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らぶれたー:ソウルへ

ソウル。 
あなたをどうやって説明すれば良いのでしょう:淡々としたカフェのリズム、夜のバス席、午後5時に見つめる私の影、なんだかプラスチックな渋滞。ラジオ局に向かう道、午後一時、昼の街。

バスに揺られながらコンピューターサイエンスの課題をやっては酔いました。寮の坂下、バブリーな日本居酒屋ですきやきを頬張りながらビールを欲しがる肝臓をたしなめました。私たちはいつも、切迫した時間割と、膨大な課題と、夢の中で私たちを追いかけてくる将来とかいう怪物の合間を縫ってあなたを知ろうとしていました。あなたを感じようと、灰色のビル群とチカチカ光る原色ネオンの間を練り歩きました。あなたの山を上がって降りて、川岸を駆けました。

あなたを知ろうとする過程でたくさんの人に会いました。彼らはたくさんのことを私に教えてくれました。疑似感情、絶望、切実、無関心、興味、愛情、導援。サンフランシスコや東京の人々が人生の先輩ならば、ソウルで出会った人たちは温かい親戚の集まりのようでした。彼らとピンクのカメラマークのアプリで繋がって、人生の話を聞いて、人生観や恋愛観の話をして。近所の飲食店のおじさんには、「Stop. 考えるな」って言われたました。でもどうすればいいのでしょうか。考えずに個性を保つことなど私にはできません。

繋がった人々は私に沢山の物語を語ってくれました。韓国の人々に恋したこと、話を聞いているようで聞いていない人たちのこと、淡々とした日常のこと、アートと資本主義と駐車場のこと、中東の戦場のこと、韓国の山々のこと、雪のこと。男の事と女の事を真夜中まで話したりもしました。彼らの言葉が、言動が雪みたいにこんもりと私の中に積もって小さなカマクラを作りました。次の街で吹雪いたり凍えそうになった日には、そこに籠ろうと思います。彼らが私にとってのソウルなのかもしれません。彼らを通して、ソウル、あなたの功を吸収しました。このカマクラは居心地が良すぎて外に出たくないけれど。

いろんな臭いを覚えました。朝のムッとした香り、バスを降りたら漂う路面店の香ばしい匂い。朝、日が徐々に昇る中での透明な香り。澄んだ空気、山の頂上の若々しい緑の香り。繁華街の夜明け、ぼんやりとした嗅覚に入ってくる昨夜の副流煙の香り。私の体にまとわりついている。寮のキッチン、生ゴミとコーヒーの混ざり合った臭い。車の中の小綺麗な獣臭。香り付きの水蒸気の香り。ソウル、あなたの匂いは美と人間臭さが入り混じって溶けて一つになったような、泣きたくなる匂いです。

あなたの中にたくさんのものを置いていきます、正確には落としていきます。たくさんのものを無くしました。真っ直ぐな心はごちゃごちゃとした日常と絵具を混ぜすぎたパレットみたいな心に取って代わられてしまいました。私を力強く思わせてくれたアクセサリーたちは忘れ去られ、ちぎられました。私を守っていた何かも同時になくしてしまいました。広い甘美で危険な世界に放り出された鳥のように私はキョトンとしたまま小さな沼に足を突っ込んでいました。あなたに呑まれていたのかもしれません。

ねぇ、ソウル。あなたは私に感情を覚えさせて、私をドラマの主人公にして、そして突然に離れていってしまう。なんて最低で汚らしい愛でしょう。やるせなさも、動けない心も、またあなたに会う時には、少しはにかみながら喋れるネタになるのでしょうか。そうだといいな。

年末だからでしょうか。妙に全てが儚く見えます。パッと散って消える火花みたいな、あるけれど証明できない気持ちとか出来事に揺さぶられている。私が私自身を知らないように、私の友人の全てを知らないように、あなたを知ることはないでしょう。この手紙は自己満足かもしれません。ただ、あなたを感じていた記録をここに残したいのです。

ありがとう。新たな美を教えてくれて。"ソウルは美しい矛盾です", 放送されることのなかったラジオの収録で専門家が口にした言葉。美と、無機質な順序と、熱狂と静寂。全ての矛盾が伴って和を創る。息をする。これが美しさか、と。これが私にとってのソウルか、と。


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