見出し画像

バイステック牧師様、教えてください。

   空港のラウンジで、スーツケースを持った旅客が、途方に暮れている。彼は、自分がどこに行きたいのか、それには、どの飛行機にどこから乗ればいいのか、わからなくて途方にくれているのだ。
  案内係のわたしは、いつものようにそういう旅客に声をかける。
   すると、彼は、ひとりの個人として迎えられ心細かったという感情を表現し、あるいは、まったく逆に怒り出すという形で感情を表現する。いずれにしても、彼は、案内係であるわたしに受け入れられたいと思っている。頼れる人はほかにいなのだから。わからなくなった自分を非難されたくないし、自分が迷子だと人に知られたくないと思っているのだ。

空港には、世界中の国からいろいろな人がやってくる。しかし、案内係はそのなかで、困っている旅客に気づきそのニーズを感知し、理解してそれらに適切に対応する…だって、それが、仕事だから。

もちろん、旅客のなかには、やっかいな客もいるし、なんだか怪しい客もいる。仕事とはいえ、うんざりすることもある。しかし、自分の感情は統制しつつ対応する。そうすることで、旅客も案内係に対して、少しずつ、態度が変わり始めるのだ。

そして、旅客を無事に飛行機に乗せたところで、案内係の仕事は終わる。旅客の旅の安全を願って終わるのだ。

わたしはこの対応方法を、案内係をケースワーカー、旅客をクライアントと考え、バイステック7原則といわれる「ケースワークにおける援助関係を形成する技法」をもとに作ってきた。でも、この仕事も、もうすぐロボットがやるようになるそうだ。

つまり、いずれ、そう遠くない将来、人が人を援助するのでなく、ロボットが人を援助する時代がくるならば、人は何と信頼関係を結び、どう救われるようになるのだろうか。

この問いに牧師であったバイステックなら、なんと答えるのか聞いてみたい。夕日を背に飛び立つ機体を見つめながらそんなことを考えた。


 

 

最期まで読んでくださってありがとうございます。誰かに読んでもらえるなんて、それだけで嬉しいです。もし、気に入っていただけたら、スキしていただければもちろんもっと嬉しいです。よろしくお願いします。