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25歳の東京タワー

休みの日は朝6時からロードバイクに乗っている。冬の間はインドアサイクリングしかできないけれど、札幌ももうすぐ雪解けだ。

今日も朝から一時間ロードバイクを回して、そのあとにシャワーを浴びてから妻と一緒に朝食を食べに出かける。今日は家から少し離れたホテルのロビーに併設された24時間営業のブックカフェに行ってきた。

オレンジのドライフルーツが練り込まれたハード系のパンとアイスカフェオレを注文して、待っている間に本を探す。

ブックカフェは雑誌類はあまりないし、本をじっくり読むほど長居することもないので、パラパラとめくってみることができる写真集を見ることが多い。今日もいくつか写真集を引っ張り出してパンを食べながらめくる。

今日行ったブックカフェはなぜか東京の街並みの写真集が充実していて、その中で東京タワーを東京のいろいろな場所から写した写真集があり懐かしくて面白かった。

東京に住んでいると確かに東京タワーはいろいろな場所から見えて、東京に住む人たちの共通の心象風景のようになっている気がする。東京タワーを題材とした写真集や歌や小説や映画がたくさんあるけれど、スカイツリーが東京タワーのそんな役割を担うためにはあと数十年はかかるのだろう。

私が東京に住んでいたのは25歳から29歳の20代後半の5年間だから、私の東京タワーのイメージは20代後半の5年間に限定されている。

私の心象風景としての東京タワー。それはJR新橋駅の汐留口から出て、ゆりかもめの駅に向かう登りエスカレーターの途中で見える東京タワーだ。朝日にきらめく東京タワーを見て、ゆりかもめの駅の脇を通り、再開発中の汐留の空中歩廊を、完成したばかりの超高層ビル群とまだ建設中の廃墟のように見える工事現場が混在する中を築地に向かって歩く。朝日新聞の本社の中を通って築地市場の前に到着。そこが私の目的地、国立がんセンターだ。

がんで闘病後、東京で社会復帰したのが25歳。それから長期生存できるかどうかの一つの分岐点になる5年間、定期検査のためにその道を通い続けた。廃墟のような工事現場も5年もすれば立派な超高層ビルが建ち、超高級ホテルやらIT企業の本社ビルやらが入居して街ができていく。変貌する街のなかで、ゆりかもめの駅に向かうエスカレーターでちょうど半分まで登った場所から見える東京タワーは、何一つ変わることなく、いつも同じようにそこに立っていた。

私が死のうが生き残ろうが、そんなことは関係なく東京の街は膨張し、東京タワーはあの場所に立ちつづけるのだろう。そんなことを思いながら歩く、最先端のようで、廃墟のような街。その入り口からいつも見えた電波塔。

それが私の、25歳の東京タワーだ。


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