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【レビュー】踏み出した一歩 - 2020 J1 第23節 浦和レッズ vs ベガルタ仙台

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・循環 - 局面の移行の連続
・強度 - 好循環が生み出すトランジションの強度
・自在 - ダイヤモンドと4-4-2の使い分け
・継続 - 西川も活かす"リアクション保持"
・確かな一歩と次節迎える挑戦

はじめに

名古屋戦から見られた改善が継続し、ついに花開きかけた柏戦。ここまで苦戦している仙台が相手とはいえ、継続性と再現性を保持したまま結果を得ることができるか非常に大事な試合となりました。

大槻監督が選んだメンバーは柏戦と全く同じ。中3日でしたが、得た手応えをもとに、そのまま継続することを狙ってのことだと思います。

結果は6-0の大勝。相手の質がどうだったかというエクスキューズがあるにしろ、継続的な内容の表現がなされつつ、ずっと結果が出ていなかった埼スタでこの大勝を掴んだことは非常に良かったと思います。

シーズンスパンで見ても大きな意味を持つ試合だったと思います。今節は結果以上に、何が継続されて表現できたのかを中心に振り返っていきます。

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切れ目のない4局面の循環

前節で見せた確かな進歩をそのままに、序盤から浦和は主導権を握ります。仙台はクエンカがややフリーロールの4-2-3-1のような盤面でしたが、大枠では4-4-2の相手と同じような立ち回りとなりました。

保持においては立ち位置をしっかり取り、宇賀神やエヴェルトンが最終ラインに参加して"3"を形成することや、相手がステイするなら幅や降りる動き、インナーラップを使ってサイドや中央に時間とスペースを用意し、前から嵌めにきた場合は西川を使う方法も組み込んでその裏を狙いました。

試合開始直後は長いボールを送って相手陣内でプレーすることから始め、2:10の仙台のゴールキックではお馴染みとなった4-3-1-2のダイヤモンド型プレスでロングボールを蹴らせて回収。

3:00では西川が参加したバックラインが形成されると、槙野と岩波がしっかり角度と距離をを確保。宇賀神は仙台SHに対して自身と槙野のどちらをケアするかの判断を強要する立ち位置を取っていますし、エヴェルトンは下がらずに背後にいることでクエンカをピン留めしています。各ポジションが仙台の選手から適切に距離を取った立ち位置を取ることで複数の選択肢を用意できていて、西川のフィードを活かした前進を試みていることがわかります。

3:10ではボールを奪ってポジティブトランジションの局面を迎えると、前節のようにまず一手目に2トップのどちらかが降りて受けるシーンもありましたし、7:05のセット守備でも均等な4-4-2を形成していることで、間を通されても問題ない配置が取れています。

また、相手陣内にボールを運んだ際の配置も良く、縦・前を第一選択肢としてチャレンジしながらも、ボールを失ってもすぐにカウンタープレスを仕掛けられるバランスを保つことができました。

このように試合序盤から様々な局面で、浦和が目指しているであろう事象が現れていたのでうまく試合に入れていたと思います。それだけに早く結果が欲しいところでしたが、7:25に早くも先制点。保持からネガティブトランジションへの局面移行がきっかけとなります。

スローインから右サイドに展開すると、岩波がボールを持った時点でマルちゃんが大外のレーンで待っているため、原則通り橋岡が内側レーンをインナーラップ。仙台にマークの受け渡しを強制させ、マルちゃんに時間とスペースを与えると狙うのはやはり縦・裏。

興梠を狙ったボールでしたが橋岡がカットしてしまい、ロスト(マルちゃん叫ぶ)。しかしこの時点で武藤、エヴェルトン、長澤を中心にネガティブトランジションへ備えた配置を取れているため、即座にカウンタープレスに移行して再奪取すると、攻撃へ舵を切ろうとしていた仙台の配置が戻る前に攻め切ってゴールを奪いました。

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田中の判断が一瞬遅れたこともありますが、保持で素早く前にチャンレンジし、立ち位置で相手に判断と選択を強要させ、発生したトランジションの連続を制した狙い通りの得点だったと思います。

浦和は非保持も含めた4つの局面で良好な立ち位置を取ることができており、それが安定した局面移行の実現に繋がると同時に、循環の連続で発生するトランジションで優位を取っていきました。

西川の武器も使ったリアクション保持

先制点を得た浦和はその勢いをキープ。継続して取り組んでいる、リアクションによるボール保持を表現していきます。

特に今節は、西川のロングフィードを使った前進も目立ちました。川崎戦ではここでエラーが発生して失点につながりましたが、それでも曲げずに継続していた成果が現れていました。

