記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』の語る妄想に驚いた話

『クレヨンしんちゃん』の映画が大人からも凄まじい支持を受けている、とは聞いていた。
一応子供の頃にはクレヨンしんちゃんが人気だった世代ではあるが、私が唯一観たことのある映画の『しんちゃん』は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』だけであり、しかも観たのは30過ぎてからだ。
この作品は、『しんちゃん』がPTAに敵視され子供達の支持を得続けた“コミカルで下らない笑いや言葉遊び的なギャグ”をしっかり踏襲しつつ、子供向けとは思えないハードなシナリオで、子供だけでなく大人の度肝を抜く描写で「きちんと戦国時代している」という衝撃を受けた。
大人にもクレヨンしんちゃんファンが多く、長く幅広い世代に愛され支持される「子供が楽しいし感動もできる」「でも子供騙しではなく大人にも通用する」という、『しんちゃん』映画の懐の深さに納得した経験だった。

そこからややあって、去年の事である。
同世代で“子供の頃からクレヨンしんちゃんファンでありいまも映画版が好きな大人”の友人二人が『バラッド』並みにブチ切れる映画版『しんちゃん』が現れた。
クレヨンしんちゃんにもアニメーションにもそこまで思い入れも縁もない私は、当時感想を聞いてやや驚くくらいのレベルであったが、今回その作品が配信に来たので、ブチ切れの片方の友人(子持ち)と一緒に鑑賞(U-NEXT550ポイント)。

結論から言うと、ここまで胸糞悪い感触を残していく映画は実話モチーフホラーでもそうそう無かった。
ということでネガティブ感想です。

『クレヨンしんちゃん』の映画良かったよ、マイナスな感想聞きたくないよって方は回れ右が吉。
更に私は、私は子供の頃クレヨンしんちゃんを多少観たことある程度(赤ちゃんの登場は知らない)で、『しんちゃん』にもアニメーションにも詳しくない為、愛着面とか“作品あるある”みたいな原作知識面からの見解は持てない為、ノットフォーミーな層の一個人(アニメ苦手しんちゃん知らないアラフォー子無し)による、コメディ映画としてのシンプルな感想として。
(フィルマークス投稿文を加筆修正)

※物語の内容を詳細には書きませんが、映画のテーマ性・メッセージ(お説教)性に触れての感想となるので、一応ネタバレ注意!!


謎の光によって超能力(?)を得てしまったしんちゃん。
その変化は同時に、報われない人生を懸命に過ごす一人の“非リア充”青年にも起きていた。
ある予言をなぞるように、町に大事件が勃発する。

映画でも、深刻なモチーフを扱っていても忌憚なく「馬鹿馬鹿しいノリ」が出来る「クレヨンしんちゃん」という作品の強さと個性は健在(だからこそ後述の、監督の主張をしんちゃん世界を使って言わせる部分が残念に感じる)。

超能力を得たところで
「バカなおふざけ的に使う(無邪気で、力を得ても悪用しないおバカな)しんちゃん」と「世の中に怒りをぶつける悪役の青年」といった対比も、両者のスタンスの違いとしては良い。

元々、人物にかなりデフォルメの効いた平面的デザインの「しんちゃん」世界が3Dになっている映像面に関しては、「リアル」や「迫力」を課される作品性ではない上、生々しくなるせいでとしんちゃん的お下品ギャグを封じられる枷になっていそうな勘繰りすらしてしまい(本作でお尻を出してはしゃぐ的シーンが無かったのは単に時代的なもの?)、相性の良さは感じなかった。
これは、個人的に、クレヨンしんちゃん=ペタッとした絵柄、という印象しかないから受け入れられなかったのかも知れない。
大事件とくだらなさを協調させるテイストは、多分子供達には受け入れられる笑いだと思う。

ストーリー面は単純に地獄
監督が「悪(に転落する)」としたものを、ステレオタイプな偏見で描いているのが気になる。これはしんちゃんを観る幼児らの親世代(の持つ非リア同世代への偏見)の価値観に合わせたのかと思いつつも、作品の「30周年」や「30歳のキャラクターに寄り添う」的な強調を見るとそれも疑問。

世相や生い立ちで苦しみ鬱屈した辛い世代への偏見がこれか、メッセージのツラで覆った「上から説教」がこれか、しかもそれをクレヨンしんちゃんの世界とキャラクターに言わせて“いい話”加工したのか、というのがひたすら鼻につく。
キーアイテムであり、しんちゃんには一家団欒の象徴・悪役の青年には一家崩壊の象徴である「手巻き寿司」も、トラウマとしての域を出ない小道具で結構残酷。
「あの青年にも手巻き寿司を囲む家族がいれば」じゃないんだよな。家族がいて手巻き寿司があってもそれが辛い状況だった設定を書いておきながらさあ。

映画公開時にスクリーンを出た親や、これを配信やテレビ放送で子供と観た親が
「あんなお兄ちゃんみたいになっちゃうから、頑張らないとダメだよ~」
とか子供に言うみたいな地獄と偏見の再生産、恵まれない世代や生い立ちの人間の“不幸ポルノの教訓消費”が起きない事をひたすら望む。

普段子供向けアニメーションに一切縁がないので、最近の作品全般が親世代にも含蓄を込めてテーマ性重めなのか、この作品だけがこうなのかは分からないが、
「クレヨンしんちゃんでこれ?そしてこの理屈……?」
という驚きは否めない。
このストーリーを「快活な娯楽!面白かった!」として楽しめる子供が多いのは良いことだと思うが、たかが子供向けといえ、メッセージ性のズレに違和感を持たず同様の感想にとどまってしまう大人(特に人の親や悪役の青年と同世代の)とは、悪いとは言わないがきっと私とは感性が合わないと思ってしまった。

で、監督やスタッフ周りを調べていたら、出てきたポスタービジュアルがこれである。

『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE超能力大決戦~とべとべ手巻き寿司~』ポスタービジュアル

この右上の思想強めのキャッチコピーを先に見ていたら、この映画を観ることは無かった。

このままだと悲しいので、クレヨンしんちゃんあまり知らないホラー映画好きのアラフォーでも楽しめるクレヨンしんちゃん映画のオススメがあれば教えて下さい。

非リアの弱者男性が犯罪者予備軍の危険思想の持ち主オタクなんて、
更に苦境の若者が頑張っていない・頑張れば脱却できるなんて、監督の妄想だゾ。


この記事が参加している募集

#映画感想文

66,996件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?