妄想のカケラ【捨てられない者】
#85 捨てられない者
いつの間にか部屋に住み着いた「後悔」を
アパートのゴミ置き場に人目につかぬよう夜中にそっと捨てた
やれやれと部屋に戻ると
ヤツ(後悔)はゆらゆらと部屋に立っていた。
むむぅ
ならばもっと遠くに捨てにいくか…?
それから僕は何度も場所を変えて
何度もヤツを捨てた
けれど、ヤツは必ず先に戻ってゆらゆらと無表情に立っている
....
何回捨てたのかよくわからなくなった頃、
僕はついに諦め、このままヤツと一緒に暮らすことにした。
「もう好きなだけここに居ていいよ。
同居記念に一緒にビールでもどうだい?」
はじめて「後悔」に話かけた
でも、「後悔」はゆらゆらとしながら透明になり
やがて消えてしまった...
なんだ...
わざわざ捨てに行かなくても良かったのか.
拍子抜けな気分に何故かさみしさが混じっている
それらをごまかすように僕は缶ビールを一気に飲み干す。
いつもよりビールが苦く感じるのは
受け入れた苦い思い出のせいなのだろうか.…
<おしまい>
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