【レビュー】揺らいだ積み上げ - 2020 J1 第30節 鹿島アントラーズ vs 浦和レッズ
浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。
・対峙 - 4-4-2の衝突
・ズレ - お互いの立ち位置
・脆弱 - 揺らいだトランジション
・不足 - 出せない配置と強度
・空洞 - 苦肉の配置と空洞化
・揺らいだ積み上げと失意
はじめに
前節、G大阪戦で敗戦を喫してACL圏内が限りなく厳しくなった浦和。さらに大槻監督の今季限りでの退任が発表され、確度が高そうな新監督の噂が飛び交う中で宿敵・鹿島との試合を迎えました。
前節に引き続きメンバーは同じ。レオナルドと興梠の2トップ、長澤と青木のボランチが好調時から加えられた大きな変化です。
勝利しか望みがない浦和でしたが、4-0の敗戦。その内容も低調かつ残念なもので、精神論に振れすぎることは好きではありませんが、ピッチ外の契約関連のことが影響あったの?と思わざるを得ない試合となってしまいました。
低調な内容だった理由などを中心に振り返っていきます。
4-4-2の衝突
お互い4-4-2を敷いた布陣だったため、それぞれのポジションがわかりやすくマッチアップする形になりました。この状況で素直にプレーをすれば、正面にいる相手から逃れることはできいないので、ズレを作らないといけません。
この点を最初から整理して表現できたのは鹿島の方でした。両CBが距離を取って開き、浦和の2トップ横からボールを前に進めようという狙い。両者の距離を埋める役割はGKやボランチの1枚が担当しました。
また、CBが開いている分、SBは幅を取って高い立ち位置を取っており、さらにその影響でアタッカー陣4人は中央〜ハーフスペースを中心に流動的にスペースを活用していました。
4:30頃からこのような形でビルドアップを行っており、特に右CBの犬飼は運ぶ能力や長短のパス能力が備わっていて、浦和の4-4-2ブロックに複数の選択肢を突きつけることに成功。
また、GKを参加させた場面ではJ屈指の回収能力を持つレオシルバ・三竿コンビのボランチを中盤に留めることが可能なので、浦和がボールを奪ってもトランジションでこの2人に回収や選択肢を削られる場面も多かったと思います。
対する浦和の非保持ですが、今季やってきた「相手のバックパスを契機にハイプレスを仕掛ける」だったり、「SHを前に出して」幅をとったバックラインにプレッシャーをかけたり嵌めに行く場面は序盤を除きあまり見られませんでした。
4-4-2のブロックで一応はセットするものの、そこからどうする?という狙いは残念ながら表現できず。2トップがCBにアプローチしたり、汰木が犬飼にプレッシャーをかけようとしてみたり、という場面はありましたが、全体でスイッチが入らずに鹿島のやりたいように前進を許した印象です。
浦和の保持
試合序盤、浦和の保持・鹿島の非保持では4-4-2を正面から受けるような形になってしまいました。特に鹿島の前線6枚の前への強度は凄まじく、ズレを作れない浦和は7:15のように窒息してしまう場面もありました。
ただし、対4-4-2においてどうするか、という部分では積み上げはできているので、直後の7:30に長澤は鹿島2トップの横に降りて起点になることでズレを作ろうとする狙いを見せることはできました。
直後に失点してしまいますが、その後から飲水タイム後、前半終了までは保持ではズレを作り、前にくる鹿島前線の裏を取ってスピードアップする場面は複数回作れていました。
一方で22:15のようにズレを作って優位を得た槙野が運んでも、ブロック前に降りた汰木とバッティングするような場面があったりと、今季、悪い時によく見られた事象も散見されました。
脆くも揺らいだトランジション
今季の浦和はトランジションに最も強みを持ち、ここで相手を上回って勝利を引き寄せる、というのが私の認識ですが、この試合では大槻監督がコメントしていたようにトランジションの強度が低く、本来ならば優位を得て試合を取りに行く局面で尽く失点を喫しました。
まず狙われたのが右サイド、マルちゃんの裏。10:25、西川のGKの流れから中盤でボールの奪い合いが発生し、最終的に鹿島が回収した場面。左サイドでボールを持った土居と大外に開いたエヴェラウドに対して橋岡が1on2で対峙するような格好になっていますが、ひとつ前のプレーでSBにプレッシャーをかけたマルちゃんの姿は見えません。
土居の中にコースを取るドリブルもあり、エヴェラウドが良い体制で1on1を仕掛けられる体勢を整えられてしまいました。その結果、高速クロスから上田のゴール。
クロスや上田の動き出しの質も良く、そちらを褒めるべきゴールではあるものの、PA内ではゴール幅に3人立ってクロス対応の準備はできていたので、欲を言えば最後の局面で防いでほしかったですし、直前の8分のシーンでもマルちゃんが前・中に行きすぎて右サイドを起点にカウンターを受けていたので、もう少し改善が見たかった場面でした。
この後も試合を通して今季の浦和を支えたトランジションによる攻撃はほぼ見ることができず。相手陣地でのネガティブ・トランジションで回収後すぐにゴールに迫る場面や、自陣でボールを回収したポジティブ・トランジションで1手目を2トップに当ててスピードアップする場面は皆無と言っても過言ではないほど鳴りを潜めました。
14:25、浦和がチャンスを迎えたあとのネガティブ・トランジションの局面で、カウンタープレスの第一陣として控えていた山中・長澤のラインを鹿島に簡単に掻い潜られた場面は象徴的なシーンでした。
