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【J1 第7節 vs 横浜FC レビュー】リスクを背負って"前"に活路を求めた浦和

この記事でわかること

・今節における浦和の選択
・ストロングの非保持 - ハイプレスの構造
・前節の反省から改善されたビルドアップ
・得られたリターン

はじめに

2連敗して迎えた横浜FC戦。後方から丁寧に繋いでくる相手に対して、浦和はリスクを背負って"前"に出ることを選択しました。3カ年計画のコンセプトや今季取り組んできた内容で結果を出すことを目指し、何をリスクにかけてリターンを得ようとしたのか、解説していきます。

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記事中の図面は約3秒で変化します。

ボール非保持の"前" - ハイプレス

まずは守備、ボール非保持の局面から見ていきます。GKをビルドアップに組み込み、CBをアンカーの位置に上げたりと、数と配置を利用して丁寧に繋いでくる横浜FC。対する浦和の選択は"前"でした。マンツーマンの要素を強め、最終ラインとGKまで積極的に人を捕まえにいくことで高い位置でボールを奪うこと、または誘導して長いボールを蹴らせたり、最終ラインが予測を持って迎え撃つ形を目指しました。その分のリスクはもちろん背負ったわけですが、ハイプレスが空転した際も素早く帰陣して、4-4のブロックを再度敷くということも徹底できていたと思います。
基本的なメカニズムは【図1】の通り。2トップとSHが前線から人を捕まえに行き、ボールサイドのボランチ1枚(主にエヴェルトン)が菱形の頂点となる"偽CB"を監視。CBとボールサイドではないSBの3枚を残し、その前のスペースや反対のサイドはリスクとして許容しつつ、前線からの誘導がうまくいったと判断できた場合は最終ラインからも積極的に前に出てビルドアップを潰しにいきました。

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【図1】ハイプレスの構造と許容したリスク

キックオフ直後からこの形を見せた浦和のハイプレスは、かわされてピンチを迎える場面もありつつもショートカウンターという形で前半のうちからチャンスを創出することに成功します。

08:00~ のシーンでは、レオナルドがGKまで捕まえに行くプレス。これに呼応した興梠と青木も続き、左サイドに誘導します。関根と山中の受け渡しもスムーズで、マギーニョからボールを奪取することに成功。即座にカウンターに移行し、ビッグチャンスを作れました。【図2】

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【図2】サイドに追い込むハイプレス (3枚)

16:00~ では横浜FCのゴールキックに対してもハイプレスを敢行。この場面ではCBの鈴木までもがラインから飛び出してボールを奪いにいきます。一見リスクが高いように見えますが、前線からしっかり右サイドに誘導して相手から選択肢を奪っているので、鈴木にとっても予測したうえでの飛び出しでした。【図3】

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【図3】ゴールキックへの対応 (2枚)

20:15~ でもゴールキックに対するハイプレス。1度目で奪い切ることはできませんでしたが、GKからやり直した横浜に対して再び同じように組織的に追い込み、ボールを奪うことに成功しました。

ハイプレスが空転した際の再配置
一方、ハイプレスをかわされてスペースを使われる場面もありましたが、その際の切り替えも早く、帰陣して4-4のブロックを敷き直して対応できていました。

6:30~ の場面では横浜FCに”偽CB”を使われたことでハイプレスをかわされ、誘導したかったサイドとは逆の開けたスペースまでボールを運ばれます。しかし、ここで対応にあたった山中や関根が時間を稼ぐと、4-4のブロックで再配置。ハイプレス→セット守備への移行を成功させました。

38:00~ でも、菱形から形を変えた横浜FCのビルドアップに対応しきれず、プレスはかわされますが、その後の対応でサイドチェンジを許さずに同サイドでの封じ込めに成功します。その間に帰陣し、4-4のセット守備から適切なスライドでボールを奪いました。

横浜FCのビルドアップも良く仕込まれており、危険なシュートシーンを作られる時間もありましたが、全体的に見て、逃げ切りを意識してやり方を変えた終盤までこのハイプレスとセット守備はよく機能していたのではないでしょうか。

ボール保持の"前"  - 「正しい立ち位置」で待つビルドアップ

次に攻撃面、ボール保持について見ていきます。こちらも徹底された”前”への意識。前節・柏戦の、特に後半で課題となった点はレビューで指摘した通りですが、今節ではこの部分が即座に修正され、しかも結果に結びつきました。

まずは後ろから繋ぎすぎず、ロングボールを交えて裏や前を狙う姿勢。そのために監督が求めている「正しい立ち位置」を取ること。いずれも前節より良く、組織として準備ができていたと思います。具体的には、西川のロングボールや橋岡の高さを活かして前進すること、そのセカンドボールを回収するための前線の配置も行えていました。先制点は西川のロングボールで一気にMFラインを越すと、そこで待っていた前線4枚で完結した素晴らしいゴールでした。【図4】
前節の1失点目の原因となったゴールキックも、潔く橋岡の高さという、マッチアップする松尾に対する質的優位を活かすパターンを多用することで安定してボールを供給できていました。

