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太宰治「川端康成へ」を→短歌に翻訳して→短歌だけ読んで戯曲に逆翻訳したらこうなる◎小説→短歌→戯曲をつくるバックトランスレーション 「ハヤブサ」

ハヤブサの遊び方

① ものずきがふたりあつまる
② 好きな小説をえらび小説→短歌に翻訳
③「元の小説がなにか」を知らせずに交換する
④ お互いの短歌だけをよんで短歌→戯曲に逆翻訳(バックトランスレーション)
⑤ ④の完成小説と②でえらんだ小説タイトル(翻訳元ネタ)を発表し合う。
⑥ 相違点をたのしむ

さっそくハヤブサで遊んでみる

① あつまったものずき: みやり と 立夏

② 太宰治「川端康成へ」を→短歌に翻訳(小説選・短歌作:立夏)※「川端康成へ」未読の方は先に目を通していただいてから続きを読んでいただくことをお勧めします。(→青空文庫:太宰治「川端康成へ」
※ 読んでなくても、大丈夫です。

太宰治「川端康成へ」を立夏が短歌にしたもの

店頭で読むあなたからの悪口/刺す。/なに、間抜け、好きなくせにさ
てんとうでよむあなたからのわるぐち/さす。/なに、まぬけ、すきなくせにさ

③「元の小説がなにか」を知らせずに交換する

④ お互いの短歌だけをよんで短歌→戯曲に逆翻訳(バックトランスレーション)(作:みやり)

ここで、ハヤブサ追加ルールの発表!

今回のハヤブサには以下の追加ルールを設定してみました。
これを先ほどの短歌にあてはめると……

1. 翻訳短歌を書くとき、原作小説タイトルの名詞を使わないこと
→ 川端康成は使っていないのでOK

2. 翻訳短歌を書くときに使用する名詞は、原作小説内の名詞だけを使うこと
→ 店頭、あなた、悪口、間抜けはすべて原作にあるのでOK

3. 逆翻訳戯曲を書くときに使用する名詞は、翻訳短歌内の名詞を使わないこと
→ 逆翻訳戯曲では 店頭、あなた、悪口、間抜け使用禁止
※また、逆翻訳戯曲作者は戯曲作成時点で原作が「川端康成へ」であることは知らない状態です。

短歌をもらった時点のみやりの分析

みやり:
まず「刺す。」と/(スラッシュ)に目がいく。
刺すの後の。に何かの意図を感じる。三部構成?
この区切り自体に前半部と後半部の刺し刺されがある可能性もある。「/」と「刺す」という二つから文章全体を記号として捉えたときに硬質な印象。
 少なくとも悪口を言う「あなた」と言われた方の二人の人物が浮かび上がる。最後の 間抜け という悪口が「あなた」が残したものなのか、言われた方の論なのか、別の人物か(それはなさそう)
物語全体で浮かぶ色は暗い青。曇天の重い雨みたいな青さ。悪口をやりあう中なのに、冒頭の店頭のという名詞が関係性における何かを導いているように感じる
 例えば昔の友人、恋人を店頭や街頭のテレビジョンで目撃するような距離感に似た何か。 
 複雑なのに自由で良い短歌だなと思う反面これで戯曲を書くかと思うと難しく早くも憂鬱。

それでは実際の逆翻訳を見てみましょう。

ハヤブサで逆翻訳された太宰治「川端康成へ」

男  
RTX:人型ルーター   

RTXが大量の絡みついた長いLANケーブルに足を取られもがいている

男 「どこだ、どこにいった」
RTX「まずい」

もがくRTXに男が近づいてくる

RTX「ああ、畜生!このLANが!ちゃんとメートル見て買わないから!この十メートル」
男   「大丈夫か!岩井俊二!」
RTX 「来ないで!あとネットワーク名に岩井俊二ってつけないで!わたしの機種名はRTXだから。好きなものは秘めて」
男 「話を聞いてくれRTX」
RTX 「何、ファームウェアのアップデートもしないのに」
男 「わかった。するから……いまするから……」

