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2022年9月の記事一覧

文芸批評断章1ー6

文芸批評断章1ー6

1.
漱石の「坊ちゃん」の主人公の性格は、「奥の細道」の仏五左衛門のそれに似る。芭蕉はこれを「唯無智無分別にて、正直偏固の者也。剛毅木訥の仁に近きたぐひ、気稟の清質最も尊ぶべし」と描写する。「坊ちゃん」では召使いの清が坊ちゃんを可愛がって「あなたは真っ直でよいご気性だ」と言うと、「おれはお世辞が嫌いだ」と答え、すると清は「それだから好いご気性です」となお喜ぶ。主人公はぶっきら棒で、意地っ張りで、負

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心的システムにおけるオートポーエーシス成立について

心的システムにおけるオートポーエーシス成立について

人間の心にもオートポーエーシスの形成が自我形成に寄与すると思われる。この点を近代文学を参考に検討しよう。ここで扱うのは、夏目漱石と太宰治である。両文学者の自我形成の軌跡はオートポーエーシスの成立と類比され得る。ルーマンが「社会システムのオートポーエーシス」(『自己言及について』の第1章)において指摘しながらも詳述しなかったところの「心的システム」におけるオートポーエーシスである。単純化して言えば、

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