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【レビュー】分断と時計の針 - 2020 J1 第29節 浦和レッズ vs FC東京

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・保持 - キャラクターの分断
・傾倒 - スルー、ワンタッチ、フリック
・"狭い"FC東京、それでも狭く、近く
・クローズするFC東京、手がかりがない浦和

はじめに

ホームでの連敗を避けたい浦和は、ACLの影響で前倒しとなる29節、FC東京戦を迎えました。

0-2で負けた横浜FC戦、結果もそうですが後半の内容には様々な意見があったと思います。ひとつ懸念を書き留めたのですが、それ故にいろんな意味で注目を集めたと試合でした。

注目のメンバーは、アタッカーが大幅変更。興梠と武藤が2トップ、柏木が遂にボランチに入り、宇賀神が復帰を果たしました。ミシャの教えを受け、中心で牽引した選手が全体の半分入ることに。おそらく、ここまで揃うのは今季初だったのではないでしょうか。

試合はそんなメンバーの特色が反映されますが、結果は0-1の敗戦。このメンバーが出場したことで何が起こったのか、閉塞感の正体はなんだったのかを中心に振り返っていきます。

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分断するキャラクター

非保持とトランジションに重きを置いてチームを作ってきた今季ですが、横浜FC戦の後半から見るに、ここにきてボール保持に傾倒しているようにも見える浦和。

それに対して、保持にそこまでこだわりのない東京はいつも通り、非保持で圧縮することからゲームに入りました。

FC東京は2トップのため、ボランチや宇賀神をサポートに入れて3枚になる浦和。対する東京はSHに前目のポジションを取らせることで、数的優位を解消する狙いでした。

東京のSHは外切りの詰め方で、狭くしている中央にボールを誘い込もうとしてきました。浦和はこれに対して素直に立ち位置を取ってしまうことが多く、東京のプレッシャーを外したり、そもそもこの圧縮と勝負せずにトランジションに持ち込むようなことはあまり見られませんでした。

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これは、今節のスタメンに狭いエリアで、細かいタッチを使って崩すことを成功体験として持つ選手が多かったので、そもそも逆手に取る気がなかったのかもしれません。

狭い所に押し込める東京の守備に対して、ボールを保持した浦和は主に左から、距離を近くして、少ないタッチで繋いでの"崩し"を狙う場面が目立ちました。特に宇賀神がサイドでボールを持つと斜めのパスが入り、そこからスルーやフリック、ワンタッチを入れて狭いスペースの攻略を試みる場面が散見されました。

しかし、"あの頃"とは違い、出場する全ての選手が最適化されているわけではありません。この"崩し"を考えるまでもなく実行できるのは、興梠・武藤・柏木・宇賀神の4人でした。

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逆に、汰木と長澤、柴戸はその4人に合わせることに関して、遅れを取っていました。12分30秒では、柏木スルー→興梠落としの後の柴戸がワンタッチで前につけることをイメージしていたと思います。

また、15分のシーンでも左から攻めるよう柏木が指示すると、宇賀神から興梠に斜めのパス。落としを柏木が受けると、武藤につけてフリック。次に絡んだ汰木が一回ボールを持ちますが不発に終わりました。

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その時の興梠のリアクションを見ると、やはり汰木にもワンタッチで繋いで欲しかったのでしょう。また、柏木が落としを受けた瞬間、右サイドではハーフスペースに長澤、大外には橋岡が幅を取っていましたが、やはり選択は武藤・興梠のいる狭い同サイドでした。

では、"じゃない"選手が個性を発揮できなかったかというと、そうでもありません。ボールをゆっくり保持して狭い局面を"崩す"ことが先述4人の特徴なら、彼らが活きるのはトンランジションの局面。

試合開始直後は長いボールも使っていた浦和。1分は武藤の裏抜けに槙野が長いボールを送り、こぼれ球が東京に渡ってネガティブトランジションの局面が発生しますが、ここで長澤の特徴が出てボールを奪取。そのままゴールに向かいました。

5分30秒のシーンでは、非保持の局面で柏木が東京のボランチをケアする4-3-1-2でジリジリとGKまで下げさせると、ロングボールを回収。トランジションが発生すると素早く前につけ、汰木が1on1のドリブル突破でPA内まで侵入しました。

しかし、全体の傾向としては前者の攻め方に傾倒していたような印象。37分に失点したあとも、やはり41分では広げたり、大きく展開するというよりは狭くても左サイドから、細かいタッチで崩していこうという雰囲気でした。