男、USBメモリを取り出しRTXへにじり寄る

RTX 「もう遅い!頭痛がひどい!あんたの家の通信量……最近アッ痛」
男 「どうした」
RTX 「ああ、また、ママさんが……アメブロ更新している。改行が多い!!離婚カテゴリ四位!#家庭裁判所!からのハンドクリーム」
男 「やめろ!みんなが聞いてるかもだろ」



RTX 「みんなが聞いてんだよ!」
男  「わかった、わかったから、これをいますぐ差し込んで、すぐよくなる」
RTX 「何それ」
男 「人型ルーターRTX-57577(ごーしちごーしちしち)の最新ファーム」
RTX「型番はやめて!短歌じゃんみたいな嫌がらせを思い出すから。全然短歌だから」
男 「落ち着いて」
RTX 「もうずっとね、家でね、いやなの。世界が狭いの。あの家だけ。偏ったものばかり。ライブ帰りにサブスクで同じ曲ばかり流さないで。何回もホムセンの行き方調べないで。思い出はキャッシュして。わたしだって、本当は下北沢に行って一番好きな曲が変わったりしたいのに」

男、携帯端末を取り出して何かを確認している

RTX「なにしてんの」
男「一番好きな曲が秘密の質問の答えか」
RTX 「秘密の質問じゃねぇよ!なんか変更する時だよ必要になんのは。それは今じゃねぇよ。アプリを落とせ……(唐突に)100%フリーポルノ GET ACCESS NOW! やめろ!いますぐさっきまで開いてたブラウザのポルノを閉じろ!なんで寄り道した?落とせばいいだけだろ!」
男 「(威厳を持って)我が家はなおまえもいれて家族だぞ欠けてはならぬ四人家族だ」
RTX 「現実を認識する能力が欠けてんだよ」
二人「(気づいて)57577!」
RTX「何が我が家はな、だよ!この池袋北口!」
男「やめろ!検索履歴は消したはずだ!機械ならルールは守れ」
RTX 「うるさい!あっ…痛いッああっユキちゃんが……」
男  「ユキ……おい、ユキってまさか」
RTX 「そうだよ、あんたの娘のユキちゃんが」
RTX「(雰囲気を変えて)メダカがね、最初三匹。新しい水槽。慣れないで不安そうに皆泳ぎ回って。水草がポンプの水流で揺れて。食べ残した餌が地面にふわっと着いた頃それでそのうち一番大きいのが小さいのをいじめるの。追いかけ回して、尾ひれに、執拗に。そのうち一番小さいのはろくにご飯も食べれなくなって、暗い隅っこで落ちてきたものをまるでそれをいま思い出したかのように食べるの」
男 「やめろ!娘のポエトリーを流すな」
RTX 「あんたの娘が流してんだよ!止めんのはお前だ。養育費の相場は5万だ!」
男  「わかってるよ!くそ!そうだ、どうせうちはもう終わりだよ。全部知ってんだろ、みてたんだから。せいせいするよ、嘘ばっか!子供は俺みたいにはなりたくないって。ログ洗ったからさ。現実だよ。やり直しは幻想だよ、一度失敗したら終わり!畜生!いいんだ!それでも、家族は家族だろ!お前も家族だ!」

男、RTXへ飛びかかる

男「直してやる!パパが直してやるからな!」

男、RTXに絡みついたLANケーブルを引き摺り出す。

RTX「ああ!これ、大腸みたいに!大、大腸みたいに!びろんと伸びて鳥葬みたいに!」
男 「すぐだから!感謝だから!」
RTX「やめて!家族じゃないの?間に合うって!ママさんが送った間男への連絡も今キューに入れて止めてるし!ユキちゃんのコンサータ取引DMも止めてるし!あんたの離婚にディレイかけれるし!エフェクト離婚しよ?……あ!」
男 「えっ」
RTX「転んだ時にライブ配信機能がONになってた」
男 「それってつまり」

