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【レビュー】創造される太陽系 - 2020 J1 第19節 浦和レッズ vs 横浜FC

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・GKからの繋ぎを許さない浦和のハイプレス
・運べる、運ぶ前提の横浜FC
・浦和の保持 - 左右の対比と、人とボールの関係
・唯一絶対の基準、浦和の太陽
・様々なスパンでの後半の意味

はじめに

7日で3試合目となる今節は横浜FCをホームに迎えました。前回の対戦では前からハイプレスを敢行し、0-2で勝利を収めた相手。直近のホームでの成績が振るわない浦和は、前半勝ち点を稼いできた自身より下位の横浜FCから何としても勝利を得たい試合でした。

前回対戦同様、柏木がSHで先発。柴戸と山中は中2日で行った2試合でフル出場した中、3試合目となったこの日もスタメン出場となりました。

結果は0-2の敗戦。前半のエラーと状況判断のミスから2失点しますが、後半は「立て直した」と評されるも、今季やってきたことや中期計画という視点から見ると物議を醸す内容となりました。

皆さんも様々な意見を持ったことと思います。前半・後半の内容を分析するとともに、浦和レッズというクラブレベル、数年のスパンという視点も持って振り返っていきたいと思います。

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GKから繋ぐ横浜FC、それを許さない浦和

今節も後ろから丁寧にビルドアップを行う横浜FC。浦和は主にGKから始まるような場面では前回の対戦同様、ハイプレスを敢行。横浜FCは4-4-2から変形し、GK、CB、アンカー化する手塚で菱形を作ってスタートしますが、浦和はエヴェルトンをトップ下化させる4-3-1-2で対抗します。

結論から言うと、このハイプレスは一定の成果を出せていました。レオが左、健勇が中央を切りながらGKとCBにプレッシャーをかけ、右サイドへ追い込む。中央への経路を封鎖して、横浜FCに長いボール蹴らせたところで回収する一連のプレッシャーは前半3分30秒から確認でき、8分、14分40秒、18分20秒でも再現性のあるシーンが見られます。

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また、前半終了間際の43分、44分ではハイプレスからエヴェルトンが鋭いインターセプトを見せてショートカウンターへ移行。前回の対戦同様、GKから繋ぐビルドアップに対して"前"に出て回収することはできていました。

セット守備 - 苦戦した横浜FCの"運べる"前提

ゴールキックなど、最後列から始めるビルドアップに対してはプレスを嵌め込むことができていた浦和でしたが、ミドルゾーンでセットする場面では、横浜FCの論理的なボール運びと個人・組織での共通理解に手を焼きました。

ボランチの手塚、安永が浦和2トップ周辺で出入りして中央に収縮させることで2トップ脇にスペースを創出。その場所で左右のCBがボールを持つと、すぐにボールは離さず、しっかり前方へ運んできました。

浦和も今季取り組んでいることですが、後方からボールを運んでくる選手がいると、その先の相手は複数の選択を突きつけられることになります。この試合でいえば、浦和のSH、関根と柏木にあたります。

横浜FCはこの"運ぶ"が共通理解となっていて、運べる状況になるとSHがMF背後のハーフスペースに侵入、SBも近寄らずに幅を取り、2トップのうち皆川が深さを取るとレアンドロ・ドミンゲスは自由を享受。

大外を使われるにも、運ばずにボールを離してくれればSHはすぐに対応できるのですが、自分に向かって相手がやってくると、どうしても対応を迫られ、浦和のSHはまずゴールに直結する中央をケアして収縮せざるを得ない状況になりました。

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浦和の保持 - 右と左の対比、降りることの意味

また、同じ4-4-2が最初の立ち位置でもある浦和のボール保持との対比も顕著でした。

レアンドロ・ドミンゲスが先発したことで、プレスの強度は落ちたためボールを持つ時間も通常よりは長かった浦和。今節も2トップを採用する相手だったため、CBに柴戸やエヴェルトンがサポートに入って優位を形成。

