、翔太は自分に言い聞かせた。

電車が発車した。
終電だったので、最寄りの駅に行く電車はもう無い。
タクシーに乗るかと立ち上がろうとする。
ふと、反対ホームが目に入る。
あの女性が立っている。
彼女は無表情のまま、じっと翔太を見つめている。

翔太はとてつもない恐怖に駆られ、駅を飛び出す。タクシーを捕まえて、家へと急いだ。

それからしばらくして、翔太はとある噂を聞いた。とある女性の自殺の噂だ。
その噂と翔太が見た女性が関係あるかどうかは分からないが、自殺した人の最寄り駅は、女性が乗り込んできた駅で、亡くなったのが、あの日翔太が降りた駅だった。
もちろん、それもあくまで噂。
それでも、翔太はそれからなるべくその電車を避けるようになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?