『父の電話』

真夜中にスマホが鳴った。
父からだった。
電話に出ると、砂嵐のようなノイズが聞こえるだけで、”もしもし”と私が言っても、父は言葉を返さなかった。

「・・・・・・お父さん、どうしたの」

控えめな声で尋ねてみる。
すると電話の向こうから、突如迫ってくる車のクラクション音が聞こえる。
その音はあまりに大きく、私は思わずスマホを耳から遠ざける。
そして、訪れた静寂の中で、

すまん

ただその一言。
消え入るような声が聞こえ、電話はそこで切れた。

これで何度目だろうか。

私は静かに顔を上げる。
そこには顔と体に白い布を被せられた父が寝かされている。
殺風景な畳部屋の隅には、ズタボロになった父のバッグと同じく父のスマホがポツリと置かれている。

父のスマホは壊れていた。
液晶は蜘蛛の巣のように割れ、背面は部品が見えるほど損傷して電源すらつかなかった。

それなのに、私のスマホには何度も父から電話がかかってきている。

電話の向こうから聞こえたあの声は、確かに父の声だった。

目の前にいる父に、
何故そんなことをするのか、
と尋ねても、父は当然何も答えない。

そして、それは葬儀を終えてからも毎日のように続いた。
例え電話に出たとしても、父と言葉を交わすことはない。
不快な騒音と一方的な短い謝罪を聞かされるだけだった。

しかし、それも49日を最後にピタりと止んだ。

きっと成仏したのだろう。

私はそう思うことにしている。

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