横浜FCと同じように2トップ脇など、空いた場所から前進していく狙いを見せましたが、左右でディテールの違いが顕著でした。

まずは左。主に槙野が2トップ脇でボールを持てるシーンが多かったです。ここで求められるのはやはり"運ぶ"こと。今季、試合に出始めた頃の槙野はあまり運ばずに早めにボールを離すことが多かったのですが、ここ数試合では運んで欲しい場面でしっかり運べるようになっていて、この試合の前半だけでも17分、29分15秒、31分25秒、36分と複数回確認できます。

しかし、運んだ先の周囲の呼応はあまり良いとは言えないものでした。同サイドのSH、関根はMF背後で待っていてほしいですが、運べる確信がないのか、槙野が徐々に運んだ様子を見て前に上がっていくことが多く、その先で健勇と被ってしまう場面もありました。

また、山中のポジションの取り直しもあまり見られませんでした。槙野がボールを渡さずに運んで相手のSHに選択肢を突きつけているので、一緒に前にポジションを移すとその利益を享受できるのですが、その場に立ち尽くす場面が散見されました。

このように、左サイドの最終ラインからの持ち出しや運ぶことは槙野の適応ともに確認できる頻度が増えてきました。しかし、その先の確信が持てないのか、運びに合わせてポジションを取れていない場面が多く、それがシュートまで繋がらない要因なのかもしれません。

もっとも、山中のポジションは後半変化があったのでハーフタイムに修正が入ったのかもしれませんが、後述する通り後半の内容については全く違うチームのそれでしたので、あまり参考にならないかもしれません。

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対照的に右サイドのビルドアップは特殊な状況。岩波がもともと運ぶことがあまり得意ではないのと、右SHに入った柏木が頻繁にボールをもらいに下がってきます。

もちろん屈指のボールプレイヤーなので、その場では安定してボールが回ります。しかし、SHが下がるということは背後でボールをもらう選手が不足することを意味し、その先で何かが起こる可能性は低くなります。

5分30秒はその具体例で、浦和の5人が横浜FCの2トップと同じような列にいる状態でさらに柏木がボールをもらいに下がってきます。そこからMF背後、スクエア間を意識した立ち位置を取っている関根へパス。うまくターンして右ハーフスペースの健勇にボールが渡りますが、このタイミングでチャンネル間をインナーラップするSHやオーバーラップするSBは間に合わないので、選択肢が相手に囲まれて可能性の低いレオへのクロスしかありません。

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試合後のコメントにもあった通り、頻繁にボールに触って"リズム"を作っていくことが本人にとって快適であることは確かのようですが、不器用ながらも今季の原則にトライし続ける左サイドとの対比が印象的でした。

ゴールキックから横浜FCがGKから繋ぐときは前から嵌めるが、セット守備では運んで待てる相手に苦心。前線のプレス強度が低いこともあってボールは持てたが、何かを起こすことはできず。

概ねこのような構造で前半は推移しますが、結果としては2失点。1失点目は西川まで下げることで相手を引き出し、空く場所に長いボールをつけようとしたところでのエラー。2失点目は治療で1人少ない中、SHに入った健勇がレアンドロ・ドミンゲスを制限できなかったこと、その前のプレーでボールを奪った柴戸が、孤立しているレオに縦パスをつけて失ってしまったあたりの状況判断のミスでした。

2失点目はC大阪戦の選手交代時にもあったような、はっきりできない状況判断によるものなので改善が必要です。1失点目は今季のトライの中での単純エラーなので、そこまで悲観する必要はないとは思いますが、ホームでの勝ち点が少ない中、先制されるとほぼ勝てない浦和にとっては「後半に何かをしなければいけない」理由には十分足り得る痛い2失点となりました。

唯一絶対の恒星・浦和の太陽

後半を迎えるにあたって、浦和は大胆な交代策。岩波→宇賀神、エヴェルトン→汰木で柏木をボランチに据えました。ハイプレスで存在感を見せていたエヴェルトンから柏木に変更したことで、非保持やトランジションの強度を落としても、多くなるであろうボール保持から得点を奪いにいく姿勢を見せます。

