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PIPE DREAM(2019) ④愛宕山

2019年1月3日
右京区 愛宕山にて

 河井朗と愛宕山に登る。
 前日、待ち合わせは何時がいい? と訊ねられ、昼過ぎだとうれしいけど、と伝えると、すぐに「却下、9時に嵐山で」と言われた。
 河井朗も私も7分遅れて嵐山へ着いた。バス停でバスを待ちながら、河井朗は「なんかいいことあったらいいなー」と言った。
 バスのなかで、風俗、登山、銭湯はどこか似ているものに思える、という話をした。そこに固定されたものに会いにゆく感覚。どこか神々しくて、ゲン担ぎのような響きもある。

 山の空気はひりついていて冷たい。天気は快晴、運動不足を感じながらもなんとか足を進める。
 「今日はよく喋りますね」。河井朗がわたしに向かって言う。たしかに、自分でも今日はよく喋るなとおもっていた。慣れないシチュエーションに、どこか気分が浮ついているようだった。

 道中あるときから急に雪が降り始め、あ、雪などと言いながら登り進めているうちに、周囲にはあっという間に雪が積もっていた。

 休憩所には、探しびとの掲示がある。2人のおじいさんの、顔写真、名前、失踪時の服装の特徴など。と同時に、休憩所の柱や屋根にはたくさんの日付と名前が書かれている。いなくなってしまった人と、今ここへ来たことを記す人。
 その中に「朗」という名前を見つけ、河井朗はにわかに「同じ名前かもしれない」と言った。言って、すぐに、「いや、アキラかな」と訂正した。

 便所の落書き、卒業前に学校の机に名前を刻むこと、木彫りのレリーフ、刺青、墓石の名前。
 記すこと、刻むこと、自己掲示欲とたしかめること。その瞬間に固定されるもの。

 神社で御神酒をいただき、おみくじを引いた。河井朗もわたしも半吉。少し休憩して下山する。時刻はまだ16時半だった。帰りのバスで、深く眠った。
 桂駅で降りてきとうな居酒屋に入る。河井朗は、京都は川なのかもしれない、と言った。
 流れてゆくもの、うつろってゆくもの、どうしようもなく変わってしまうもの。いつか海にたどり着くその途中。
 23時半ごろ、終電を気にしながら解散。よい1日だった。


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Kyoto演劇フェスティバル
京都府文化芸術会館 U30支援プログラム
ルサンチカ『PIPE DREAM(2019)』
会場:京都府文化芸術会館 ホール
時間:2019年2月16日(土) 17:30
料金:一般|前売 ¥1,000- / 当日 ¥1,200-
   高校生以下|前売 ¥500- / 当日 ¥700-
予約:https://www.quartet-online.net/ticket/u30
WEB:https://www.ressenchka.com/


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