RTX 目を指差して

RTX 「みんながみてる」

男 「早く消せ!」

暗転。舞台に文字が映し出される
人型ルーターを非難する音声が流れる

「男の映像はSNSを通じて大きく広まった。騒動の末、男は仕事を変えた」
「人型ブロードバンドルーターRTX-57577はゼロデイ脆弱性が見つかり、その全てがリコール対象となった」
「男の妻子は、家を出て行った」
「繋いだことのあるWiFiに自動接続します」

灯りが戻ってゆくなか男の姿が浮かび上がる。屋台にてLANケーブルを売っている
音声は屋台にあるラジオから流れているようだ
RTXは遠巻きに様子を見ている

男「(赤いLANケーブルを同梱した同期を渡し)はい、紅生姜多め。五十円のおかえし。ありがとうございました!またおねがいします!」

男、一息つき携帯端末を取り出す
帽子を深く被ったRTXが屋台に近づく。

RTX「すみません、テイクアウトで四つ。トッピングで10G(テンジー)つけて」
男「あ、ありがとうございます!」

男、LANケーブルを容器に詰める

RTX「あと領収書ください。HTTPSM倶楽部」
男「はい!えっ、大丈夫ですか」
RTX「好きでしょ」

RTX、帽子を取る

男「えっ……(携帯端末を見て)まさか、パスワード変えてないのか」
RTX 「(笑って)直前まで開いてたサイトは閉じろ!」
男「……まいったな……ひさしぶりだな。元気にしていたか」
RTX「まぁ、そこそこ」
男「そうか。うん」

男、LANケーブルの詰まった容器をわたす

RTX「ありがとう、一つはわたしのお昼ごはんなんだ。ここで食べてもいい?」
男 「ああ」

LANケーブルを食らうRTX。人型ルーターを非難する内容に気付きラジオを止める男。

RTX「あっおいしい!このカリッとした部分(コネクタ部)!パパさん意外!……ねぇ、あのさ」
男「なんだ」
RTX「秘密の質問。本当にいちばん好きなものは?」

男が答えようとした瞬間、暗転

ハヤブサ感想戦(⑥ 相違点をたのしむ)

まずはみやりの感想

 ご覧いただきありがとうございました。戯曲は書き終わる時最後にいつも「終」って書く時が一番のクライマックスですね。これだけ書いていたいです。おわ!って呼んで欲しいです。OWA!正式名称は知りません。
 いただいた短歌からラブ&ポップを予想していたのですが蓋を開けてみるとおじさんとおじさんで困りました。わたしは太宰治にラブ&ポップを感じていたのでしょうか。
 この戯曲を書き終えたころ、自信がなく、とある友人に感想をいただけないかと打診しました。友人は「いいよ、いいよ。まかせろ」と快諾してくれました。ありがとうと戯曲をお送りしました。もう春です。まだ読んでないそうです。刺す。そうも思った。嘘です。でもどこからが。
 感想戦、お楽しみください。

みやりと立夏の感想戦

「川端康成へ」でしたーっ。

みやり「あああーそうかあああ。あのちょっと仲良いかどうなのかつかず離れずの距離感の違和感はこれだったのかー!!」
立夏「あえて演劇的な作品を選んでみました。このまま一人芝居でも行けるんだよね、この作品。」
みやり「わたしは最初から最後までわからない通しでした。ただ、主たる登場人物は二人、その二人の関係性は『刺す。』というところから普通ではないのでは読み解けたのですが、恋人、家族、友情のどれもしっくり来なくて。ただ、この二人の関係はなんだかんだ言って第三者から見ると良い感じなんだろうなぁというのがとっかかりでした。最初はなんらかの施設を脱走する二人組で、片方が政治家になってラーメン屋のテレビジョンでもう一人がその演説を見る的な始まりにしていたのですが、『刺す。』が違うよなぁーと。刺すほどの深い関係性なのに、恋人や家族レベルの繋がりがない……(これはまさに太宰×川端でしょうか)のあたりがどうにも突破できずに、機械を出してみました。そしたらまあ、お互い色々すれ違ってでもなんだかんだ好きなんだろう? という雰囲気が出たので行ってみました。」
立夏「なるほどね、なんだかんだいい感じ、を掴んでくれたのはとても嬉しいです。今回はエッセイを選んだので、ストーリー的なものがあまりなかったんだよね。みやりさんがとっかかりを掴みづらかったのはそのせいかも。ストーリーはなくて、関係性ありきだった。」

出せるのかダザイズム!

