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「ずる働き」という再現性のない仕事のやり方について

相変わらず仕事がうまくいかない。
現在50人の仲間たちと四苦八苦しながらプロジェクトを進めているけれど、いよいよ50人のスタッフでは足りなくなり、別フロアにオフィスを借り増して、増員を図る必要がありそうだ。

仕事の絶対量が多いのは否定しないけれど、それ以上に仕事の手戻りや連携不足による停滞が多い。何とか改善したいと色々手を打っているけれど、若手が多い今のチームは、経験値やコミュニケーションスキルが不足していて、人数のわりに成果が上がらない状況が続いている。

そんな中でプロジェクトは、自分の力量で何とか業務のオーバーフローを抑え込み、成果を出そうとする、やる気と責任感のある中堅社員に支えられることになる。

彼らは若手をフォローし、上司に改善策を上申し、自らバリバリワークをこなす。30代の中堅社員は働き方改革とは無縁の20代を過ごし、死ぬ直前まで働き成果を上げる働き方で仕事をおぼえ、その経験とスキルを使って成果を上げてくれている。

彼らの頑張りがなければ今のプロジェクトが成り立たない。それはよくわかっている。それでも、そんな仕事のやり方を続けていてよいのか、という自問自答の日々。

彼らの頑張りに甘えて、多少の過重労働には目をつぶって任せておくのが今のプロジェクト成功の一番の近道だし、他のプロジェクトでは当たり前にそうやっている。頑張る人に頑張らせて仕事の成果を上げるのが、これまでの組織の仕事のやり方だ。

やりがい搾取。そう言われて否定できない自分がいる。彼らはそういう働き方で成果を上げながらスキルアップしている。仕事を覚えて自分の仕事が成果につながるようになり、体力もある35歳前後が一番仕事が充実していたと私も思うし、その頃の頑張りを認められて組織の中でキャリアアップしてきたのも事実だ。

でも、その仕事のやり方には、もはや再現性がない。

そういう仕事のやり方を「ずる働き」というらしい。「ずる休み」の逆で、ずるして時間外に働くこと。会社からは残業時間を減らせ減らせと言われ続ける働き方改革後全盛の現在では、「サービス残業」よりも「ずる働き」のほうが感覚が近いかもしれない。他人が見えないところで働いて成果を上げる人たち。それが会社にとってもプロジェクトにとっても良いことだと信じて疑わない人たち。彼らがずるして働いて成果を上げることで会社の業績がかさ上げされ、彼らの見えない努力を含まない形で生産性と人員のバランスが算出されるため、会社の経営指標を狂わせる要因となっている。働き方改革を生きる若手にとって、ただでさえ仕事ができる先輩たちがずるして働いてさらに成果を上げることは、自分のハードルを果てしなく上げる迷惑行為でしかない。


彼らは「自分がやらなくてはこのプロジェクトはうまくいかない」という悲痛な責任感をもって働いていて、その仕事のやり方を正当化している。そして、彼らがやらなければプロジェクトがうまくいかない、というのは本当にその通りなのだ。その厳然たる事実の前で立ちすくむ私がいる。

それでも、このままにしておくわけにはいかない。
これまでのように一部の社員がやる気と責任感で過重労働をいとわずに成果を上げて来た仕事のやり方が否定される世の中になった。10年後も今のような働き方をさせていたら、企業として社会の要請にこたえられないダメ企業の烙印をおされることになるだろう。

私はどうすればよいのだろうか。

一つは、彼らのずる働きを強制的にやめさせて、プロジェクトを失敗させることだ。プロジェクト責任者としてそんなことはできないことはわかっている。社内有数の大規模プロジェクトの責任者として、成果を求められる立場である私がそんなことを言うわけにいかないし、そんなそぶりも見せられない。

それでも「ずる働き」の結果としてプロジェクトを成功させ続けることは、長期的には会社に大きな悪影響を与えるのだということもわかっている。今後再現できない仕事のやり方を今回だけはやって成果を上げる、その仕事のやり方には意味がないのだ。

だから、いま私が組織管理者としてできることは、今の状況を正確に上に伝え、改善を促すことだ。今のメンバーでは仕事が回らない、それを言うことは私のマネジャーとしての資質や組織運営能力を否定することにつながり、私の評価は間違いなく下がることになる。上に伝えるといっても組織運営上、私の上にいるのは支店長と社長だけ。経営幹部にモノ申して、自分の能力を否定し、会社に組織改善を促すのはかなり勇気がいるし、もちろん自分のキャリアにとってのリスクもある。マネジャーを解任されるかもしれない。

それでも私はかまわない。一部の人が悲痛な気持ちで仕事をして成果をあげることでプロジェクトを成立させる、そんな人柱のような仕事のやり方はもうやめなければいけない。

そんな気持ちで、プロジェクトの現状とリスクを分析し、組織体制の改善についての要望書を作成し、経営幹部と組織立て直しの調整を続けている。経営幹部からすれば、黙って仕事をして、部下に大きな負荷をかけてでも成果を上げてくれるマネジャーのほうがありがたいだろう。私は自分のプロジェクトがうまくいかないと騒ぎ、もっと人をくれと騒ぐダメなマネジャーと思われているだろう。次のプロジェクトのアサインはもうないかもしれない。

それでも、再現性のない「ずる働き」をベースとした今の仕事のやり方を改め、適切な組織体制を構築することで「ずる無し」でプロジェクトを成立させることのほうが、長い目で見れば会社にとっても、社員の幸せにとっても必要なことなのだと私は信じている。

今の若い人たちが中堅社員になるとき、そしてマネジャーになるとき。

日本に生きる誰もが「ずる」しなくていい、そんな時代になってほしい、と私は強く思う。



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