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2024年6月どうする?福島第一 備忘録。

前置き

2024年6月、福島第一原子力発電所を見学してきた。
昔、こんな記事を書いたけれど、あれから3年が経った。

前回は自分の中で「原発いる?いらない?」問題を考えるために書いたが(結論は「原発は手に追えないので、いらない」)、今回は「福島第一をどうする?」問題を考えてみたい。

福島第一原発の廃炉目標は2051年。
原発事故発生から13年が経ち、あと27年(2024年時点)。
廃炉は一体どこまで進んだのか?今何をしているのか?

福島第一原子力発電事故とは何だったか。


福島第一原子力発電所各号機の状況

福島第一には原子炉が6基ある。2011年3月11日震災当時、稼働中だったのは1〜3号機、4〜6号機は定期検査のため停止中だった。

東北大震災の津波で電源を喪失したのは1〜4号機。稼働中だった1〜3号機の事故は過酷で、電源を喪失し、冷やし続けることができなくなり、燃料温度は上昇、燃料が溶出し、容器の損傷に至る。廃炉に向けて険しい道のりが待っているのは、目下1〜3号機である。

福島第一原子力発電所 1号機から4号機の現状

1〜3号機には、高温となった核燃料が溶け、周辺の金属材料などと一緒に冷えて固まった「燃料デブリ」が880トンあると言われる。(同じく原発事故で燃料デブリを発生させたアメリカのスリーマイル島原発事故での燃料デブリは130トン)

2024年6月時点で、福島第一の燃料デブリはどれくらい取り出せのかというと、耳かきいっぱい分程度。ほぼゼロだ。元の計画では2021年から着手予定だったが、2024年10月からに後ろ倒しになっている。

廃炉に向けた本丸は燃料デブリの取出しだが、廃炉に向けた課題は他にも3つある。

  1. 汚染水対策

  2. 使用済み燃料取出し

  3. 廃棄物対策

字面からして面白くなさそうなのだが、大事なことなので考えてみたい。

廃炉に向けた課題

  1. 汚染水対策

私は今でも燃料デブリは非常に高温で、冷まし続けなければならず、注水を続けているのかと思っていたが、そうではなかった。試験的に注水を数日程度停止し、水温温度がどれくらい上昇(max 60〜65度)するか実験を行う程度にはコントロールされているという印象を受けた。

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2022/03/3-5-3.pdf

しかし燃料デブリはそれなりに熱量があるため、注水をやめれば温度は次第に上昇し、水位が低下する。燃料デブリが水面から露出すれば、大気中に放射性物質がダストとなって舞い上がる可能性がある。だから、注水を続けている、がより適切な現状認識。

で、その注水は、循環させ繰返し使用しているのだから、汚染水は増えなさそうだが、増加し続けているという。なぜだ?

それは、「地下水」や「雨水」が、絶えず原子炉に流入してしまうからだ。
その量、2024年3月時点で約70m3/日(一般的な家庭のお風呂に換算すると約350杯分)。水が流入してこないように、色々と対策を講じてきた結果が現在の数値で、対策前は流入してくる水の量はもっと多かった。(約540m3/日で現在の8倍)その結果どうなったかというと、福島第一原発には汚染水や、処理水を貯めるタンクがどんどん貯まり、敷地を埋め尽くすようになった。

2011年3月(震災前)の福島第一
2024年5月の福島第一
経済産業省・資源エネルギー庁

水を貯めるタンクは1,000基ある。現在既に90%以上のタンクを使用しており、容量ギリギリ。なので「科学的には人体・環境に影響がないレベルまで処理したんで、海に流します」というのが、今話題の「処理水海洋放出」だ。2024年6月28日に第7回目の放出が行われた。

素人ながら、海洋放出に対する反発が根強いなら「水を貯めるタンク増設すれば?」と思ってしまうのだが、国や東電は「これ以上タンク増設の余地はない。」という。その理由は、「これから廃炉に向けて敷地が必要になってくるので、タンクなど追加で置く場所はない!」という主張だ。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100522271.pdf

「じゃあ敷地を増やすか、タンクを一時的に敷地の外に出すのは?」と思ったのだが、推測するに(ネットで記事を探したけどドンピシャの回答がなかった)、福島第一の境界線内は、放射能汚染を受ける土地なのだ。だから、その境界線を拡張するのは、許されないんだと思う。地元の反対も強いだろう。同様に、福島第一の境界線内で出た放射線ゴミは、たとえ一時的にでも、その外に出すことは、許されざることなんだと思う。だから、増え続けるゴミを、境界線内に置いておかないといけない。だけど、もう置く場所が無い。そういう状況なのかと。