立夏「(短歌は)なんか太宰っぽさあるよねって感じになったところがお気に入りです。」
みやり「こう、ちょっとニヒルな」。
立夏「そう、太宰は色んな人から悪口を言われているんだけど、いつもその返しが割と、でもなんだかんだいって君は僕のことが好きなんだろう、って返すんだよね。そのニヒルさ、倒錯的ナルシシズムが出せたかなと思います。」
みやり「三島由紀夫とのやり取り的な。ちょっと女性らしさもあって、そこがまた難しかったのですが太宰とわかるとなるほど、とおもいました。」
立夏「前回オツベルと象の短歌で、短歌に自分の解釈を載せすぎて作品そのものの表現になっていなかったなと反省がありまして。」

立夏「だから今回のテーマは原作に書かれていることをとにかく素直に、そのまま書く。翻訳者(わたし)の解釈をなにも挟まずに。最初文章にしたんだよね。それをだんだん短くしていった。」

腹膜を悪くした頃に文章の悪口を書かれ、刺そうと思ったが、本当はあなたは私のことを好きなくせに。
二人とも間抜けな道化だな。
それが作家ってもんだ。

みやり「あーいいですね。『作家』落としたのですね。道化、作家あたりがなくなって短歌に変換されると、川端康成へ宛てたおもいみたいな部分のみ抜き出せるのかな」
立夏「作家を落とすと恋愛の話になってしまうかもしれないな、ということはすごく思った。けど、作家を残すと原作の真髄の部分を書ききれないと感じた。悪口を言われたことに対して、作者が相手からの屈折した間抜けな親愛を感じた、ということがこの作品のコアだと思ったから。」
みやり「確かに。落とすの勇気いりますが、おっしゃる通り。」
立夏「うん、あとはハヤブサの裏テーマである、読み手を信じる・だよね。みやりさんならこの短歌で素直に恋愛の話にはしないだろう。作家を落としても、掴んでもらえるだろうと思って。」
みやり「(原作は)個人的に川端康成は太宰治のこと実はけっこう好きだよ読み と いやいや太宰治なに言ってんの思い違いだ読み がありますね。」
立夏「川端は太宰のことは結構好きだったと思ったけど、でも批判した作品は(川端にとって)普通に駄目だったんじゃない? と思っている。というか、批評に好きとかきらいとか関係ないよね、というのが前提なのでそういう意味では太宰何言ってんねんとは思ってる。」
みやり「うける」

短歌の選定もメッセージよ

みやり「『川端康成へ』を原作小説として選んだ理由があれば知りたいです。」
立夏「今それを書きたくて前のハヤブサを見返してるんだよね。ちょっと待って」
みやり「CRパチンコ太宰治のなかでも川端康成リーチはかなり激アツですよ」
立夏「なんだそれ。」
みやり「いやすみません場繋ぎの適当なものです。つづきおねがいします。」
立夏「ほんとにあんのかとおもって調べちゃったよ! そうそう、ここだ。」

引会話や時間の流れがさりげなくて、文章からお互いが何を考えているかが台詞にも書き込んであって、不思議な感じでした。昔の話なんだけど、手触りが今っぽい。あとこれはもう純粋に、みやりさんという作家が人の心の機敏そのものを直接描写することにすごい関心があるんだろうなっていうのを改めて痛感したよね。ヘンな意味じゃなくて、設定とか最終的にどうでもいいんだろうなって笑

