見出し画像

化物語および忍野扇に高橋葉介作品が与えた影響についての考察

前回学校怪談についての記事を書いたのですが、そもそもぼくがこの作品を読むきっかけを作ったのが小説の化物語でした。その中でもひたぎクラブ限定の話です。アニメでは省かれてしまったくだりなので、小説未読の方はまず知らない話になります。

戦場ヶ原が阿良々木くんの口にカッターとホチキスをねじ込んで脅迫している最中の会話で、

「私には重さがないーー私には重みがない。重みというものが、一切ない。全く困ったものじゃない。さながら『ヨウスケの奇妙な世界』といった有様よ。高橋葉介、好きかしら?」化物語(上) 26頁

と、ここで唐突になんの脈絡もなく高橋先生の名前が出てきます。

なお、状況が逼迫しているためこの台詞に対する阿良々木くんのリアクションは特にありません。ちゃんと解説いれてくれよ!って読んでて突っ込みたくなりましたね。つばさキャットでクイズなないろDREAMS 虹色町の奇跡の解説をやたら丁寧にしていたことを思えばこれはけっこうな格差です。

デビュー作の戯言シリーズでも毒使いをパープルヘイズに例えたり、寝てないところを起こすなんて最長老さまじゃあるまいしなどとマンガネタを普通に使っていたので(説明も特にしなかったので)通常運転といえばそうなのですが。

ひたぎクラブではその後も、戦場ヶ原の自宅にて、

「この奇妙な世界には、決して、夢幻魔実也九段九鬼子も、いてはくれないということ」化物語(上)66頁
峠弥勒くらいなら、ひょっとしたらいてくれるのかもしれないけれどね」化物語(上)66頁

と、三名の人物名が出てきます。初めに奇妙な世界という言葉があるので、前述の「ヨウスケの奇妙な世界」に関連のある名前であろうことが推測できます。

この発言にもやはり阿良々木くんのコメントはほぼなくて、それ以降はこの件に関する台詞も一切出てこなかったので、当時のぼくは自分で調べることに。

「ヨウスケの奇妙な世界」というのが高橋葉介先生の作品集につけられたタイトルであること、夢幻魔実也がその作品集にある夢幻紳士の主人公の名前であることを知ります。2006年時点で絶版になっており、書店で買うことはできませんでした。アマゾンでもマーケットプレイスでたまに定価の数倍の値段で出品されていましたが学生の身でお金もないので、ブックオフで文庫コーナーを探し回り、運良く置かれていれば買っていくスタイルでその作品集を集めていきました。全20巻なのですが、結果的に16巻分集めています。けっこう頑張りましたね。見てみたら7、14、18、20巻が抜けてました。ちょっと努力すればコンプリートできそうです。けれど、なんというか、読むためじゃなく揃えるために集めるというのは動機が不純な気がするのでこの程度で留めておくのがいいでしょうね。

で、収集したコミックスの夢幻紳士シリーズはすべて手に入れたのですが、戦場ヶ原の言った九段九鬼子と峠弥勒というのが出てこない。それで二人の名前を検索するとどうやら同じ作者の学校怪談というマンガの登場人物らしいと判明し、そちらも手をつけることになりました。戦場ヶ原にはちゃんと学校怪談のことも言及しておいてほしかったです。

学校怪談を読んでいても最初の5巻分は二人ともでてこず、6巻からようやく九段九鬼子が登場します。峠弥勒は7巻から。なお弥勒というのは誤植で、正しくは美勒です。電子書籍のあらすじ紹介でもほぼ全部弥勒になっていたのでよくある間違いっぽいです。まあ普通に考えて弥勒菩薩の弥勒が浮かぶし、トラップめいた名前ではあると思います。

それらを読んでわかったのは、夢幻魔実也と九段九鬼子は主人公、ヒーローサイドの人間であることと、峠美勒は九段九鬼子が思春期に寂しさから生み出したイマジナリーフレンド的存在であること。

先の戦場ヶ原の台詞で、峠美勒の名前が出てきたのは、自分の重さをなくして母親への思いを断ち切った蟹を、九段先生の辛い記憶を押し付けるために生まれた峠美勒に喩えてのことだったんじゃないかと、ぼくは考えています。せっかく元ネタを苦労して追いかけたのだからなにか意味がないともったいないという貧乏性的発想でもあります。

羽川翼と立石双葉の類似点

学校怪談には立石双葉という女の子がいます。九段先生登場後に主人公格から準主役に格下げになる山岸涼一くんの、友達以上恋人未満な子で、まあヒロインといっていいキャラです。真面目で規律に厳しく、髪の毛もきっちりしていて、眼鏡をかけています。

羽川翼も三つ編みで眼鏡、委員長と、似通ったキャラ造形です。とはいえこういったキャラは割りかし存在するのでこのままだと単なるこじつけですが、一番の共通項は家庭内に不和が生じているということです。

立石双葉の両親は離婚の危機にあり、喧嘩ばかりしているので家に帰らず公園で時間を潰していて化物に襲われる、というエピソードがありました。ここで両親は仲直りすると約束しますが結局果たせず、双葉は繰り返し両親の狭間で苦悩することになります。

羽川翼も同様に、いやそれ以上に複雑な家庭の事情で苦しみ、義理の父親からの虐待にあったりもします。

西尾先生は少女マンガ好きなのでそういったところからの影響も多分にあるとは思いますが、第一話であるひたぎクラブで学校怪談の登場人物のことが言及されている以上、そこから要素を取り込んだ可能性は高いと考えます。

忍野扇と峠美勒の類似点

峠美勒は先ほど述べたように、九段九鬼子の生み出した怪異です。

自分のことを忘れてしまった九段先生に対する復讐として、彼女のクラスの生徒たちを次々と狙い始めます。この時の姿が、男子だったり女子だったりと、相手によって性別を自在に変化させてます。美勒と関わった生徒たちは、知らないはずの彼女(彼)と話をしているうちに知り合いだと思うようになり、促されるまま危険な状況へと追いやられていきます。毎回間一髪のところで助かりますが。

ぼくは物語シリーズを追いかけていて、忍野扇が出てきてから数巻過ぎたあたりで、この子は峠美勒に似ているな、と思うようになりました。

なにせやっていることがだいぶ似通っています。性別を変えて相手に近づき、相手の自分に対する認識もねじ曲げてしまう。自分自身では手を下さず、それとなく誘導して不幸な目にあわせようと画策する。

記述で似せてる面もありますけど、存在として近いものであることは確かです。

一つ違うのは美勒が復讐のためという純粋な怒りのみで動いていたのに対して、扇は世界の間違いを正す管理者のような理念で行動していた点です。

戦場ヶ原が言っていたように、峠美勒はこの奇妙な世界に存在していました。名前を忍野扇と変えて。そしてその生みの親である阿良々木暦は、戦場ヶ原にとっての九段九鬼子だったんだと、ぼくはそう思いました。

あとがき

上記のことはすべてぼくの単なる仮説で、西尾先生がこれらのことになにか言及したということはないです。もし「西尾先生が仮説とは異なる話をしてたよ」というソースがあったら教えてくれるとありがたいです。即行で訂正します。

拙文によるお目汚し失礼いたしました。

終わります。



この記事が参加している募集

#マンガ感想文

20,479件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?