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わたしは狡いから。

ごめんなさい、私はあなたの気持ちに報いることができない。
純粋で鮮やかな色を纏った瞳が、私の身体を隅々まで刺す、刺す。

大きな感情には力がある。私はその強さだけで骨抜きにされてしまいそうになるし、うっかり受け入れてしまいそうになる。しかし、それは決して許されないこと。たった一つしかない私の右側にある枠は、すでに埋まってしまっているのだから。

そのことを知っていながらも。あなたはどれだけの時間、その想いを募らせてきたのだろう。それはどんなに果てしなく、苦しい戦いなのだろう。私とあなたが心を通わせる日はきっと当分訪れない、あるいは決して。それでも焦がれてくれるのは、なぜなのだろう。

情けないことに、その感情に気づいたのはつい最近のことだ。あなたがやたらと私と彼のことを話題にして、そのくせ時折苦々しげな表情を見せること。私のことを真っ先に気にかけてくれること。その他もろもろの材料を並べられて、ようやく悟ることができた。

だけどそれだけだ。私は、あなたに何もしてやれない。


なりふり構わず受け入れることができたら。そう思わずにはいられない。大事な人だからこそ、無下に扱うことなんてできない。ただ凪のように気づかないふりを貫いて、関係が動かないように、これ以上誰も傷つかないように片足立ちを続けている。今度こそ失敗はしたくない。

これまでの経験において、私は幾度となく逃げてきた。最終的に思いの丈をぶつけられてしまうと、いよいよどうすればいいかわからなくなってしまう。そして逃げる。最低なやり方だということを自覚してはいるものの、その想いを受け入れることも拒否することもできない、中途半端な私。

こんな私なんか、やめておけばいいのに。私はあなたが思い焦がれるほどの人じゃない。だってそうでしょう、私は全てをわかっているのに、あなたの手を振りほどくこともしないのだ。それが一番あなたのためになると知っているくせに。狡い女だ。頭を抱えるほどに屑だ。


けれどどうしても考えてしまう。何年にもわたって、あなたは振り返ることがないであろう私をどんな目で見つめてきたのだろう。塩辛い大海原の中、ほんの束の間に差し込む天使の梯子のためだけに生きる。それはどんなに苦くて切ないことか。

もし私が自由の身だったとしたら、両手を広げてあなたを満面の笑みで迎え入れることができたのだろうか。そんな想像をしてしまう私を諦めてほしい。失望してほしい。ろくでもない本当の私を知ってほしくて、だけど知ってほしくない。偽りの夢を見せたままの私は、どこまでも狡い。


誰にも言えない気持ちをどう消化しようか。胸の中にいつまでもわだかまる感情と向き合ううちに、私にはやはり書くことしかないと思った。しかしある程度私のことを知ってくれた人たちに公表するのはいかがなものか、という葛藤もあった。

それでも。こうして書き続けていると、情けなくてどうしようもない私の姿を隠しきることは難しい。この際人が離れていってもいい、むしろ私のような人間からは離れてほしい。受け入れてくれる人だけがここに残れば、それでいい。


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