このシーンでもやはり、ミシャの薫陶を受けた4人では繋がりますが長澤のところで少しズレたりと、前半を通して見られた展開と同様な流れになりました。

ちょうど、特徴を共有できるグループが2つ、全体的に半分ずつスタメンに名を連ねたことで二面性を持った浦和。

前半の結果としては、これを使い分けるということはなく、狭い局面で崩していくキャラクターを持った選手たちがポジション的にも影響力を持ち、狭いエリアで守りたい相手に対し、あくまで少ないタッチや近い距離感でそこを突破することに傾倒していきました。

門を閉じたFC東京、鍵が見つかる気配もなく

0-1で折り返した後半、東京は少し重心を下げることで浦和がボールを保持する展開ではさらにスペースを空けないように試合を推移させます。

浦和は52分のように、西川のロングキックを使い、空くスペースやトランジションを利用する事を狙う場面はありましたが、スピードのある永井が積極的に追ってくる事で、西川が良い状態で蹴ることを難しくされる状況を作られました。

また、重心を下げた東京に対する浦和のボール保持も、ブロックを広げたり動かすこと、構造上空く場所を狙う姿勢は乏しく、やはり同サイドで狭いエリアをこじ開けようとした時間が多かったと思います。

しかし、74分にマルちゃんが最初から大外に張って、1on1でクロスを上げたシーンや、64分に槙野から大きいサイドチェンジが入ったシーン、その流れから発生したトランジションの方が可能性はあったのかもしれません。

60分20秒はトミーが持ち上がっても前線の動きは乏しく、ブロックの前に下がって受けようとする動きだけで、それを利用して裏抜けを狙う動きなどはあまり見られませんでした。

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上記は70分のシーン

FC東京は75分に高萩を投入しから、さらに堅牢に、手堅くなります。ここまでSHが前目のポジションを取り、外側を切ってプレッシャーをかけてきましたが、自重。

特に2トップ脇で槙野が持って運ぶ場面でも、SHが対応に出ず、2トップが2度追いする事で後ろのブロックを動かさないよう、より慎重にゲームを締めようとしてきました。

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77分のシーン

より難しい状況に置かれた浦和が、ボール保持でブロックを崩す兆しは見えず、81分40秒では解説の戸田さんから指摘が入りましたが、最終ラインが味方との立ち位置を見て、離れてボールを受けるというポジションの取り直しもなくなっていき、狭いとろで詰まって失う場面も。

正直なところ、疲れがあったのかもしれませんが 、これまでの試合ではある程度できていたことが段々とできなくなってしまいました。

最後は山中と健勇を投入、5枚を前線に並べてパワープレーを指示されたかと思いきや、そこまでの割り切りも見えず。アディッショナルタイム近辺からそれなりに前線に入れ始めますが、85分あたりはなんとなく繋いでいる光景を見せられるなど、あまり秩序が感じられず、山中を効果的に使うこともできませんでした。

そうして試合は0-1で終了。今季2度目の連敗となりました。

まとめ - コンセプトと成功体験の狭間で

横浜FC戦の後半を見て、ある種の懸念があると書きましたがそれは時計の針を戻してしまうのではないか、ということでした。

非保持からゲームに入り、トランジションの局面で強みを見せる。保持では構造上や相手のアクション上、空く場所を取って優位を運ぶことでひっくり返し、相手の秩序が再び整う前にシュートまで持っていく。

コンセプトから抽出したそんなサッカーを目指してきたはずですが、前節に引き続き、ボール保持では秩序がなくなる瞬間を利用するのではなく、相手の秩序を破壊するミシャ期への回帰とも取れるようなサッカーが展開されました。

今節は特に、その頃に中心として牽引してきたメンバーがスタメンの半分に名を連ねた事でより顕著に。狭い場所、近い距離で速いスピード、少ないタッチでボールに絡む"ミシャの子供達"と、それに組み込まれない選手との違いが目立ちました。

ある種、二面性を内部に抱えた今節の浦和でしたが、それを効果的に使い分けたわけでもなく、ふたつの派閥が衝突し、その結果どちらも中途半端に終わったような印象。そんな状態で堅牢なFC東京から得点を奪えるはずもありませんでした。

今週はもともと厳しい今季の日程でも一番と言ってよいほどの過密日程でしたので、メンバーを大幅に入れ替える必要もありましたし、前節の受けて結果が必要だったと思います。

また、選手の発信などを見ていると、結果や内容がついてこない感覚、ある種の納得感がない事や、チームで影響力や実績を持つ選手のキャラクターが今季のサッカーと合わないことが感じられることもあります。

ただしこれは2019年までやってきて限界を迎えたことも事実ですし、原則から外れるようなプレーが目立ち始めるのは見ていて複雑な想いにもなります。物事や人を急激に変化させることもまた困難を伴いますが、個人的には次節、大敗を喫した相手に対して、今季積み上げてきたもので臨むことを期待します。

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