2. 使用済み燃料取出し

事故発生時、使用済燃料プールには、使用済燃料等が貯蔵されていた。これも原発事故の時から残されたままだったが、3・4号機は取出が完了した。残すは1号機と2号機。

福島第一原子力発電所 1号機から4号機の現状

プールに入ってるんだし、すぐに取り出せるんじゃないの?と思ったら、そう簡単な話ではなかった。水素爆発を起こした建屋は、ガレキを撤去するところから始めなければならなかったからだ。

事故直後(2011年3月15日)の3号機

(こんな水素爆発起こして、使用済燃料はよくプールに収まってくれてたな・・・)


2024年6月6日撮影。3号機

3号機のガレキは撤去され、放射線量を拡散させないための覆屋根が建設された。そうしてやっと、使用済み燃料が安全に取り出せたのだ。

これから使用済み燃料を取り出す1号機は、まだガレキの撤去が完了していない(左半分は終わったように見える)。今後は、3号機と同じように建屋全体を覆う大型カバーを設置し、大型カバーの中で、ガレキ撤去を完了させる。使用済み燃料の取り出しは、それからだ。

2024年6月6日撮影。1号機
2024年6月6日撮影。1号機

水素爆発を起こしていない2号機は、使用済み燃料を安全に取り出すための燃料取り出し用構台(構台・前室)の建設が進んでいる。燃料取出しは2024年中にはじまり、2026年ごろを目標に完了させる計画だ。

2024年6月6日撮影。2号機

プールに入っている使用済み燃料ですら、これだけ大変なのだ。いわんや燃料デブリをや・・・。

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/pooltoridashi.html

3. 廃棄物対策

増え続けるゴミも問題だ。上記で触れたガレキや、汚染水処理のフィルター、作業員の防護服など、ゴミは増え続ける一方だが、先に述べた通り、福島第一で出た放射線ゴミは、境界内で処理し、保管するしかない。しかし、福島第一は既にギュウギュウだ。

2024年5月の福島第一。敷地内はほとんど余裕がない。

赤い線が福島第一の敷地境界線。廃棄物はコンテナなど容器に入れられて、敷地内のそこかしこに置かれている。

廃棄物保管状況

そこで、容量をギュッと減らして、グッと固めて、集約して保管するための廃棄物関連施設を境界内に新しく作らせてください!という計画が進行中だ。

今後建設を予定している廃棄物関連施設(イメージ)

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/181922.pdf

そのうち地下に超巨大保管施設を作るんじゃなかろうか・・・。

4. 燃料デブリ取出し
1号機〜3号機に合計880トンもの燃料デブリが存在する推定されている。
燃料デブリの取出しは、水素爆発を免れた2号機から取り掛かる計画だ。
当初予定では2021年中に着手する予定だった。ところが「思ってたんと色々状況が違う!」ということで、作業が難航。ロボットアームなど採取装置の開発にも手間取り、先送りが続いた。現在は遅くとも「2024年10月ごろを目指す」としている。それでもロボットアームが一度に取り出せる量は数グラムで、耳かきいっぱい分程度だ。はっきり言って、合計880トンもある燃料デブリを取り出す道筋は、事故から13年経った今も、見えていないと言わざるを得ない。

福島第一原発事故処理費用

途方も無い廃炉プロジェクトは多額のお金が掛かる。
その額、なんと23.4兆円。うち16兆円は東電が負担する見通し。

ということは、残りの7兆円は国負担ということになる。
(政府が保有する東電株の売却益を費用に充てるようだが、現時点で目標株価の半分以下だし、そもそも政府の保有株なら国民の資産)

東電負担も電気料金に上乗せされているにすぎないから、結局のところ、負担しているのは国民だ。

23兆円がいまいちピンとこないので、事故発生の2011年から廃炉目標の2051年まで、40年間で日割りするといくらになるのか、 ChatGPTに聞いてみた。

すると、1日あたり約15億7400万円になる。

な、なるほど・・・。急に惜しくなってきた。

燃料デブリって取り出さないとダメ?

880トンもある福島第一の燃料デブリ。事故から13年経ってもなお、近づけてすらいない。なんとか取り出せたとしても、どのみち厳重に収納・保管し、10万年くらい置いておかねばならない。すっごく気持ち悪いの分かるけど、福島第一の燃料デブリ、そのまま置いておくという選択肢はないのだろうか。

海外の原発事故はどうした?

