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『最強姉妹の末っ子』第44話

「あっ、そういえばお二人の名前を聞いていませんでしたね」
 ポーイは思い出したように私の背中に隠れるのを止めて、再び向かい合う形で浮かんだ。
「メタよ」
「ロリン。よろしくね!」
 名前だけの自己紹介だが、ポーイは嬉しそうに「よろしくね、メタ! ロリン!」と笑顔を見せた。
 初対面なのに呼び捨てかい。
 そう突っ込もうとしたが、ポーイは「どこかに行きたい所とかありますか?
 オススメは温泉です!」と話し出した。
「もしかして、道案内もできるの?」
「はい! お財布の他にも道案内とか、距離が離れている人と連絡できたり……」
「え?! じゃあ、ロロ・レックロウとうにいるチャーム王子と話すことができるの?!」
 これにポーイは困惑した顔をしていた。
「えっと……その……僕らポイドラゴンはカートゥシティだけしか機能しないんです。
 だから、この国以外の人とは連絡ができません……ごめんなさい」
「そっか……」
 なんだ、そこまで万能ではないのか。
 もしそれが可能だったら、王子が無事かどうか確かめられたのに。
 私が落ち込んだ顔をしているのが分かったのだろう、ポーイはしょんぼりとしていたが、パァと急に晴れやかな顔になった。
「でも、他国の地図を扱っているお店は知っています!
 そこに行けばメタの知りたい情報が手に入るかもしれません!」
「ほんと?! じゃあ、早速案内して!」
「あっ! えっと……その、あの、うーん……」
 私がポーイに他国の地図を扱っている店までの道案内を頼んだが、なぜか乗り気じゃなさそうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「いえ、あの、その前に温泉で旅の疲れを癒やしていただけたらよろしいかと……」
「いやいや、その前に王子様がいる島の事について知らないと!」
「いえいえ、そこに着くまでに大勢の人混みに揉まれながら歩かないといけないですし……あの関所のすぐ隣に無料で入浴できたりご飯が食べれる施設もあるので、まずはそちらの方をご利用されてからの方がいいかと思います」
 やけにお風呂に入るように勧めてくるな。
 何かやましい事でもあるのかと疑いの目も向けていたが、「メタちゃん」とロリンに肩を叩かれた。
「なに?」
 私が聞くと、ロリンは「きっとあの子は私達が汗臭い事を遠回しに言っているんだと思う」とヒソヒソと話した。
 これに私はハッとなって、自分の腕の匂いを嗅いでみた。
 うん、言われてみたらその通りだ。
 入国審査通った人達を見てみると、みんな大きな建物の方に向かっているのが見えた。
 箱みたいに四角い建物――あそこが彼の言った入浴できたり食事できたりする施設なのだろうか。
 そういえば、メタメターナを出発してからまともにお風呂に入っていないどころか、食事も取っていない。
 食べるポーションを口にはしているが、あれは何といえばいいのだろう……そんなにお腹に溜まらない。
 それに何回か着替えてはいるが、汗でべたベタしているのは事実だし。
「分かった。あなたの言う通りね。行きましょう」
 私が承諾すると、ポーイは嬉しそうに「では、こちらへ!」とフワフワ浮びながら進んでいった。

 私とロリンはパタパタと羽ばたいている彼の小さい翼の後を付いていったが、途中馬鹿みたいに大きな風船を見つけたので、立ち止まらずにはいられなかった。
「ねぇ、ポーイ。あれは何なの?」
 これに彼は「え?」と巨大風船の方を向いた。
「何って……飛行船ですが?」
「ヒコウセン? ヒコウセンって何?」
 私が首を傾げていると、ポーイも同じようなポーズを取った。
「え? あなた方はあちらからご乗車されてこの国に来たんじゃないんですか?」
「え? あれって乗り物なの?」
「え?」
「え?」
 お互い頭の上にハテナマークをたくさん出現させていると、ロリンが「私達、山の方から降りて来たの。だから、船には乗ってないわ」と答えた。
 これにポーイは目を丸くしていた。
「えええええ?! や、山の方から……道理で獣くさ……ゴホン、では仕方ないですね。
 飛行船を簡単に説明すると、あの大きな袋の中にガスや空気を含ませて浮かばせて移動する乗り物なんです。
 下の箱っぽいのが見えますか?
 そこで乗客を乗せたり、操縦席があったり、船を動かしたりする所があるんです」
 確かに彼の言う通り箱から何人か人が出てきて、白い鎧に案内されていた。
 皆、服の種類はバラバラだけど品の良さそうなのを着ている。
 恐らくあれに乗ってこの国に来るべきなのだろう。
 私達みたいに山から来るパターンは珍しいのだろう。
 ん? 待てよ。
 あれに乗って島へ行けないだろうか。
 だって、行きがあるなら帰りもあるはずだ。
 もしあれに乗れたら、島まで楽勝に辿り着けるかもしれない。
 私はこの事をポーイに聞いてみると、彼は「ロロ・レックウ島がどのくらいの距離かは分かりませんので、何とも……」と首を傾げていた。
「けど、もしご搭乗なさるのでしたら、先にチケットを買っておくのもオススメですよ」
「チケット……?」
 また聞き慣れない言葉に困惑していると、ロリンがまたツンツンしてきて「要するに飛行船に乗るにはお金がいるの」と囁いた。
 あー、なるほど。
 確かにあんな便利なものを無料で乗るだなんて、いくら何でも虫が良すぎる。
 それに乗っている人数やあの箱部分の大きさを考えると、そんなに広くはない。
 きっと何回かに分けて運航しているはずだから、早めにとっておいた方が吉だ。
「それがいいわね。いくらなの?」
 私がそう言うと、ポーイは「ありがとうございます!」と満面の笑みで言った。
「そうですね……二人となると片道100万ポイになります」
 一瞬自分の耳を疑った。
 100万ポイ……という事は金貨10枚分ってことになる。
 私のポシェットの中身を確認してみると、金貨は全部で12枚入っていた。
 所持金のほとんどを失うのは怖いけど……王子様のためだ。
「はい、どうぞ」
 私は金貨10枚をポーイに渡した。
「ほっほっほーーい! さすが! おっかねもっちは違いますね〜!」
 ポーイは嬉しそうにクルクル回転した後、10枚全部丸呑みした。
 彼のお腹を確認してみると、110万ポイと表示されていた。
「じゃあ、チケットとやらをちょうだい」
 私がそう要求すると、ポーイは「かしこまりました!」と言って、いきなり頭上から角を生やした。
「本部と交信中……交信中……あ、すみません。ポーイですけど、飛行船のチケットを二名欲しいんですが……はい、名前はメタとロリン様です。はいはい……はい、しっかりとお腹に届きました! はい、よろしくお願いします!」
 何やらブツブツと呟きながらお腹の表示が『110』から再び『10』に戻ったかと思えば、一部分が引き出しみたいに開いた。
 中にはピンク色のリストバンドみたいなものが二つ入っていた。
「どうぞ、お取りください! 手首に付けてくれれば大丈夫ですよ!」
 ポーイに言われるがままに手から通して見ると、突然スゥと消えてしまった。
「え? 無くなったんだけど?!」
 私が目を丸くしていると、ポーイは「ご搭乗する際に再び現れるので、お気になさらずに! さぁ、行きましょう!」と施設の方にフワフワと向かっていった。

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以上です。

↓次の話です。


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