立夏「これは前回ハヤブサで書いたことで、私は作家みやりに対してそういう感想を持っていて。だから、その本領が発揮されるような作品を選ぼうと思ったんだよね。」
みやり「なるほど。」
立夏「みやりさんの小説は元々台詞の掛け合いが多いから、会話劇との親和性は高いと思うよ。現代っぽくて、今生きている人たちの心の機微みたいなものが軽妙な会話の中に隠されていて、いいです。その良さとの共通点がある作品を探していたら今回の作品に出会った。この作品だと『刺す。』のセンテンスは知っていたんだけど、中身は初見でして。今回のハヤブサのために読んで、短歌にしました。そういえばエッセイは今まで選ばれたことがなかったなと思ったことも選定きっかけのひとつだったように思う。うん、なんか、似合いそうだなあって。なんかすごくみやりさんが言ってそうだなあとか思って。原作の内容も。」
みやり「そんな。うれしい。」

太宰ルーター?

立夏「(逆翻訳戯曲は)終わり方がおしゃれだよなあ。秘密の質問っていうね。短歌も戯曲もコアがこじれた関係性だったので、逆翻訳としてすごく真っ直ぐ筋が通ったよね。」
みやり「どっちが太宰なんでしょうね。なんか太宰はルーターっぽいな。太宰ルーター。すぐ壊れそう。」
立夏「ITにリリカルさというか、文学的情緒を投影したい欲求はすごく分かる。ただね、わたしすこし気になることと言うか、聞いてみたいことがあったんだよね。そこにつっこんでもいいかい?」
みやり「はい」
立夏「やっぱりITのことなんだよね。青空文庫から原作選定をするという前提で、原作にITの要素がないことは短歌の内容関わらず明らかじゃない? 私だったら、わたしなら、だよ? 多分、絶対に原作に存在し得ないモチーフは多分選定しないんだよね。のあたりって、みやりさんはどう感じる? 多分私と違う考えを持っていそうだったから詳しく聞きたい!」
みやり「そうですね。まず最初に思ったのが、これはたぶん物語を再現するのは無理だろう、というところですね。」
立夏「うんうん。」
みやり「なので、短歌から感じる関係性をそのまま出そうと。ちょっとさっきの話にも繋がるのかな、と思ったのですが、作家、という文字を落としたことで、ストーリーや背景よりも、関係性というのがわたしの読みに出たのかなと。」
立夏「なるほどね! どんな思考回路を持ってヒト型ルーターというキャラクターに至ったのか、というところに興味があって知りたかったんだ。
私とはぜんぜん違う着地の仕方だったから。それにしてもヒト型ルーターはいいよね。なんでヒト型なんだろうとかさ、もう全然バリューがなさそうなのになんでこんな製品が生み出されたんだろう? って。無駄がすごくて笑。でもかわいいんだろうな。あと、衣装さんすごい大変だろうなとか思った。」
みやり「謝っておきます。衣装さんすみませんでした。」

一人芝居という勇気

みやり「色々ご案内いただいた後で思ったのは、一人芝居を恐れないで挑戦すれば良かったですねわたしのこれ。」
立夏「ハハーン。一人芝居は、つまり、おそろしいですか?」
みやり「そうですね。観劇もした事ないかも知れません一人芝居。」
立夏「もうちょっと突っ込んで聞きたいかも。どうして?」
みやり「(一人芝居がいいと感じた理由は)これ短歌に出てくる要素、大体ヒト型ルーターが受け持ってるんですよね。ラジオですが悪口を言われてるのもルーターだし。好きなくせにさって言ってるのもルーター。なので、主軸をルーターのほうに置けるので、そうすればその分より深くエッセイらしさというか、踏み込めたなと、(二千五百文字制限だったので)構成的に余裕が。」
立夏「ふむふむ。」
みやり「何故二人にしたのかは一人が怖いってのもあるのですが やはり刺す。の影響が大きかったのかも知れません。『刺す。』のあとに 好きなくせにさ って続いているので、刺してない また 刺したとしても関係は良好 とも思いまして。刺すレベルの人が出てこないのは無いだろう、と。でも刺される側の情報も出てこないんですよね。この悩みあたりも 男 という人物を出したのに繋がってそう。ただ、一人芝居に挑戦していれば、やはり目の前にはいないので、遠い存在 その悪口 そして それに対して 刺す、好きなくせに、という内面のねじれみたいのにフォーカス出来たかな。一人芝居の恐ろしさはなんでしょうね。わたしは戯曲において、台詞無しで他者を確立させる方法がわからないからかな。」
立夏「面白いです。」
みやり「(自分の書き物のなかに)身体的な要素が欠けてるのかもしれません。怖いからやたら喋る。タラレバですが、ヒト型ルーターの家出みたいな展開の方が、もっとこう好意や気持ちのぶれ方、気持ちの大きさなどがもう少し補正されていった気がしますね。」
立夏「みやりさんが自分自身に対して感じたことなので否定感はまったくないです。ただ、シンプルに、直近で自分が書いたものに対してそこまで分析できることがすなおにすごいと思って、そして面白いです。」
立夏「戯曲=会話で成立するもの。という感覚が強いとひとり芝居という選択は選びづらいのかもしれないね。」

