『転生しても憑いてきます』#56
神様だって?
女王よりも更に上が存在するのか。
一体誰だろうと思っていると、モジャモジャで真っ黒な髭を生えた老人が姿を現した。
……あれ? あの人、どこかで見覚えがあるぞ。
でも、随分遠い昔の記憶……五歳? いや、違う。
三歳? いや、もっと前だ。
生まれる前……前世にはいなかったような。
……あ、思い出した!
そうだ。この世界に来る前に会った。
僕が怨霊からの呪いを取り除いてから転生してくれと懇願した神様じゃないか!
あのモジャモジャの髭は間違いなくそうだ!
絶対にそうだ。
そうか、そういう事だったのか。
なぜこの世界で一番力を持っている神様であるにも関わらず、怨霊という邪悪なものに負けるなんてと思っていたけど。
怨霊達と主従関係にあるのだとしたら、納得が行く。
お前が全ての元凶か。
お前が怨霊達を解き放っていたのか!
あぁ、もう!
次から次へと衝撃的な事実が押し寄せて来て、今にも脳が破裂しそうだ。
神様は怨霊達の歓迎に嬉しそうに杖を掲げて振っていた。
おかっぱ怨霊とピエロの案内で、舞台みたいな広めの高台に上がると、招霊客達の方を向いた。
「神の世界に住む者達よ!
この国はもうすでに君達、死霊達に占拠されつつある!
この功績は君達のおかげであり、ワシを信心してくれる信者達の努力によるものだ。
本来であれば、信者達も共に祝いたかったが、まだ計画の遂行中ゆえ、安易に顔を出せないとのこと……まぁ、仕方ない。
神として多めに見てあげよう。
さて、君達に良い知らせだ。
我が計画の妨げとなる存在を捕獲した」
この一報が余程嬉しいのか、手の甲を叩く音がさらに激しくなった。
神様が杖を上げると、静まった。
「見上げよ。そこでミノムシみたいにぶら下がっているのが、そいつだ」
神様がそう言うと、招霊客達が一斉に僕の方を見た。
皆、白目のない真っ黒な眼で僕を見ていた。
今にも一斉に襲いかかってそうで、危うく失禁しそうになったが、グッと堪えた。
神様がコホンとせき払いすると、ほぼ同時に舞台の方に向いた。
「まぁ、奴をどうするかは後のお楽しみだ。あの状態ではそう簡単に逃げられる心配はない。
それよりも計画の達成目前である事を心から祝おう!」
神様のスピーチが終わると、一斉にグレイの怨霊達がワゴンにたくさんの料理を乗せて運んできた。
よく見た感じでは、ステーキやカルパッチョっぽいものを怨霊達が食べていた。
どんな食材が使われているのだろうと考えているだけで、何だか吐き気がしてきた。
気分を紛らわすために神様の方に注意を向けた。
神様はゴスロリの隣に座り、何か話していた。
彼女は特に表情を変える事なく、フォークとナイフを握っていた。
メイドのグレイが巨大なケーキを運んできた。
それは高さ四メートルくらいはあるもので、真っ黒だった。
黒い薔薇の飾りにドクロの砂糖菓子が置かれていたりと、全部不気味な仕上がりになっていた。
メイドのグレイはそこから赤黒いソースをぶっかけていた。
それはまるで地獄から流れている川みたいで、食べたら呪われそうだなと思った。
ゴスロリは躊躇なくナイフを切った。
綺麗な三角形のピースが出来ると、周りにいた姉や母達が我先にとフォークを付けた。
そして、彼女に食べさせようとしていた。
ゴスロリは口を開けてモグモグしているのを神様が横目で羨ましそうに見ていた。
僕はこのめでたい状況が気に食わなくて、今すぐにでも壊してやりたい衝動に駆られていた。
が、自由のきかない状態である事に気づき、歯ぎしりしてイライラを和らげていた。
怨霊達が材料不明の料理に舌鼓を打っている中、出し物が始まった。
ピエロがグレイの腹わたを割いて食べたり、ギロチンで処刑させたりと残虐なショーをしていた。
他には、オーケストラによる演奏、簡単なマジックなど、人間と同じような演目をしていた。
最後に大勢のグレイ型の怨霊達がひな壇に上がって、歌をうたった。
歌詞は亡霊の姉達に拳銃で撃った時の『粛清』の歌だった。
ひたすら『粛清を』と歌い続けているのを聞いているうちに、なぜか眠気が襲いかかってきた。
ミノムシ状態であるにも関わらず、今までの疲れが一気に押し寄せて来て、緊急睡眠を要請してきたのだ。
冗談じゃない。
こんな状況で寝たら、何されるか分かったものじゃない。
けど、身体はもう限界寸前だったので、ほんの少しだけでいいから目をつむろう。
ここから脱出する事も考えて、少しでも体力を温存させないと。
いや、でも、本当に大丈夫だろうか?
もし何か……あぁ、もう駄目だ。
ついに我慢できなくなった僕はソッと目を閉じた。
次に目を覚ました時は、暗闇だった。
なぜだろう。
身動きができない。
もしかしてまだ縄でグルグル巻きにされているのかなと思いきや、両手は動かせるみたいだ。
伸ばそうとしたが、ガンッとすぐに天井にぶつかってしまった。
(……あれ?)
こんなに天井が近かっただろうか。
頭を上げようとしてが、同じようにぶつかってしまった。
僕は何だか嫌な予感がし、天井を何度も叩いた。
すると、どこからか「嘆かわしい!」という声が聞こえた。
「哀れな最後だ。我らが宴をしている最中に命が尽きるとは。人間というものは脆いものだな」
この声は神様だ。
『命が尽きる』って、もしかして僕は死んだ事にされているのか?
そう思った時、突然地面が揺れ出した。
掛け声が聞こえてきたので、自分がどういう状況なのかが分かってきた。
僕は棺桶に入れられているんだ。
「開けてください! 開けて!」
天井をドンドン叩いて助けを呼ぶが、神様が「急げ! 奴が目を覚ましたぞ!」と誰かに催促している声が聞こえた。
畜生、僕を埋めるつもりだ。
魔法で脱出する事も考えたが、極限までに狭い状況で使ったら、自滅行為なのは容易に想像できる。
では、どうしたらいいのだろうと考えていると、揺れが収まった。
すると、「死屍累累阿鼻堕落地獄《じごく》」というお経が左右から聞こえてきた。
本当に埋葬される現実が迫ってきて、半狂乱で天井を叩いた。
が、誰かに僕のSOSを聞かせないようにするためなのか、お経の声が大きくなっていった。
この状況ではどうにもならない。
バシャバシャと土を被せるような音と振動が聞こえる。
本当に僕を生き埋めにするみたいだ。
これ以上ない絶望的な状況に、もう駄目だと思った――その時。
「ピカーラ!」
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