SHから下がってしまうのであれば、最初からその位置で使うのは論理的かもしれませんし、本人にとっても(今季のスタイルを考慮しなければ)適性ポジションであることは間違いありません。また、CBが岩波からトミーにになったことで、前半から利用することができていた2トップ脇で槙野、トミー、柴戸、柏木がボールを持つことになり、全員運んだりパスを出せたりする選手が揃ったことになります。

今季の枠組みのなかで、相手の構造・リアクション上、空く場所を取る。強度を犠牲にしてもそこでクオリティを発揮できる選手を配置する、そんな交代策に見えましたが実際に表出した現象は、柏木陽介のサッカーでした。

各選手がバランスよく立ち位置を取り、空いたスペースを使った選手が何かをするのではなく、全てが柏木を経由する。ボールサイドには必ず柏木がいて、運ぶスペースがあっても、第1に見るのは柏木がどこにいるか。

柏木がオープンにボールを持てばSBが確信的にWG化し、FWやSHはMF背後で待ち、78分のように即座に興梠が動き出してかつての栄華を彷彿とさせるレオとスリー・オン・ラインからのスルー→ワンタッチ。

確かにそれは2019年に終わらせたはずのサッカーでしたが、稀代のゲームメーカーである浦和の太陽が基準となると、それを中心に浦和は廻り始めます。

今季のトライではなく、柏木陽介のサッカーという意味では、77分のシーンが顕著な具体例でした。先述したように、空く場所で運ぶことにトライしている槙野がまさに"運べる"場面でボールを持ちますが、そのコースには柏木がいます。

これまでの試合に照らし合わせるなら、ここは槙野が横浜FCのSHに向かって運び、選択を突きつけることで優位を中央か、空いた大外の山中に運んであげる場面。ボランチは2トップ背後に立ち位置を取っていると思います。

しかし、この場面での実態は運ぶコースには柏木がいて、柏木がボールをもらい、そこから汰木に縦パスを入れました。槙野が得た利益を前線に"運ぶ"のではなく、柏木の能力に全てを託してそこから何かを生み出すトライということです。

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それでも、柏木のボール保持の局面における能力に疑いの余地はありません。79分のシーンでは、やはりトミーの前方に運ぶスペースがあっても興梠が下がって受け、近くでボールを回しますが、その時間が柏木が参加する時間となります。

この流れは、特定個人を基準にせず、空いた場所を取った人がその優位を前線に運んで素早くゴールに迫る、という今季の原則ではありません。

しかし、ひとたび中央で柏木がボールを持つと、これまで近くで回していたチームが嘘のように、一気に相手の背後にポジションを取り始めます。本当に、全員が一瞬で、です。チームの中における影響力や、その能力へのチームメイトからの信頼が揺るぎないもであることが読み取れます。

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太陽系の絶対的な恒星である太陽のように、柏木という浦和の太陽が絶対の中心として燦々と光を放ち、周囲はその基準によって光を受ける惑星となり、やるべきこと、動くべきタイミングが決まっていく。

どちらのサイドでも、中央でも、最終ラインでも中盤でも全て柏木を経由する。空いた場所でボールを持った選手が相手に対して何かをするのではなく、柏木にボールを預ける。

優位を運び、相手をひっくり返して素早くゴールに迫る速い攻撃ではなくても、浦和の太陽はボールを失わない、ボールが前に進む、決定的なボールが出てくる。そんな確信を持って周囲の選手が呼応して、後半の浦和は廻っていったのです。

ほとんどの時間帯で横浜FCを押し込むことに成功し、相手からボールを取り上げ、柏木がオープンにボールを持った段階で疑いの余地なく前のポジションを取った浦和はネガティブトランジションでも効果的に回収。61分や80分のように、前半はできていた非保持でのハイプレスが嵌まらなくなっても、ボール保持の局面を続けました。