21:20はその具体例で、CB+西川でボールを持つと、立ち位置をしっかり取って相手の様子を伺う浦和。槙野から「周ちゃん、持ってて良いよ」という声もかかっています。

相手を見ながら、すぐにボールを離さずゆったりと保持し、仙台が高いラインを維持しながらSHを前に出してきた瞬間に空いたスペースへ降りる興梠と裏に抜ける汰木。複数の選択肢を持った"発射台"西川の高精度フィードで一気に決定機までもっていきました。

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状況に応じてバックラインを3枚にするビルドアップや、西川を使った擬似カウンターなど、「後ろからひとつずつ外して進む」、「長いボールを使う」などの決め事やルール化ではなく、相手の出方やこちらのアクションで相手を動かし、その結果として空くスペースを利用する経路で一気にゴールまで迫るリアクション保持は、今節も有効に機能していました。

鎖に繋がれた4-4-2ブロックとピンチからの修正

一方、非保持についても、10:10のようにダイヤモンド型プレスでGKまでプレスにいく展開と4-4-2をセットして迎え撃つ展開をうまく使い分けました。

4-4-2のセット守備についても非常に良いバランスが取れていたと思います。仙台が基本的にはMF背後の密集で突破しようとしていたことはありますが、原則通り味方同士の位置を基準にブロックを組み、前線の規制や位置から得た予測を元にボールにチャレンジできていました。

特に、試合を通してCBのふたりが予測を持ってボールにチャレンジする場面が多かったと思います。これは一見、組織の間を通されているように見えるのですが、その間をボールが通ってくることは予測できていて、かつ前方の選手とは段差があるような状態で最終ラインが待っていられるので、不運が重ならない限り決壊する雰囲気は感じませんでした。

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しかし、その中でも仙台に幅を使われた時には危うさがありました。3:50では右サイド、10:30では左サイドで、SHマルちゃんと汰木の裏を仙台の幅を取ったSBに使われることで橋岡や宇賀神が釣り出され、その空いたスペースや中央にボールを入れられる場面がありました。

特に10:30は危険な場面でしたが、このシーンのあとに浦和は即修正。仙台のボランチ1枚が降りて3枚となる最終ラインに対し、SHが先に動いてプレスをかけることを自重しました。

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これにより、SHが幅を取ったSBをケアできるため最終ラインにスペースを空けることが少なくなりました。監督から指示があって伝わったか、ピッチ内の選手で解決したかはわかりませんが、約4分後の14:20のシーンではすでに汰木が自重していることがわかりますし、25:40では、右サイドで長澤が参加してミドルラインでの奪取を試みた際に左サイドに脱出されますが、ここでも汰木は前にいかずにステイしました。

前から嵌めてボールを奪うことを目指しつつ、ブロックを組んで受け止めることも使い分ける。特に先制点を得ていたため、そのリードを利用してバランスを保てていたと思います。また、ここ数試合はブロックを組んでも、一度2トップに当ててレイオフ(落としのパス)を行い、中盤に前を向かせることもできているため、押し込まれてはクリア一辺倒で前に出ていけないというシーンも少なくなりました。

安定した試合運びをしていた34:00、またもトランジションの連続からゴールに繋げます。マルちゃんのスローインが短くなった場面、相手に先に触られてしまいますが橋岡と長澤のポジションが良く、ネガティブトランジションで再奪取。今度は発生したポジティブトランジションでボールを持った橋岡はすぐに前線の武藤につけて、間髪入れずにクロスを入れます。

クロスは跳ね返されますが、これにマルちゃんが即反応。再び訪れたネガティブトランジションの局面でカウンタープレスを実行してボールを奪うと、エヴェルトンの球際の強さを活かしてFKを得ました。

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ひとつ前のトランジションに参加していた長澤を含め、周囲のポジションも良好。仙台・田中のミスのようにも見えますが、高速で循環する局面とトランジションで縦と前への速さ・強度を維持したこと、1人目のカウンタープレス、周囲の封鎖具合を見ると浦和が意図的に追い込めていたと見ても良いのではないでしょうか。まさにコンセプトの体現でした。

このFKをマルちゃんが沈めて2得点目。3年契約のうち最後の3ヶ月を迎え、マルティノスイヤーが本格的に開幕しました。

そして3得点目はそのキックオフ。仙台のビルドアップに対して2トップで方向付けをして迂回させると横パスをカット。前に強いスォビィクの特徴を見抜いていたであろう興梠の絶妙なスピードコントロールでPKを得ました。

