ラーメンは世界を目ざす
君は、さつまラーメンを知っているだろうか。
昭和36年、大分県にて創業。
莫大な費用をかけて開発した「さつまラーメン」を世界へ展開させるべく、独特のチェーン店を日本各地に100店舗以上展開。
1990年代には当時の業界最大手であった「どさん子」チェーンなどと並ぶ、有力ラーメンFC店の一つと数えられていた。
公式ホームページにも自店の素晴らしさを堂々とうたっている。
「世界を目ざす さつまラーメン」
なんというカッコイイ響きなのか。
奥さん、世界トップクラスの規模ですってよ! なおどさん子チェーンは1991年時点で1000店を超えていたようですが。
実に素晴らしいシステムである。フランチャイズといえばロイヤリティがかさむことがあるが、ここは商標権の1カ月1万円だけである。あとはスープとタレと麺の料金にロイヤリティが含まれる方式であろう。
だが、公式サイトは消えた。(リンク先はアーカイブ)
かつては本当に世界に飛び出し、ニューカレドニアに海外店舗を構えたほどの勢いを持ったさつまラーメンも、今やフランチャイズの募集さえ打ち切られている状態だ。
※ニューカレドニアのさつまラーメン跡(ブログ:Il fait beau aujourd'hui a la Nouvelle-Calédonieより)
※さつまラーメン ニューカレドニア店のご主人の様子も別ブログにありました。(ニューカレドニアの友人達 より)
昭和も平成も終わった今、さつまラーメンといえばかつての栄華をしのぶだけとなってしまった。
失われた昭和・平成ノスタルジーを求め、私は神奈川県で唯一、奇跡的に残されたさつまラーメン金沢店に行ってきました。
写真はGoogleストリートビューのものですが……
本当にこれがラーメン屋なのですか?
何やら店名を貼っていたと思しき痕跡はあるし、閉店という情報はない。ネットの口コミ情報でも新しい書き込みがある。
実家のそばなので地理はほぼ完璧に把握しており、実際に行ってみたところすぐに店は見つかりました。そして暖簾も出ておりました。
ボロボロやんけ!
おそらくは開店時から使い続けているのでしょうが、公式サイトも閉鎖されたフランチャイズチェーン、新規で作ることも難しいのだと思われます。
不安を覚えながらも店内へ。意外なことに地元のオッサン二人が女子ゴルフを見ながらダベっておりました。
薄汚れた灰皿が鎮座するあたり、喫煙がデフォ。
いいですね、昭和です。
握るとベトつく醤油やラー油、紅ショウガの小瓶。
いいですね、昭和です。
「さつまラーメン 500円」
値段も素晴らしいですね、昭和です。早速注文しました。
1990年代後半以降はこじゃれたラーメン店が増えてしまい、一杯1000円を超える店も珍しくなくなりました。今どきこの値段でラーメンを出せる店もそうはないと思います。
…………店のおじいちゃん、ダベっていたオッサンが帰ると同時にテレビをゴルフから競馬中継に切り替えました。
そしてすかさずスポーツ新聞の競馬欄を見始めました。
あの、私のラーメンはまだですか?
幸い私もかつては競馬業界に携わっていた人間、競馬ファンであるなら少々のことは許しましょう。妙にゆっくりとした間合いでラーメン到着。
白い豚骨スープにノリとモヤシとネギ、そして煮豚が三枚。
昭和ですね、どこをどう見ても昭和のラーメンです。
「世界の味 さつまラーメン」の文字が雄々しく輝いています。
実食。
………………昭和だ。
この感想しか出ません。
スープは色を見ればお分かりの通り、豚骨ダシ。醤油は使っておらず、塩ダレであると推定されます。麺は柔らかめに茹でられた中太麺で、表面がやたらと滑らかです。
煮豚は柔らかくて脂身の味もしっかりしており、悪くない味です。これならチャーシュー麺を頼んでも後悔しないと思います。
でも、スープがやたら薄い。色も何かマヨネーズみたいな感じ。
今のラーメンの濃厚なダシや、本格派の九州とんこつラーメンのように豪快に骨を強火で炊きだしたタイプを知ってしまうと、「博多んもんラーメン(古い)」か何かか? という風に思えてしまう。
地元のとんこつラーメンは骨から炊きだしたスープで、きちんと動物性のダシが効いた味がします。表面に浮いた脂もコクを出していて、食べた後の満足感があります。
それに比べるとさつまラーメンは「ただスープが白いだけ」で、肝心の豚骨ダシの味がしない。
麺の表面がヌルヌルするのも、多めのかん水に含まれる炭酸ナトリウムやリン酸塩によってデンプン質が溶けた(タンパク質じゃないよ)感触とみていいはず。(かん水については私の過去記事を読んでください)
煮豚は美味しかっただけに、他が残念な……いや、昭和ノスタルジーに浸れるラーメンでした。
ちなみにさつまラーメンは店ごとの差が激しく、また定食系のメニューが多いのが特徴。おそらくはこれからも「地元の人だけの店」として生きていくのでしょう。看板を直さないのも、それが理由なんでしょうね。
「競馬最強の法則」にて血統理論記事を短期連載しておりました。血統の世界は日々世代を変えてゆくものだけに、常に新しい視点で旧来のやり方にとらわれない発想をお伝えしたいと思います。