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猫から始まる恋もある(シロクマ文芸部)

恋は猫から始まった

知人以上恋人未満の男友達からメッセージが入った

猫を拾った
助けて

思わず拾ってしまった小さな命の画像とともに

安易に命を拾ってしまった彼に小さな怒りを覚えつつ
送られた画像にハートを射抜かれて
今行く!
とすぐ返事をして
まだ残してあった猫の生活道具を抱えて
はじめて彼の家に行ったのが3年ほど前

小さくてか細い茶トラの仔猫は
その後、どんどん成長して
いまやりっぱなどすこいにゃんこになっていたが
それでもまたさらに愛おしさは増すばかり

私は毎週のように猫に会いにきている。

猫好きというより猫変態とか猫フェチとか
そんな言葉の方が合うほど猫を愛しているのに自分で飼わないのは
長年連れ添った愛猫への思いもあるけれど
それ以上に再び自分ひとりで命に責任を持って見送ることに臆病になっていたから、
そして、それは人間に対しても同じだ....

......

通りすがりに猫を飼うことになった彼に対して
最初はしっかり世話が出来るかどうか不安があったけれど
予想外に、いやそれ以上に、彼はしっかり猫の世話を続けている。

しかも、自分で責任をとるのが苦しいからと
友人宅を猫カフェ替わりにして心の隙間を埋めている私のことまでも受け入れてしまっている

なかなかに懐の深い男だったのだな....
と感心しているし
何の見返りもなく猫と会わせてくれる事にも感謝しているけれど
でも、これは恋とかそういうんじゃなくて
あくまでも友人の範囲だと、毎週、私はココロの境界線を敷いて遊びに行っていた

ある日、いつものように猫じゃらしで遊ぼうとするとあまりにも元気がない様子。

昨日から少し大人しいんだよね。ごはんも残しちゃうし
と彼も言うので心配になり
急きょかかりつけの動物病院に付き添った

二人で行くのははじめてだ

検査後、診察室に呼ばれて二人で結果を聞こうとすると

「ネコちゃんのお父さんとお母さんですね」と獣医さんが言った。

え?え?おかあさん?あたしが?
と戸惑う私

お父さんと呼ばれた彼も赤くなっている

動物病院ではそう呼ばれることは私も彼も当然知っていたけれど
二人で居るときにそう呼ばれることは想定外で
何故かかなり恥ずかしい....

....

猫は軽い胃腸炎という診断だった。
点滴をして診察が終わり処方食とお薬を貰った
猫は来院した時より少し疲れているように見えたけれど、状態は落ち着いたように思えた

彼の家に戻ると猫を寝床に入れ
薄い布をかぶせて薄暗くすると
もぞもぞっと音がしてふぅ~っとため息のような息のもれる音がして、堪らずそっと覗いてみると丸くなって眠っていた。

明日になったら元気になるだろうか?
私の知らない夜のうちにどうにかなっていたらどうしよう?

忘れかけていたあの不安が襲いかかる
涙がとまらなくなって
どうしていいかわからなくなってきたら

彼がそっと抱きしめて言ってくれた

大丈夫
僕と君
二人でみてるから
大丈夫

この夜、私は、彼がココロの境界線を越えることを少しだけ許容した。

......

カーテンの隙間から朝の気配がする

どさっ!!
何か重たいものが寝ている私の身体の上に乗っかった

猫だ!
寝床から出てきた
元気になったんだ!
良かった
うれしい

起き上がり
むぎゅっと抱きしめてモフモフすると
猫はベッドから飛び降りて面倒くさそうに言った

「そんなに好きならみんなで一緒に暮らしたらいいじゃん」

空耳だったのかもしれないけれど

「そうだね。そうしようね」

私は小さくつぶやいた。
隣でまだ寝ている彼には聞こえないように

.......

にゃう~
猫がごはんの催促をしている。

そうだ!ごはんをあげなきゃ

昨日病院で貰った病み上がり用の処方食を開けて用意していると
今度は足元から聞こえた。

「ねぇ~、それ、不味そうだから
ちゅーるだしてヨ=^_^=」

足元にこちらを見上げる猫が居た

やっぱり空耳ではなかったのか...(笑

<おしまい>

小牧さんの企画に参加しました。
今回もステキなお題をありがとうございます。
この作品は、結婚当初から飼っていた猫と私たち夫婦のエピソードが下敷きになっています。

前回のシロクマ文芸部参加作品はこちらです↓


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