結果としてはそのまま0-2で敗戦しましたが、最終的なゴール期待値は1.337でした。

まとめ - クラブレベル、数年スパンのストーリー

ミシャのサッカーが終焉を迎えたあとも、堀、オリヴェイラ、大槻と監督の理想から構築することはせず(あるいは頓挫し)、揺るぎなくチームを支えてきた選手にサッカーを最適化することで、天皇杯とACLで結果を得てきた浦和。

しかし、加齢と共にピークを過ぎていく選手を主体とした属人的なやり方で繋いでいたギリギリの綱渡りは2019年のリーグで遂に限界を迎えたことで、これ以上の上積みは現実的ではないと総括し、2020年は新たなサイクルを始めると決めたはずでした。

そうして始動した3年計画では、浦和、埼玉スタジアムと適合するはずのコンセプトを策定し、その抽象概念からプレー原則を抽出して具体化することで、特定個人に依存する属人化からの脱却を図りました。

もっとも、1年目の半分が過ぎたところでその実力と、適合する人材の不足が見えてきて、ACL出場権獲得と得失点差+10という短期目標の達成についてはどうやら厳しい戦いを強いられるらしい、ということが浮き彫りとなってきました。

広島戦のレビューで言及したように、それでも日本最高の世界で戦っているプロの指導者や選手である以上、結果を求めますし、我々サポーターも求めます。内容優先で結果が出なくても良いというのは、外野から見た感情を無視した考えで、チームや組織が崩壊します。「降格がないのだからベテランより若手を使え」というのも大反対です。

それの中でも、中長期を見て国内・アジアで継続的かつ安定的に優勝争いをするため、3年計画のさらに一段上のレイヤーであるビジョンで策定されている「アジアNo.1クラブを目指す」という姿を実現するため、コンセプトから具体化したサッカーを不器用ながらもトライし、その中で最大限結果を求めていく。

個人的にはそういったアプローチを期待していますし、広島戦のような原則に基づいたプレーの中で、できないことを受け入れながらも、そのベクトルで結果のために割り切った戦いは、直前の結果からの流れを見てもある種の納得感はありました。

シーズンというスパンで見ても1年目の選手編成が事実上難しかったこと、西野TDが構築・運用を進めているはずの「コンセプトを基準とした評価軸」と照らし合わせた編成が本格的にスタートする前であることを加味して、今季の進捗度合いや、どうやら中位あたりが現実的らしいという結果についてはある程度受け入れる覚悟はできていました。

その中で、今節後半に観測したサッカーは、今季の原則という枠組みから外れて1人の王様が絶対の基準になっていたものでした。柏木が良い悪いという話ではなく、クラブレベル、数年というスパンからの視点で「2017年から始まって2019年に終わったはずのストーリーの続きではないか」とある種の懸念を感じました。

ただし、推測の域を出ない要因がたくさんあることも事実で、3年のうちの1試合、それも45分だけを見てあーだこーだと喚くのも違うと感じます。

監督が後半の状況を意図したかどうかも分かりませんし、そうだったとしても直近のホームで結果が出ていないから故の、この45分に限った策かもしれません。中期計画推進の責任者である強化部がどう評価しているのかも分かりません。ある意味の諦めや開き直りがピッチ上であったのかもしれませんし、また同じような状況に陥った時に監督や選手が同じ選択をするのかも分かりません。試合後のインタビューで、柏木と宇賀神が発信していることに違いがあります。様々に観察するべき点があるので現時点で判断を下すのは早計です。

3年計画という中期計画の途上にいる中で、この試合もまた点ではなく線の一部として、後々振り返る必要があると思いますし、そのために文章として残しておきたいと思います。

3年、1年、90分、45分と様々なスパンで考える事柄が多かった今節、あなたはどう捉えましたか?感想や意見を下記Twitterのリプライ、引用RTなどでお聞かせください!匿名質問/意見感想/リクエストはこちら

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