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夕焼け

帰りのチャイムが鳴って、クラスメイトが帰っていく。
私は日直だったこともあり、いつも一緒に帰っている友人には先に帰ってもらった。
日誌が書き終えた頃、すでに教室に残っているのは私だけ。
窓の向こうは、綺麗な黄金色に染まっていた。
そろそろ帰らないと。
鞄を背負い、日誌を職員室に届けたあと、玄関に向かった。
向かいの体育館からは部活動の足音や掛け声が聞こえていたが、生徒の姿はまるでなかった。

学校を出てひとつ角を曲がると、そこは駅まで続く真っ直ぐな道。
片側は住宅が並び、片側はフェンスがある。
その向こうには、駅から伸びたいくつもの線路が並びあっている。
生徒達はみんなこの道を歩いて駅に向かう。
多少帰る時間が遅くなっても、誰かしらこの道を歩いている。
なのに、今日は誰もいない。生徒はおろか通行人すらも。
長い直線の道に、私は取り残されたかのように一人きり。

空は鮮やかな黄金色に染まっているのに、私の心は美しさを感じるよりも孤独と不安の方が強く感じてきて自然と足早になった。
 

駅までもう半分というところで、前方に歩道橋が見えてきた。
それは線路の反対側に渡る大きな歩道橋。
そこに男性が一人、手すりに凭れながら空を見上げていた。
歩道橋に人がいるのは珍しかったが、きっと夕日を見ているのだろうと、私は特に気にすることはなかった。
けれど、歩道橋を通り過ぎようとした時、大きな叫び声がした。
声のする方を見ると、歩道橋にいた男性が欄干の上から叫び声をあげて線路に飛び降りた。

ズシャ

砂利の上に落ちた音の後、男性が落ちた場所を猛スピードで電車が通り過ぎた。
それを見てしまった私は血の気が引き、駅に向かって走って逃げた。
私の体は恐怖で震えていたが、駅に着くとたくさんの人がいて少し安心した。

駅は人身事故が起きて、騒がしくなっていると思った。
けれど、駅の電光掲示板に変わりはなく、駅員は何事もなく業務をこなしていた。
ホームにやってきた電車は、乗客を乗せて通常通りに出発をした。

私はホームで困惑していた。
黄金色だった空は、薄暗くなっていた。
そして、私はあることを思い出した。
あんなところに男性がいるはずがない、と。
何故なら、線路にかかったあの歩道橋は一年ほど前に老朽化を理由に取り壊され、今は存在しないのだから。

ただ、あの夕焼けの中で見た歩道橋も男性も、私にはとってはとてもリアルだった。

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