フアン・アラーノや上田の引き出しが良かったのかもしれませんが(カメラが近すぎてわからない)、例えばC大阪戦など、こういう場面で相手陣で回収、少なくとも攻撃を止めていたことを考えると、トランジションによる連続攻撃が発動しない浦和は流れを掴むことができなかったと思います。
配置と強度が不足するネガトラ
2失点目もそのネガティブ・トランジションからで、配置と強度不足が招いた失点でした。クロスによる攻撃を行った浦和ですが、跳ね返ったボールに対してプレッシャーはかからず。
興梠が下がって受けた位置からクロスを入れたわけですが、同じようなポジションにいたマルちゃん、幅を取りに行った橋岡はトランジション用の立ち位置を取れていたわけではなく、後方はCBとFWの1on1の状態になってしまい、安定してボールをキープされてしまいました。
その後の鹿島の攻撃は特段速かったわけではないですが、浦和は切り替えが遅く、帰ってこないマルちゃん不在のMFラインがチグハグになると、鹿島は人の間のスペースを見つけては使うの連続で、経由した選手ほぼ全員プレッシャーが無いような状態で上田のシュートまで辿り着き、ゴールを許しました。
63:20から始まる3失点目は、約10分前に中央でのプレーを得意とする武藤がSHに入っていたこともあり、中央への密集傾向と、配置がバラバラな状態で攻撃を仕掛けたことで意図的なトランジションが機能しなくなっていた場面でした。
同じハーフスペースでボールを出し・受けをする山中と武藤。大外にはなぜか青木が立ち位置を取っており、ここでボールを失うと中央でネガティブ・トランジションに備える人員は不足。カウンタープレスも全くと言って良いほどかからない状態でした。
直接的に失点には繋がりませんが、主体的なトランジション移行が実現できない結果としてボールが行ったり来たりが続くと、気の抜けたようなプレーの連続。途中、鹿島のミスもそれなりにあったものの、それを上回るミスの連続で、失点するのも納得の非常に残念な光景でした。
苦肉の3-1-4-2、中盤空洞
直後の65分、青木の怪我もあって伊藤がボランチに入ってひとり気を吐きますが、中央を強引に突破しようとする傾向は変わらず。78分には疲れが見えた興梠→健勇、マルちゃん→宇賀神と交代カードを切り、3-1-4-2へとシステムを移行します。
これは青木の怪我もあって、現状のメンバーと交代カードを切ったうえで、それぞれの適性ポジションに当てはめた結果のシステムと言えると思います。
そもそもSHを本職としている選手が2人しかいなく、武藤が交代1番手で入っている時点でその手薄さは露呈していますが、編成上のいびつさが今回もピッチに出てしまった形でした。
IHに武藤と伊藤を置いた浦和は、WBに幅を取らせるぐらいであとは中央へ密集。また、この頃には最終ラインが立ち位置を取って相手の第1ラインに対して優位を取る、という動きはほぼなくなっていたため、アンカーのエヴェルトンがボールをもらいに下がったり、最後の局面ではゴール前へ殺到したりと、組織は中盤が空洞化し、前後に分断しました。
今季積み上げてきたはずの「正しい立ち位置」が取れないということは、次の局面への準備ができないため、「トランジションで相手を上回る」ことは難しくなります。
結果として、オープン状態のような形になり、機能しないネガティブ・トランジション時に空洞化した中盤で起点を作られるとレオシルバにカウンター沈められて4失点目。
今季の積み上げも、強みも、反攻も何も見せられないまま4-0で終戦を迎え、ACL出場権の可能性は潰えました。
まとめ - 揺らいだ積み上げと失意
非常に残念な試合でした。大槻監督が試合後インタビューで溢していた「局面での強度不足、戦術以前の問題。やれない選手たちではないので残念」と話していましたが、今季の積み上げ、結果が出ている時に強みとして相手を上回ってきた部分を発揮するための、そもそものベースが表現できないのであれば、こういう結果になるのも当然という印象でした。
緻密に何度も正しい立ち位置を取り直さなければ、バックラインから安定して優位を運ぶことはできませんし、そうなるとトランジションに備える立ち位置を取ることも不可能です。
その結果として現れるのは、強みとしているはずのトランジションでチャンスを生み出すことはできないどころか、その局面の強度は低下するばかりでむしろ失点の温床となる場面。
わずか1ヶ月前の仙台戦やC大阪戦でどうやって勝っていたかを思うとやるせない気持ちになります。
大槻監督やマルちゃんの退団が発表されたように、契約関連の話は交渉中か、すでに来季の契約有無が確定しているのでしょう。憶測でしかありませんが、そのような影響は多少なりともあったのかなと思ってしまうほど、局面の循環と強度を全面に押し出してトライしてきたチームとは思えない内容となってしまいました。
ACL出場という目標も完全に失い、今の監督は来季いないことが確定。噂に出ている新監督との繋がりが目前のピッチにあるのか、そもそも選手自身が来季同じユニフォームでピッチに立っているのか。そんな状態で迎える残り3試合がとても心配になってしまいました。
それでも、一昨年の平川忠亮や李忠成、アンドリュー・ナバウト、昨年の森脇良太のように浦和のために戦う選手たちを見てきましたし、今季のチームが何にトライしてて、表現してきたかも見てきました。最後まで何を見せてくれるのか、それをしっかり目に焼き付けるために埼スタへ足を運ぼうと思います。
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