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共存.1

ついさっきまで喫茶店で一緒にお茶をしていた友達が吸っていたタバコの匂いが染み付いている。

タバコの匂いは嫌いだった。
タバコを吸う人もまた、嫌いだった。

なんとなく、嫌悪があった。

でも、今日のタバコの香りは案外嫌いじゃなかった。
例外だった。
店内の風に乗って泳ぐ煙も、
風向きが変わって自分に向かってくる煙も、
今日は、嫌いになれなかった。
むしろ、少しだけ心地いい気がした。

私には、
許せるタバコと許せないタバコの
二つが存在しているんだと思った。

過去を振り返って思い返してみても、
どうしても許せないタバコはあったし、
反対に、もう仕方ないなと諦めて許せていたタバコも
確かに存在していたなと思った。

タバコを箱から取り出しては、
口に咥えて、そしてマッチ棒で火をつけていた。
少しだけかっこよく見えた。

「あれ、マッチ棒で火つけてたっけ?」
という私に
「最初からマッチ棒だよ。」
「ここ、いつもマッチ棒くれるんだ。」と彼女は言った。

そして、突然その子が、タバコを吸い始めた理由を教えてくれた。

「中学生の時、よく過呼吸になっていたんだ。
「タバコの煙って目に見えるでしょ」
「だから、安心する。」

確か、元彼が…とかも言ってた気がするけど、
なんだか少し思い出せなかった。

そんなことを言い出す彼女を目の前に、
私は、嗚呼、冬になって吐き出した息が白く見えるのと同じような現象か、
と思いながら考えていた。

この子も私と同じような種類の人間なのだと、
その時、再確認できたような気がした。

私の周りの人間は、案外詩的な人が多かった。
出会えてよかった、と思った。

「写真を撮らないやつは嫌いだ。」
彼女はいつもそう吐き捨てていた。
口癖だったのかもしれない。

「写真を撮らないやつが嫌いなわけじゃない、
写真を撮らないのにこの会社に居続ける人間が嫌いだ。」

そう付け加えた。

彼女はいつも真っ直ぐだった。
気持ちに正直な上に、繊細で、体が弱かった。

でも、わたしはそんな彼女のことが好きだった。
尊敬していた。

私とは違う感覚で、
私とは違う価値観をしている。

仮に同級生だったとして、
同じクラスにいたら別のグループだと思うし、
関わることもあまりないだろうし、
きっと、合わないと思う。

それでも、ここで出会えたこと、
同じ空気を吸っていること、
同じ時を共にしていること、
その事実に嘘はなかった。
そこに深い意味合いと、価値と愛を感じた。

「人は何故、人と共存することを選ぶのだろうか。」

端的に言えば、
人は誰かの手助けなしでは生きていけないのかもしれないね。

誰かに教えてもらって、
誰かに甘やかしてもらって、
誰かに支えてもらって、
誰かと協力し合って、
誰かとぶつかり合って、

そうやって生きていくのだと思った。

人は、人と関わらずとして生きていくことは
不可能に近いのではないかと思った。

そして人は、無意識のうちに
人と共存することを選択しているのだと思う。

全てを俯瞰して捉えたとき、
「共存」を目の当たりにすることだろう。

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