小説:「金・金・愛」#2

第5話:タバコの味


次の出勤日会社を辞めることを上司に伝え、3ヶ月後に誰にも相談や次の仕事の話もせずに、引き継ぎだけして辞めた。

最終出勤日の朝礼で知った人もいただろう。知らなかったフリをした人もいただろう。
同期にも心の底からは心を開いている訳がなかった。ので言わなかった。
愛想は良くしていたので、当日、何人かは「辞めないで。」と言ってくれたが、笑って誤魔化した。それも本音かわからないし。
「この後の仕事は何をするの?」か聞かれることが多々あった。
この手の質問はいろんな意味を含んでいる。シンプルに気になる人・その内容を聞いてあーだこーだ言いたい人・本当のことを言うのか確かめに来る人・
いろんなパターンがあるが、この話が1番その人が嫌われていたか、好かれていたかが良くわかる。

 自分の前に会社を辞めた上司の時のことを思い出した。誰にも仕事の愚痴を言わない優しい人だったが、辞めた後、悪く言う人はいた。
この時に悪く言われない人なんて居ないものだと悟った。
自分が辞めた後はコールドでボロ負けの欠席裁判だと思った。もう考えるのはやめよう。頭が痛くなるから。


『自分が辞めたことでチャンスをもらう奴がいるのか。』と負けず嫌いの昔の自分は思ってしまったが、そんなことはもうどうでも良くなっていた。


 その後、有給を消化し、実家で退職日を迎えた。
とりあえず、昔の友達のツテを使い、小学生のサッカースクールのアルバイトを始めた。



やりたい事や楽しい事がしたくて以前の仕事を辞めたのだ。
子供たちは学校が終わった後に約2時間、一緒に楽しくボールを蹴る。
そこのスクールは楽しくサッカーをやることが目的だから、やってることは正しいのだが、自分には物足りなかった。

 少し専門的なことを子供達に教えた日があった。
それを観ていた社員に喫煙所に呼ばれ、怒ってはいなかったが、笑いながら
「そこまでちゃんと教える必要ないよ。」と言われた。
「子供たちは遊びに来ているんだから、上手くならなくてもいいの。親御さん達も一種の子供を預けられる託児所ぐらいにしか思ってないんだから。」
自分は「そうですよね〜。」と返しヘラヘラしながら、貰った好きでもないタバコを一本吸った。

正社員だった頃を思い出した。
周りから評判の良い先輩社員と2人になった時があって、その時いろんな話をして、「仕事はね、6割くらいでやった方が上手く回るよ。」と言われた。
自分はその時、少しガッカリしたのと同時に、気持ちがわかる様な気もして深く考えてしまった事があった。あの時と同じタバコの味がした。

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