18:55~ は前節1失点目の原因となったゴールキック。今節ではシンプルに橋岡の高さを使った設計になっており、周りのポジショニング、その後の反応も準備されたもので柏木のシュートまで持っていきます。

26:00~ のゴールキックも同様です。 

48:30~ では、前から人を捕まえる意識の強い横浜FCに対して、西川から幅を取った橋岡への選択肢を持ちながらも、中央に直接速いボールで関根とレオナルドの2人でシュートまでいきます。先制点と同じようなパターンです。

50:45~ そして先制点。前線4枚がMFライン背後で待っており、そこに西川から速いボールが届けられ、4人でシュートまで完結。配信映像では西川のキックが映っていないのが残念ですが、カウンター気味の素早い切り替えで、コンセプト通りのゴールだったのではないでしょうか。【図4】

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【図4】"攻守に切れ目のない"先制点 (3枚)

前節・後半から改善した対セット守備の立ち位置

また、相手にセットされた時のボール保持についても改善が見られたと思います。目の前にスペースがあるなら「運ぶ」こと、前線がMFライン背後や最終ラインに「立ち位置」を取ること。それを活かして、無闇に後ろに人数をかけすぎず準備が整っている"前"にボールを置くこと。特に、今節先発した鈴木がしっかり「運ぶ」場面や、場合によっては下がってくることもありましたが、しっかり立ち位置を取る柏木を見ることができたと思います。また、近くの足元ではなく遠くや裏を見てボールを配球した山中や、それに合わせてしっかり裏へ走る前線など、前節・後半の課題からしっかり修正できていたのではないでしょうか。

21:00~ のシーンでは、2トップに加えて柏木、橋岡が相手の最終ライン上にしっかり残って待っています。前から人を捕まえに来る横浜FCに対して、無闇にポジションを下げてボールを貰いにいくのではなく、前線で「待つ」ことができています。橋岡が最終ラインと同列から裏へ抜け出す動きを見せると隣の柏木は反対にスペースへ降りる動きで最終ラインにギャップも作れています。これを認識してる鈴木も、近くの青木ではなくラインを越すパスを選択しました。【図5】

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【図5】しっかり待つ「立ち位置」を活かしたビルドアップ (3枚)

21:45~ では、目の前のスペースを認識した鈴木が「運ぶドリブル」をすることでパスコースを創出。

69:30~ のシーンは相手がプレスにきたことを認識した山中が繋ぎすぎず、近くではなく遠くへのロングボールを選択した場面。湘南戦の1得点目のようなパターンです。下がりすぎない立ち位置を取っていた関根とレオナルドの連携で裏を狙います。

76:00~ でも山中から同様の展開。裏に抜け出した杉本のシュートはクロスバーを叩きました。

今節は監督や選手の声が配信でもよく聞こえましたが、大槻監督から「運べ」「ポジション取れ」など、日頃から言及されている単語が聞こえましたし、実践もできていたと思います。

戦術・戦略的にもリスク以上に得られたリターン

サッカーのルールが変わらない限り、リターンを得るためには何かをリスクとして許容しなければなりません。相手の特徴を踏まえたうえで攻守ともに”前”を選択し、リターンを取りにいった今節。結果がついてきたこともそうですが、リスクが顕在化して迎えたピンチの頻度と、得られたリターンでゴールに迫った頻度を比較しても十分なトレードオフだったと思います。今季のストロングであるボール非保持の局面では一定の成果を出せましたし、ボール保持に関しては前節・柏戦の前半のように「正しい立ち位置」を意識して目指している内容をある程度見せられたのではないでしょうか。また、全体的にキャンプから導入してきたことに挑戦し、表現できました。これはコンセプトを基にサッカーを作っていくという戦略的な観点から見てもリターンの大きい試合だったと思います。

(1) 個の能力を最大限発揮する
(2) 前向き、攻撃的、情熱的なプレーをする
(3)攻守に切れ目なく相手を休ませないプレーをすること

ただし、守備方法において、前からマンツーマン気味にGKまで追いかけることが今季の浦和の標準的なサッカーかどうかといえば、それはまだ判断できないと思います。コンセプトや監督の発言から、前向きに主体的にプレーすることを目指しているとは確かですが、それが前節や今節の守備方法とイコールになるとは一概には言えません。中断明け最初の4試合のように、ミドルラインで構えてから守備を開始することが主体的ではないのかと問われれば、それは違うはずです。
今節のサッカーを標準とするのか、試合毎に相手の特徴に合わせてこちらが主体性を発揮できる形に変化することを標準とするのか。引き続き、今季の浦和を観察して理解していきましょう。

おわりに

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