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『月の満ち欠け』

都内は霙(みぞれ)が降るほど冷えたあとに桜が咲き始めるほど暖かくなる。
気候の情緒不安定。

池袋のジュンク堂で人類学や共同体論の本と一緒に『月の満ち欠け』佐藤正午・岩波書店を購入する。岩波文庫のコーナーで見つけた時は「? この内容で岩波文庫に何であるの?というかグレーの帯?社会科学でもないし・・・」「岩波文庫に入るほどのテーマ性を持った作品なのか?」と疑問をいくつか抱えつつ読んでみた。

読了後に検索してみると、「岩波文庫的」「的」だった。装丁をよくみると帯もグレーではなく金色でタネを蒔いてる人のマークもうっすらと三日月になっている・・・。 遊び心というものか?

大きな話のスジとしては「生まれ変わり」の話。設定としては「よくある」話の流れだ。そして読了した「大雑把な感想」も「そんなに稀有な話ではない」という、あんまり記憶にも残らないと思う。

ただ、図らずも「考えるきっかけ」になった。

「生まれ変わり」として思い浮かぶのは「松枝清顕」だ。『豊饒の海』三島由紀夫の作品。

『豊饒の海』では清顕が20歳を迎える前に死ぬ。親友の本田はその後、出会う人に清顕の脇腹にあるホクロと同じ位置にホクロがあるということで「清顕の転生」を確信するが・・・。

この話は「転生」と思われる人に「前世の記憶」は無い。つまり各々で完結した人生を歩んでいる。昔の固定電話みたいな。

一方、『月の満ち欠け』は「瑠璃」の記憶は引き継がれる。iPhone12からiPhone13にデータを移せるように。

そうすると、人間は何に対して「愛着」を持ちうるのか?という疑問が出てきた。瑠璃という女性が会いたい男性に対して「執念」を見せる。記憶はそのままデータ移行して女の子に転生する。探している男性からすると、あった女の子は昔会った瑠璃ではない。にもかかわらず「あの時の瑠璃」ということがわかる。「瑠璃も玻璃も照らせば光る」。

コナン現象ってことか?見た目は子供中身は大人か。蘭ちゃんはコナンが新一と知ったらどう思うのだろう?


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