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『転生しても憑いてきます』#47

 番兵の手には斧を持っていた。
 キラッと光る刃を見た時、僕の全身に鳥肌が立った。
「あ、あれは何なの?」
 ニャイが声を震わせながら僕に聞いてきた。
 そうか、二人はまだコイツに会っていなかったっけ。
「アイツは裏門にいる番兵。不審者を見つけたら、攻撃してくるんだ」
「こ、攻撃って、私達は大丈夫だよね?」
 ニャイが顔面蒼白で僕に聞いてきたが、何も答えられなかった。
 番兵は忍び寄るようにゆっくりとした足取りで近づいてきた。
 僕達はギュッと固まるように集まって、後退していった。
「出ていけ……」
 呻くような低い声がかぶとから出てきた。
「出ていけえええええええ!!!!」
 突然番兵が叫びながら斧を振り上げた。
「危ない!」
 僕達は飛び跳ねるように避けた。
 間一髪斧がデスクにぶつかったが、真っ二つに割れていた。
 僕達は入り口の方に近づきながら番兵の様子を伺っていた。
 番兵は背中を向けたまま倒れている学園長に向かった。
「排除」
 そう言うと、斧を振り上げた。
 ドスッと学園長の胴体に降りかかり、壁一面に血しぶきが飛んだ。
 ニュイがまた叫びそうになったが、ニャイが口元を抑えてくれたおかげで、最小限に留められた。
「排除。排除。排除。排除……」
 番兵は何度も学園長の肉体をぶった切った。
 たまに血肉が僕達の近くに飛んだ時、発狂しそうになったが、どうにか耐えた。
「今のうちに行こう」
 僕がボソッと二人に言うと、彼女達はコクっと頷き、ソロリソロリと入り口に壁に沿って摺り足で向かった。
 突然番兵の凶行が止まった。
 僕達は息を止めるように静止した。
 番兵はゆっくり僕らの方を見た。
「お前らもそうか〜〜?」
 番兵は血塗れの斧を掲げたのを合図に、僕達は一目散に部屋から出た。
 すると、さっきまで廊下だったのが、いつの間にか教室に変わっていた。
「え? え? なんで?」
 困惑するニャイとニュイ。
 僕も訳が分からず情報を得るために周囲を見渡していると、誰かの声が聞こえた。
「ニャイ、ニュイ」
 この声は二人とも聞こえたようで、顔を強張らせていた。
 教室のドアが開き、現れたのはニューエ婦人だった。
「お母さん!」
「駄目だ!」
 ニャイが駆け寄ろうとしたので、僕は力強く腕を掴んだ。
「離して! お母さんが目の前にいるのに!」
「あれは幻だ! もし行ったら命はない!」
 僕は分かっていた。
 あれが怨霊だということが。
 二人が見えているのが謎だが、とにかく絶対に彼女達を奴の所に行かせてはならない。
 しかし、そうはさせまいとニューエ婦人が穏やかな声色で言った。
「どうしたの? 一緒に家に帰りましょう」
 この言葉にニュイが反応した。
 フラフラと磁石みたいに奴の方に向かっていた。
「駄目だ!」
 僕はニュイの腕も掴んだ。
 だが、二人の抵抗が強くまるで魔術にかかっているかのように、そこへ行きたいと暴れていた。
 しまいには僕の腕や顔を殴ったりして離そうとしてきたのだ。
 一体どうしてしまったんだ。
 もしかして、この校舎の仕業なのか?
 確か魔力を食べていたって言っていたし……という事は、キャーラは校舎こいつに魔力を吸われて死んだってこと?
 そう思うと、掴む腕が強くなっていった。
 許せない。
 姉さんが化け物の生け贄にされるなんて。
 僕はなんて所に入学してしまったんだ。
 許せない。
 この校舎に大量の爆弾を使って木っ端微塵に――
「カース、痛い!」
 ニャイの悲痛な叫び声を聞いた所で、僕の思考は一旦落ち着いた。
「ご、ごめん!」
 僕はすぐさま手を離した。
 ニャイとニュイは痛そうに腕を擦っていた。
 いつの間にかニューエ婦人の幻は消え、空の教室になっていた。
「ニャイ、ニュイ、ごめん。ちょっと取り乱しちゃって……」
 僕が頭を下げると、ニャイは「気にしないで。私もちょっと危なかったから……」と笑顔を見せた。
 ニュイも『大丈夫だから』とメモに書いて見せてきた。
 僕は「ありがとう」と許してくれた事に感謝すると、これからの事について話し合った。
「それで、これからどうしよう」
「とにかく学園を出て、助けを呼ばないと」
 ニャイが教室の窓の方を見ると、「見て!」と指を差した。
 差した方を見ると、正門が見えた。
 そこには信じられない光景が広がっていた。
 茶色いローブが赤いローブに襲い掛かっていた。
 学園の先生達かが新入生に攻撃しているのだ。
 天使の翼の生えた先生が二人の新入生を引きずり回したり、二メートルはありそうな巨体の先生が棍棒で叩き潰したり――阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。
 これが新入生の歓迎と言われたら、狂っているにも程がある。
 よく見てみると、先生は血のような瞳をしていて、とても正気とは思えなかった。
 これも校舎が魔法をかけさせているのだろうか。
「何よ、これ……」
 ニャイは唖然としていた。
 ニュイも空いた口が塞がらなかった。
 それもそうだ。
 僕はどうすればこの窮地を脱出できるか考えた。
 正門に進むのは自滅行為だ。
 だとするなら――そうか、裏門だ。
 裏門から出れば、あの狂人化した先生達から逃げられるかもしれない。
 そして、助けを呼ぼう。
 僕はニャイとニュイに今考えた事を伝えた。
 けど、二人は賛同してくれなかった。
「裏門って……確か教員棟にあるよね? またあの恐ろしい鎧と出くわすのは嫌だ」
 確かに彼女の言う通りだ。
 あんな死体をバラバラにできるような奴に新入生の僕らが勝てるとは思えない。
 けど、逆を言えばそいつさえ気にしていれば大丈夫ではないだろうか。
 五階以外は人の気配はなかったし、慎重に進めば脱出できるかもしれない。
 僕はそうニャイに伝えるが、二人の顔は晴れなかった。
「でも、この校舎は生きているんでしょ? 出させないように鍵をかけたり閉じ込めたりするんじゃないの?」
 あぁ、そうか。
 校舎が黙って僕達の脱出を許してくれるはずがない。
 それにニューエ婦人の亡霊が出てくるとなると、一筋縄ではいかない。
 それに無事に抜け出せたとしても、悪食あくい森が待っている。
 いや、強行手段で魔法で燃やせば何とかなるかもしれない。
 逆上して殺されたら意味ないか。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「う〜ん……どうしよう」
 僕とニャイが腕を組んで解決策を考えていると、ニュイが僕の肩を叩いてきた。
「何?」
 僕が聞くとニュイはメモ帳にサラサラと書き見せてきた。
 こう書かれていた。
『抜けだす方法があるかもしれない』

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