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【#青ブラ文学部】ある旅人の奇跡

 長年、干ばつに苦しんでいる国がいた。
 作物もまともに育たず、飲める水も高い金を払わないと買えない始末だった。
 そんなある日、一人の旅人が訪れた。
 美しい青髪の女性だった。
「私がこの国の悩みを解決しましょう」
 旅人はそう言うが、国の人達は信じなかった。
 過去に何度も雨を降らせようとしてきた者が訪れたが、どれも国の金塊目当ての詐欺師ばかりだったからだ。
「分かった。しかし、もし一粒足りとも雨が振らなかったら、我々を騙した罪として斬首する。いいね?」
 国王がそう言うと、旅人は真っ直ぐなあいい眼で「もちろんです」と頷いた。
 
 雨を降らせる儀式は広場で執り行われる事になった。
 多くの見物人が旅人を取り囲い、どのような儀式を行うのか、見守っていた。
 国王も最前列で豪華な椅子に腰掛けながらジッと見ていた。
 旅人は何回か深呼吸した後、「始めます」と水のように澄んだ声で言った。

あ、へいへいへい!
あ、へいへいへい!
雨を降らして
おくれ、おくれ、おくれ
ポンチャカ
チャカチャカ
ピチャピチャ
ポチャカポチャ

あ、へいへいへい!
あ、へいへいへい!
雨が降らなきゃ
なぐる、なぐる、なぐる
ポンチャカ
チャカチャカ
ピチャピチャ
ポチャカポチャ

あ、へいへいへい……

 と、こんな感じで旅人はひょっとこみたいな顔をして、奇怪な声で歌いながらニワトリのごとく両腕をパタパタさせ、首をグイグイ前後に動かしていた。
 すると、どうだろう。
 ポツリポツリと雨粒が乾いた地に落ちたかと思えば、これまでにないほど土砂降りの雨が降ってきたのだ。
 しかし、皆複雑な顔をしていた。
 『これじゃない感』が場の空気を支配していた。
 綺麗な女性の旅人が雨を降らせる手段と言えば、誰もが魅了するような歌声を披露するか、聖書みたいな清らかな呪文を唱えるかが一般的だろう。
 国王も国民もそういうのを想像していたので、悪い意味で期待を裏切られた光景に困惑していた。
 旅人は奇怪な歌と踊りを止めると、「ね? 本物だったでしょ?」と聖女のように微笑んだ。
 国王は「おう、まぁな……」と歯切れの悪い返事をした後、旅人にありったけの報酬を与えて、早々に旅立たせてもらった。
 以後、この国は緑が生い茂る所に生まれ変わったが、そのキッカケを話す者は誰もいなかった。
 
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