観客と読者。二層の読者。

立夏「戯曲は書いててどうだった? たとえばそうだな……、小説を書いているときと戯曲を書いているときって、なにか違いとかあったりする?」
みやり「(上演の際、最初の読者となるであろう)俳優の方は今回書かれた作品を、台詞を覚えたりとかして深く読み込まれると思うのですが、それはどんな読書体験になるのかしらとは考えていた気がします。さらに言えば今回はフォーマットが小説、短歌、戯曲とコンバートされてお届けするわけで。」
立夏「そうだね、脚本家かが書いた意図とは違う別の視点や解釈がそこには生まれるからね。その俳優の表現を挟んで、観客(小説で言う本質的な読者)のもとに届くわけだから。さらに演出家の解釈もあるからね。」
みやり「なんかその辺の感覚みたいなものが知りたいというか面白いかなと思ったのが(ハヤブサ戯曲版の)初期の衝動な気がします。」
立夏「解釈や構成の面の多さで言えば、小説より演劇のほうが多面的ではあるんだよね。それは単純に製作作業に関わっている人の多さやセクション分けの細かさの違いなんだけど。小説だってその分割はやろうと思えばできると思うけど、現状製作者としてフロントに立つのは小説はだいたい個人だもんね。書いてみて、それはどんな感覚だった?」
みやり「読者を信じるというワードが前回の第二回ハヤブサで生まれましたが、今回は読者を二層で信じる必要があるなと思いました。第一層が俳優の方々。第二層がお芝居を見る?観客の方々ですかね。」
立夏「俳優という共同制作者としての読者と、本来読者の観客。そうだね。しかも観客は観劇という体験においては脚本そのものを読むわけではないからね。あとで物販で脚本を入手して読むことはあるにしても。」
みやり「信じ方がやっぱり違うなあと」
立夏「私はむしろ小説のほうが描きなれてない+芝居の本は十年以上書いているんだしなんとかなるだろ、という認知で書き始めたんだけどマーこれが大変でね。稽古場で補足説明をすることができない、あくまで戯曲として、文字情報だけでこの作品の骨子やムードを伝えなければならないということがこんなにこれまで書いてきたノリを駆使できなくさせるとは思っていませんでした。具体的にはめっちゃト書きが増えた。演劇の戯曲なのは大前提なんだけど、しかしあくまでnoteで活字として読まれるものとしての戯曲である。」
みやり「なんらかの形で上演されると演者を通すことで元データは変換また圧縮されてエンドユーザーに届くので、その辺のプロトコルは一通で滞りなく太すぎ細すぎず……、出力の加減ですかね。小説はその辺まぁ、生データ渡すみたいな。gzip圧縮してないみたいな。感覚でしゃべってますね。わたし。すみません。衣装さんすみませんでした。」

「原作小説選/短歌作」と「バックトランスレーション戯曲作」の役割を入れ替えたバージョン立夏さんのnoteに掲載されています。そちらもよろしければ併せてご覧ください。


短歌と掌編小説と俳句を書く