ただし、仙台のバックラインの立ち位置の取り方があまり良くなかったことは事実。浦和のビルドアップ時におけるバックラインの立ち位置と比較すると、翻って浦和の立ち位置の取り方が安定してきたことがわかると思います。

"逆足SH"の利点

前半を3-0で折り返し、今季、最も楽な展開で後半を迎えた浦和でしたが、これまでの鬱憤を晴らすかのように継続して取り組みを発揮します。

浦和は後半も非保持でのハイプレスとセット守備の併用で試合に入り、主導権を握り続け、50:00にスローインから逆サイドで幅を取っていた汰木に展開するとクロスで興梠が4点目をゲット。

ここで勝負は決まりました。アシストは汰木のアーリークロスでしたが、右サイドにマルちゃん、左サイドに汰木を置いているここ数試合では、SHを利き足と逆サイドに配置している利点を活かせています。

1得点目も同じなのですが、大外でボールを持ったSHが逆足だと、低い位置でも早めのタイミングでクロスや裏へのパスを出せる体勢を取ることができます。

それに合わせて2トップが裏を狙うシーンも多くなっていますし、速く前につけることで後退している途中の相手に後ろ向きの対応を強いることができ、ボールロストが発生しても相手陣内奥深くで浦和の強みであるトランジション局面に移行できます。

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それでいて縦にも突破していける2人ですから、相手は縦と中、両方を切らなければいけません。名古屋戦あたりからMF背後のハーフスペースでボールを待つことが主だったSHの役割に変化が見られ、幅を取ることを中心に内外を出入りするようになりましたが、現時点では個性と役割がハマってきた印象です。

4-0となった後の仙台は気持ちの面で切れてしまったように思います。単純なミスが発生したり、トランジション移行時の切り替えはかなり遅くなりました。

その中でも試合終了まで、これまでの取り組みを愚直に続けた浦和。終盤となった最後の6得点目も、CBがしっかり距離と角度を確保できる立ち位置を取ったうえで、ボールをすぐ離すのではなく相手を引きつけて空いたスペースを利用できました。長澤をはじめ、その展開を前提で立ち位置を取り続けることもできていました。

トランジションも含めて最後までチームの原則を実行し続けた浦和は大量6得点で6-0の勝利。これまでの鬱憤を晴らした歓喜の勝利でした。

まとめ - 前に進んだ大きな一歩

前節・柏戦のレビューで言及した、継続性と再現性。今節も点ではなく線で見ても整合性が取れていると言える内容で結果もついてきました。

相手の質や、勝負が決まって相手の気持ちが切れていた4点目以降を差し引いたとしても、改善の兆しが見えた名古屋戦から鳥栖戦を経てその片鱗を見せた柏戦、そして今節と、継続性と再現性も持って積み上げが表現され、結果を得ることができたという事実は、ひとつ殻を破って確かな一歩を踏み出したと言えると思います。

紆余曲折を経て、ここにきて最適と思われる人員の配置、バランスを見つけたように見えます。バックラインにおける保持や立ち位置の安定性、相手のアクションを見たうえで全体が同じ絵を描けていること、安定感を増しつつある4-4-2のセット守備とハイプレス、そして良好な循環と立ち位置で武闘派の個性を発揮する土俵を整えられている2つのトランジション局面。選手の心身のコンディションや、選手ミーティングによる一体感など、これらの要素がどのような関係性や順序を経て現在のバランスを保っているかは分かりませんが、ひとつ大きな前進を見せていることは確かです。

なかなか結果も出ず、志向している方向性や、チームの作り方から視覚的に分かりやすい情報を得られず、ステークホルダーの理解を獲得することに苦労していた今季。浦和というクラブの特性を思えば、やっと分かりやすい結果と内容が出て良かったと思います。

しかし次節はセレッソ大阪戦。局面を目まぐるしく循環させ、トランジションを制して試合を運ぶ浦和に対して、セレッソはそもそも局面の循環を可能な限りスローダウンさせ、トランジションの局面自体を潰して試合を推移させる相手です。

その完成度も明らかに上手なので、ここ数試合とは違う毛色の試合になることが予想されますし、勝ち点を得ることは容易ではないはずです。それでもこの相手に対し、自分達の土俵に引きずり込んで結果を得るようなことがあれば、いよいよ残り10試合に期待をかけても良いかなと思えるかもしれません。願わくば、次節も同じようなレビューを書けたら良いですね。

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