旧ソ連のチェルノブイリ原発は、燃料デブリを中に閉じ込め、シェルターで覆い、長期保管している。そのままにしているのだ。

BBC News Japan 33年後のチェルノブイリ訪問 にぎわう立ち入り禁止区域、消えない不安

アメリカのスリーマイル原発は、事故後14年後に99%の燃料デブリの取出し完了したが、以来26年間は1%の燃料デブリと、原子炉建屋を残して管理貯蔵していた。2019年に廃炉(核燃料を取り出し、原子炉や建屋を解体して放射性廃棄物も処分する。土地を再利用することまでは言及されていない)を決定し、2079年までの廃炉完了を目指している。

スリーマイル原発

一時的にしろ、長期的にしろ、海外の原発事故では「管理保管」というオプションをとってきた。ただ福島第一の場合、燃料デブリをそのまま置いておく限り、豊富な地下水や雨水によって、「汚染水」が増え続ける(=汚染水処理費用も、汚染ゴミも、処理水の海洋放出に伴う賠償金も増え続ける)。
燃料デブリを取り出すか、地下水や雨水の流入を阻止しないと、汚染水は無くならない。

以上を踏まえると、福島第一が辿るメインシナリオは3つあるという理解。

① 燃料デブリを取り出す
② 地下水の流入を阻止し、燃料デブリを管理保管する
③ 地下水の流入を阻止できず、燃料デブリも取り出せないで汚染水対策に取組み続けるか(現状これ)

どれが現実的な落とし所なのだろうか。

廃炉とは何か?

福島第一は上記3つのメインシナリオのうち、どれを目指してるのだっけと整理しようと思ったら、なんと、福島第一の「廃炉」とはどういう状態を目指すのか、具体的な議論がされていないのだという。

これまで使用済み核燃料の取り出しも最大で11年遅れ、燃料デブリの取り出し開始もすでに2年遅れとなっています。しかし、政府と東京電力は2051年というゴールだけは変えようとしていません。福島の人たちに示した約束なので守りたい気持ちはわかりますが、そろそろ燃料デブリをすべて取り出すのか、海外のように一部を取り出して残りを長期保管するのか、「廃炉の最終形」についても考え、そこに向けた技術開発を進めていく時期に来ていると思います。

1からわかる!原発処理水(3)廃炉への道のりは?”最大の難関”デブリとは?

事故発生して間もない頃に設定された福島第一の廃炉目標は、希望や期待を込めて「燃料デブリを取り出して、土地を元通りに戻すこと」と皆がふわっと思っていたのかも。だけど、これまでの道のりを振り返って、そんな簡単な話じゃねえでござんす、ってことはよく分かった。

今一度、この先も完全な廃炉を目指すのか、もしくは長期保管を選ぶのか、その場合のコストはいくらなのか、きちんと比較検討して、廃炉目標をアップデートする必要がある。

だけど、その前に、最終的な廃炉の姿を議論するべき段階まで、福島第一の初期の事故処理に当たってこられた人たちには感謝せずにはいられない。何が正解か分からない中で、目の前のことに取り組んできたと思うからだ。

私たちの責任は、そうやって得られてきた知見・経験と現実を踏まえ、具体的な「廃炉」の姿を描こうと努力することだ。

廃炉する原発は24基

上で終わろうと思ったけど、まだ終われない。
考えるべきは「福島第一」だけではないからだ。
日本にある原子炉54基のうち、24基の廃炉が決まった。

1からわかる!原発処理水(3)廃炉への道のりは?”最大の難関”デブリとは?

しかし廃炉が実現した原発はまだ1つもない。その理由は、

原子炉の解体に着手できないことです。原子炉を解体するには、放射能レベルの高い放射性廃棄物の処分場所や廃棄物を入れる容器が決まっていなければなりませんが、いずれもまだめどが立っていないことから、解体作業に入れないのです。

1からわかる!原発処理水(3)廃炉への道のりは?”最大の難関”デブリとは?

廃炉しようとすれば、ゴミが出る。しかし、そのゴミを誰も引き受けたがらないから、着手できないのだ。

5基の廃炉が決定した福井県は

「発電は引き受けたが、核のごみまでは引き受けていない」とし、使用済み核燃料の県外搬出を求めてきた。

廃炉相次ぐ福井の原発 経済効果への期待「空回り」

誰も核のゴミなど欲しくはないのだ。

考えるほど、なんでこんな厄介な発電に手を出してしまったのかと思わずにはいられない。

でも作っちゃった以上、そして、その恩恵を無自覚にも受けてきてしまった以上、「核のゴミは知らない」では済まないのだ。

次回、福井県の原発について考えてみたい。

参考にしたサイト
東京電力 廃炉プロジェクト
経済産業省 みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと。
復興庁 Fukushima Updates


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