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ライダーズ・オブ・ジャスティスの感想。

誰かの幸せは誰かの不幸

デンマークは自転車大国だ。
だから自転車はクリスマスプレゼントにはもってこい。
物語は、仲良さそうな孫とお爺さんが自転車屋で買い物をしているところから始まる。赤い自転車を勧められた孫は青を欲しがった。
注文しても、クリスマスに届くかはわからないと言われるが、孫は意味深な言葉を言って注文をする。

映画ではここから全てが始まったと言える。
この自転車屋は、実は盗難車を売っていた。「注文」と言うのは実際は客の望む自転車を盗むこと。盗まれたのは主人公マークスの娘マチルデだ。
他人が望んだことで誰かの不幸が始まった。
その不幸は連鎖反応して列車事故にまで発展し、その事故で妻は死んでしまう。
妻の最後を観たオットーと言う統計学者が訪ねてきて、この事故が仕組まれたものだとマークスに告げる。マークスとオットーは怒りの矛先を求め、犯人探しを始める。自転車の盗難と列車事故の関係が徐々に明らかになっていく。

正直、日本に住んでると最初のシーンは違和感を感じるけど、デンマークでの自転車泥棒は日本で言うところの車泥棒に近いのかもしれない。
デンマークのお国事情を知るために、ある記事を紹介したい。
デンマークに住む方が盗難自転車を買ってしまう被害体験をnoteに綴ってくれていた。もちろん日本語だよ。
映画を通じて他の国を知る事が僕は凄く好きだ。ぜひ読んでほしい。


むさくて不器用なおっさん達の暴走。

マッツ・ミケルセンといえば、セクシーな役が印象的だけど、時折演じるひげもじゃのマッツも好きだ。そういう時は人間ドラマで魅せてくれる。
今回は坊主でデカくて不器用な父親として出てくる。
仲間は、ダサくて湿度高めのオタク達だ。

セクシーなマッツ


この映画の登場人物は皆、精神的な傷を持っている。
偶然の悪戯による事件、事故で不幸に見舞われた。
「なぜ?」と行き場のない気持ちが募り、その気持ちは暴走して状況をより深刻にする。
偶然に理由を付けようと必死になり、もっともらしい仮説に飛びつく、人によっては、こじつけだって構わないのだろう。
偶然を支配したい。そういう願望。

運命の歯車は狂わない。

妻の死後、教会で司祭が偶然について語る。マークスは認めようとしない。教会にとって「偶然」は「神の意志」と同じ意味だ。
司祭の言葉にあったように「全てが偶然ならば、どうでもよくなってしまう」その「どうしようもなさ」が辛いわけだよね。だから否定する。

同じことはオットーにも言える。偶然を支配しようと膨大なデータを集める。偶然が介在しないチェスを好む。

「運命の歯車が狂いだした」なんてセリフを漫画やテレビで見聞きする。
この「運命」って要は自分にとって都合のいい物語ってことだよね。
自分の人生をコントロールする。なぜか僕たちはそうできると思い込んでる。よくよく考えてみれば、傲慢な考え方だ。
運命の歯車は狂わない。不都合で不条理で不確定なのが運命で、それは予定説のように神が決めたのか、それともただの偶然かは僕らにはわからないし、どうすることもできない。
じゃあ、自暴自棄に投げやりに生きればいいのか?それも違うと思う。

傷をなめ合って何が悪いのか?

偶然が生んだ悲劇の結果、妙な家族が生まれた。クリスマスにお互いのトラウマを慰めるようなプレゼントを贈り合う。カウンセリングセラピーよりも互いの傷をなめ合うような家族ごっこの方が心の傷を癒すのに効果がありそうだ。
マークスはダサいセーターいわゆる「アグリーセーター」を着ている。
彼の心にジョークの感覚が戻ってきた。
ファン的にもかわいいマッツミケルセンが見れて満足なはず。

偶然の悲劇で出会った人々が、新しい家族を形成して癒されていく。偶然は悲劇だけじゃなくて、価値あるモノももたらすんだね。

長々と書いてきたけど、他のレビュアーさんが書いてる方がきれいにまとめてくれていた。

「偶然に傷つけられ、偶然に癒される」
これが最も簡潔にこの映画を表してるよね。
オットーが言ったように、偶然に理由をつけてるのは無意味だ。
でも、偶然は無価値じゃない。
ラストの赤い自転車と青い自転車の少女がひと際、偶然のと言うモノのスケールの大きさを教えてくれる。
そしてなぜか、「まぁ、これでもいいか」と思わせてくれる。
ハッピーとはいいがたい話だったのになぜか僕まで癒されていた。
受け入れがたいものを受け入れたいときにまた観たい映画だったね。

Tips:寒い国のホットな映画

「北欧映画にハズレなし」なんとなく最近そう思う。
勿論、日本語化するにもお金がかかるのから、本国でヒットしたものをローカライズしてるんだし、ある程度の面白さは担保されてるんだけど、それでも面白いのが多い。パッと思いつく三本を紹介したい。
ボーダー二つの世界
スウェーデンのファンタジー映画。でも大人向け。サスペンス要素あり。

ファインディング・ダディ 怒りの除雪車
バカみたいなタイトルだけど、面白い。ユーモアもたっぷりで社会派でもある映画。アクション要素もある。スノーロワイヤルってタイトルで同じ監督がハリウッドでリメイクしてる。

好きにならずにはいられない。
40歳童貞男の話。主人公はライダーズ・オブ・ジャスティスのエメンタール役の人。胸糞がちょっとあるけど、カタルシスが凄いんだ。






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